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抜歯が怖い人は読まないでください|横に向かって生えた奥歯の話

今日は覚悟の日である。
といっても、気負いはそんなにないが。

抜歯をする。
右下の奥歯、親知らずだ。
抜くとしたら、そこらの歯医者では出来ないよって言われた程度の歯。
歯茎から真っ直ぐ生えるところを真横に生えた、イカれた野郎だ。

その歯に悩まされてから、何年になるのだろうか。明確に嫌悪を抱くようになったのは社会人になってからだろうか。

食べ物を左の歯で噛む割合が高くなってしまっている。非常にまずい状態。
痛みはないのだが、食べ物が親知らずの隙間に詰まる。
特に、ここ一年は酷い。つまようじ生活を余儀なくされている。そんな生活から抜け出したい一心だ。



ーー今日、歯が自分の口から失われる感想は?
うーん、深いものはないな。
寂しいと思う気持ちはないし、ざまあみろという感情もない。
あるとしたら、『今後の生活が豊かになるといいなぁ』だとか、『右の歯でも気兼ねなく固いものが食べられるといいなぁ』だとか、『後遺症が残らないといいなぁ』だとか。そんなものなのだ。

未知の経験を、恐れていたのはある。
恐れとは、抜くときの痛みはもちろんそうだが、それはそこまで占めるものではない。寧ろ、痛みだけならこんなに悩んだりしなかったはずだ。

自分の恐れは、生活の変化。
生活が悪い方に傾くことを恐れた。
それは、自分という人間が今まで保ってきた生活を今までの水準で送れなくなることが怖かったということだ。

なにを大袈裟なと思うが、事実そういう感情があった。だからこそ、抜歯ひとつでここまで悩んだわけだ。

未知は恐ろしい。
そもそも、抜歯は自分の今の生活水準(=この場合は健康)を上げるための行為なはずなのに。抜歯というものを知らないから、今後の生活が良くなると聞いても、それを素直に飲み込むことができない。
逆詐欺状態だな。いい話を悪いものだと思い込んでしまう状態。
でも、それも今日で終わる。



さて。医科大学校病院。
13:00より。

抜く前に、体温と血圧のチェックがあった。
体温は35.7、血圧は106-53くらい。
まあ正常らしい。

ーーーー

ここからは施術後の記録になる。
抜歯の始まり。

局部麻酔をする。右下の奥歯に麻酔を二回は打ったと思う。もしかしたらそれ以上。
五分ほど楽にして、始まる。

いやね、すごい。
なにがすごいって麻酔がすごい。
なにも感じないんだよね。
たとえばさ、歯をごりごりに削られる感覚とか、麻酔を貫通して感じるはずの痛みとか、全くないわけ。
皆無ってこういうときに使う言葉。

寧ろなにか感じさせてくれってくらい皆無だった。

多分いまはドリルで穴でも開けられてるんだろうなーって思う瞬間があったんだけど、自分の痛覚神経は死んだのかってくらいなにも伝わってこない。

それより、高出力で焼いてるんだろうなってことが嗅覚の方から伝わってきたり。たんぱく質が焦げる臭いがした。

全体を通して、なにをやってるのか分からなかったな。
自分はというと、呼吸を保つのに必死だった。
鼻呼吸と口呼吸を意識して切り替えながら、息が詰まらないように、それだけだった。
唯一手を挙げたのも、痛みではなく呼吸が出来なかったから。口の中の、鼻の近くの方に水滴が溜まって、息ができずに死にかけた(超大袈裟)。

実際の施術時間は、多分20分もかかってないな。
医者もさ、この歯を前にして『さあ頑張るぞ』って感じよりは『あーこんな感じなのね、まあ問題ないでしょ』って感じを受けたし。
つまりただの仕事の流れの内の一つに過ぎないというか。余裕なんだよね。

歯もさ、最終的にコロンと抜けちゃうわけ。ちょっとだけ口の中に血が流れて、けれどそれもおおごとのようには感じなかったな。
今まで、悩んだり苦しんだりしてきた親知らずだからかな。痛くはなりたくない一方で、そんなに簡単には抜けてほしくなかった。
歯を割ったりしてバキバキになるのをちょっとだけ"期待"してた身からすると、なんと平凡なことかと思ったよ。
歯が抜けて、あ、終わったな、というつまらない感想しか出てこなかった。

けどまあ、それでいいんだけどね。
その時、医学の凄さを感じずにはいられなかったよ。全然たいしたことがないように見せてくれるんだもの。
今までうじうじしていた自分が情けないよ。

最後に糸を通してもらったんだけど、それもまあ痛みもなにも感じないわけ。一応、抜歯も糸もはじめての経験だったんだけど、時が消し飛ばされたかってくらい何もなかったな。
むしろ、何もないという体験が、自分がいままで想像していた恐怖を上塗りしてくれた。それはそれでいいことなんじゃないかな。

まとめ。
麻酔がすごかったです。一ミリも痛くありませんでした。短い時間で終わってすごかったです。ありがとうございました。

小学生みたいな感想になってしまった。
いや、すごいとしか言いようがない。

ちなみにこれを書いてる今、麻酔をしてからちょうど一時間後位なんだけど、なんか明確に麻酔が解けてきた感覚を味わうことに。
右の皮膚の神経に少しだけ血が通いだした感じ。腫れが少しずつ引いていく感覚。噛んでいるガーゼが少しずつめり込んでいくような錯覚。
……もしかしてここから痛み、来る……?

いや勘違いだ。ガーゼがめり込んでいくのはガーゼが口内の水分を吸って小さくなったからだよ。
その感覚を麻酔が解けていく感覚と勘違いしたかな。



とりあえず家につく。
なんていうか、今は穏やかだ。
自分の顔を鏡で見てみたけど、ちょっと唇が腫れてるくらいで別に普通の顔をしていたし、口の中に溜まった唾液も透明だった。
一回目のガーゼもそんなに赤黒く染まっているわけでもなく、二回目のガーゼを今はとりあえず噛んでる。

麻酔もまだ続いてる。
もしかしたら麻酔にも何本か種類があって、そのうちのいくつかは切れている、みたいな特殊な状態なのかもしれないけれど、とりあえずはよくわからん。

まあ、ゆっくり過ごせばいいんじゃないですかね。このあとは気になったことや気づいたことがあれば追記する形にするよ。

ーーーー

夕方。少しお腹がすいたのと、唐突に痛みが出てきたのと。inゼリーを胃に入れ、痛み止めを一錠飲むことでとりあえず解決。

まあまあ長い時間ガーゼを噛んでて(なんなら合計4時間くらい)、さすがにもういらないんじゃないかと思い、いまはフリー。
少し調べてみたが、通常なら最初の30分くらいで止血が出来てて(圧迫止血)、もう少し出血が続くようなら延長する(二枚目)、くらいのものらしい。つまり、もう十分だな。

抜歯後にするべきことを調べていたら、とりあえず口を濯ぎ過ぎるなだとか指を突っ込むなだとか、それくらいのものなので特段気にかけることはない。

抜歯のために全身麻酔という選択肢もあったらしい。
とんでもないな。
局部麻酔最高。
というかまだ麻酔が切れる気がしないんだが(5時間ほど経過)。



ふとした気づき。
自分の親知らずってさ、痛みを感じなかったのは『神経に干渉していないから』なんじゃないかな。
https://www.shika-tanaka.com/about-wisdom-teeth/question-wisdom-tooth/
ここを見て思った。

生えかけのとき、高校生くらいのときは痛かった記憶があるんだよな。きっと神経に接していたのだろう。
でも大学生~今の今までは特に痛みも感じなかった。歯が神経から完全に孤立していたからなのではないか。
だから抜くときも痛みとか全くなかったのかもしれない。

逆に、神経に接している人は最高レベルの麻酔をしても叫びたくなるほどの痛みを味わうことになったのでは? と。
親知らずを抜いたらアホみたいに痛いという話は別に都市伝説というわけでもなく、実体験なはずなのだから。

そう思い、Twitter(X)で検索。
親知らず 死ぬかと』で検索をしてみた。
すると、これが結構短い時間の間隔でヒットしてしまうのだな。やはり、そういう人もいるというのが事実だ。

また別の検索もしてみる。『親知らず 全く』。これもまあまあヒットするのである。自分はその中の一人だったということだ。
抜歯で死ぬかと思った人もいれば、やはり痛くなかった人も多数いた。

つまり、自分の経験によるファクト(事実)は、真実という大きな実態の中のほんのひと欠片でしかないということ。
自分『は』痛くなかった、というだけのことなのだと。実際は痛い場合もある。そういうことを再認識する必要がある。

最近、よく考えることの一つ。
なにかの物事に対して、相対する二つの事実が判明したときに、『両方とも正しい』という可能性があるのだ、ということ。

分かってはいることだけれど、しかし人間は一つの事実を持ち得たときに、それ以外の事実を排除することがあるからね。

両方とも正しいという見解ってのは意外と出来ない人もいるし、その目線は大事なんだと思うよ。

で、自分の場合は神経に接してなかったから痛くなかったとしてだ。
残り三本の親知らずがあって、今のところは抜く気がしないのだけれど、不意に神経的な痛みを感じることがあれば迷わず抜いた方がいいな。
それだけはこうした記録としてじゃなくて、頭の中で覚えておきたい。

医者に、右上の親知らずは抜かないの? ってやたら言われるし、右上に関してはそういう運命があるかもしれない。
左の二本はそういうのは多分ないな。医者に言われたことがないし、噛み合わせが完璧だから、今のところは全く心配していない。

ーーーー

夜10時。さすがに麻酔は切れてきた。
ほんの少し残ってるかな、程度。

痛みはないし、ガーゼも必要ない感じだから普通に過ごせる。
もちろん抜いた場所に違和感はずっとあるけど、大丈夫だな。
薬を飲んで寝ましょう。
明日の朝、元気でいますように。

なにかあったらここに追記するかな。

(なにもなかったので手記はここで途切れている)




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