『ホール・ニュー・ワールド』から見る翻訳のちから
こんにちは、ヒカルヒカです。
6月7日、ついに日本でも実写版『アラジン』公開されましたね! 6月末に帰国予定なので帰ったらソッコー日本語版を観ようと考えています。楽しみ。
さて、今回はその『アラジン』内の超有名曲、『ホール・ニュー・ワールド』のお話。
『美女と野獣』『ノートルダムの鐘』なども手掛けているアラン・メンケン作曲、『ライオン・キング』にも携わっているティム・ライス作詞。アラジンとジャスミンが魔法のじゅうたんに乗って旅する時に歌われています。
多くのアーティストさんにカバーされているし、テレビの歌唱対決番組でもよく扱われていますので、話の内容をそんなに覚えていない、そもそも観たことがない、という人でも『ホール・ニュー・ワールド』を聴いた事は一度くらいあるのではないかと思います。
では本題へ入りましょう。(ストーリーに支障のない程度ですが、実写版の内容を含むため気になる方は鑑賞後にどうぞ)
日本語版のバリエーション
さて、この曲(に限らず他の楽曲もそうですが)、いくつかの日本語バリエーションがあるのをご存知でしょうか?
一番馴染みがあるのはきっと『アラジン』(1992公開・アニメーション)バージョンだと思います。以下冒頭部抜粋。
見せてあげよう、輝く世界
プリンセス、自由の花をほら
目を開いてこの広い世界を
魔法のじゅうたんに身を任せ
続いて、劇団四季で公演中のブロードウェイ版『アラジン』。
見せてあげよう 本当の世界
何でもできるさ 君が望めば
連れてゆこう 不思議な旅へ
魔法のじゅうたんで 星空へ
最後に、現在公開中の実写版『アラジン』。
連れて行くよ 君の知らない
きらめき輝く 素敵な世界
不思議ぜんぶ その目で確かめて
魔法のじゅうたんで 旅に出よう
ちなみにこのパートの原曲歌詞はこちら。
I can show you the world
Shining, shimmering splendid
Tell me, princess, now when did
You last let your heart decide?
「魔法のじゅうたん」というワードは共通していますが、他は3つに共通する歌詞はありません。また、原曲には「魔法のじゅうたん」にあたるワードはないですね。
各媒体に合わせた歌詞
まずアニメ版の歌詞。他と全く違う部分は二節目の「プリンセス 自由の花をほら」です。アニメを観たことがある方はピンと来ると思いますが、この節にあたる映像は、アラジンがジャスミンに白い花を一輪差し出すシーンです。このシーン、他のふたつにはないんですよね。
次に四季版。ポイントとなるのは四節目の「魔法のじゅうたんで 星空へ」。
こちらの0:55辺りからご覧ください(全部観てほしい)。舞台という限られた場所なので、当然映画のように街をじゅうたんで駆け巡る事は出来ません。アラジンとジャスミンは本当に星空へ向かうんです。キラキラした星たちと大きな満月、途中から舞台上では波の演出もなされます。煌びやかなふたりの衣装も相まって本当に美しい。何度足を運んでも鳥肌が止まりません。些細な歌詞の違いですが、この舞台にぴったりだなと思います。
最後に実写版。こちらはアニメ版と比較したいのでふたつをもう一度引用します。
【アニメ版】
見せてあげよう、輝く世界
プリンセス、自由の花をほら
目を開いてこの広い世界を
魔法のじゅうたんに身を任せ
【実写版】
連れて行くよ 君の知らない
きらめき輝く 素敵な世界
不思議ぜんぶ その目で確かめて
魔法のじゅうたんで 旅に出よう
実写版の方が、アラジンの能動性が高いんです。アニメ版では四節目の「魔法のじゅうたんに身を任せ」で顕著なように、じゅうたんに連れて行ってもらうという意味合いの方が強いのですが、実写版では「連れて行くよ」「旅に出よう」とアラジンがジャスミンを連れていく意味合いが強くなっています。
映像を見れば違いがはっきり分かります。
実写版だと、「じゅうたんを操縦する」アクションが加わっているのです。アニメ版は貼れないのですが、ふたりとも基本的にどこにも捕まっていなくて「なんで落ちないのかな~」と幼心に思った記憶があります(笑)。
だから、アニメ版だとじゅうたんに身を任せるけど、実写版だとふたりが行きたい方へ進むことができるのです。
翻訳ならではの演出
英語版だと、基本的に歌詞は変わりません。ブロードウェイ版だとミュージカルらしく台詞が冒頭に入ったり、細かな歌い方はもちろん違ったりとアレンジは入りますが、根幹は変わらないのです。だから、アラジンがジャスミンに花をあげようが、星空の中だけを浮遊しようが、舵をじゅうたんに任せようが歌詞はひとつなのです。
一方で日本語に翻訳されると、それぞれにとってベストな歌詞が作られます。これって素敵だなあと思うのです。勿論、原語バージョンは大好きですし、特に実写は演じてる役者さん自身の声が聞けるのでしっくりきます。でも、日本語ならではの世界観が演出される日本語バージョンもそれ自身の良さがありますよね。
ディズニー映画が好きな方は聞いた事があると思いますが、吹替え版の台詞・歌は映像と口の動きが極力変わらないように(たとえば、映像が”i"の口をしているのに実際の音声が"u"にならないように)配慮されているそうです。そのような制約がある中で、世界観にぴったり合うことばを探し、メロディに歌詞をのせるというのは想像以上に大変な作業なのだと思います。吹替え版を作っている方々、凄い……。
まとめ
実写アラジンを観た人、または四季アラジンを観た人の中でもしかしたら歌詞の違いに違和感を覚えた方がいるかもしれません。私も、初めて四季版を聴いたときびっくりしました。多分、それが普通の反応でしょう。
でも、もしもう一度観る機会があれば、「何でここにはこのフレーズがあてられたのだろう」という点にも注目しながら観ると、聞き慣れない歌詞も次第に馴染んでくるのではないかな?と思います。日本語バージョンでしか味わえない、翻訳に込められたメッセージを見つけるのも楽しいですよ! 今では劇団四季バージョンのホールニューワールドが大好きです。
実写版観てない方はぜひ劇場へ!
それでは、また。
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