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【ライブハウスの人】 第3回/MEG(大塚ウェルカムバック・ブッキング担当)
ライブハウスの人〜音楽を愛するライブハウススタッフに話を聴いてみた
コロナ禍で「ライブハウス」はとても厳しい状況を迎えています。それでも、そこで働くスタッフたちは創意工夫と努力を重ねながら、懸命にバンドマン、音楽ファンの居場所を守ってくれています。彼らが培ってきた優れた技術や仕事への情熱は、なかなか世間には伝わっていないようなので、あらためてインタビューを通じて、「ライブハウスのスタッフってスゲェ!」と思ってもらえたらと、この企画を始めました。
ライブハウスで働くワーキングマザー
MEG(大塚ウェルカムバック・ブッキング担当)
第3回目は、大塚ウェルカムバックの副店長でブッキングマネージャーのMEGさん。ライブハウスで働く女性スタッフは多いですが、「結婚・出産・子育て」を行い、勤め続けている女性は少ないのではないでしょうか。さらにご自身でもバンド演奏を行うなど、とてもアクティブに活動しています。今回、MEGさんにライブハウスで働くワーキングマザーとしていろいろお話を聴いてみました(2021年2月8日取材)。
●大塚ウェルカムバックで働き始めたのはいつから?
MEG 2012年7月からなので10年近く働いています。元々、大塚レッドゾーンの最後のスタッフだったんですよ。レッドゾーンが2012年6月30日で閉店となる時、当時の大塚ウェルカムバックの店長さんがレッドゾーンのスタッフ3人をこちらで雇いたいと引き受けてくれて、そのまま働いています。10代は地元・高崎のライブハウスでバイトをして、上京してから大塚レッドゾーン、そして大塚ウェルカムバックといった具合です。いずれも職に困ったタイミングで声をかけられ、ライブハウスとは縁があるのかもしれませんね。
●たしか2013年、神楽坂エクスプロージョンに出演してた「キメラドロップ」のドラマー・MEGさんとしてお会いしているので、そのころには、すでに働いていたんですね。バンド活動とライブハウス業務はどうやって住み分けをしていましたか?
MEG その頃は音楽生活が中心で、まだアルバイトでバンド活動を優先しながらシフトを入れてました。
●その考え方が変わったきっかけは?
MEG 同じくレッドゾーンから移った敏腕ブッキングマネージャーで小見山さんという女性が店長になって、私にイベントを組んでみないかと言ってくれました。実際にイベントを組んでみたら楽しくて、仕事への意識が変わりました。しかし、小見山さんが病気で急逝し、私が店長を引き受けることになったわけです。キメラドロップも活動頻度が落ち着きはじめてた時でもあり、私の生活はお店中心になりました。
「結婚・出産・子育て」で参考になる人がいない
●私が知っている範囲では、ライブハウスで長年働いている女性の数は少ないのかなと思っていて、さらに子育てしながらの女性は聞いたことがありませんでした。
MEG そう、周りに同じような人がいないんですよ。1人だけライブハウス経営をしている女性で子育てしている人はいますが、それ以外でライブハウスの社員をやりながら「結婚・出産・子育て」を経験した女性がいなくて、参考にできる人がいないの! 妊娠期間中は店長だったので、夜も通常通りに勤務していて、受付にお腹が大きい妊婦が立っているから、お客さんも演者さんもビックリ(笑)。
●それは驚きますね(笑)。
MEG いま思い返せば、すごく周囲に気を遣わせていたと思いますよ。当時は店内は喫煙可で、時代的に禁煙の流れではありましたが、演者さんが今日は禁煙でいきましょうと言って気遣ってくれました。
●一緒に働くスタッフさんたちはどういった反応でしたか?
MEG その当時のスタッフにはすごく助けてもらいました。スタッフ間で「店長からの引継ぎノート」というのも作られていましたし、当時は私1人がブッキングをやっていたから、それを埋めるために現場のスタッフは大変だったと思います。出産で仕事時間にも制限が増えたので、当時のキッチン担当チーフに店長を代わってもらい、私は副店長兼ブッキングマネージャーになって現在に至るわけです。また、会社としてもライブハウスを始めて20年、スタッフが結婚・出産して勤務するケースがなかったので、新たに制度を作らなければと、イチから見直して、産休や育休制度も整えてくれたのは嬉しかったですね。
●ご家族はライブハウスで働き続けることに何か言いませんでしたか?
MEG いいえ、むしろ働き続けられるのはありがたいと。ここで辞めて、子育てが一段落してから再就職を探すのは難しいと思います。長年ライブハウスに勤めていましたと言っても他業種では就職には何にもプラスにならないし(笑)。会社からも辞める必要はないと言ってくれたのは大きいです。本当に家族にも会社にも恵まれてますね。
保育園が決まるまでが大変だった
●お子さんが生まれてから苦労したことはありましたか?
MEG 保育園の入園でつまずきましたね。私は8月に出産して、産後の育休を取らず、その4カ月後にはライブをしてたんですよ(笑)。ライブをやりつつブッキング業務も少しずつ元に戻していて、その期間は超短時間での労働だったんです。それが産前の労働時間を無効にしてしまい、保育園に入園させる際の優先順位が下がってしまいました。やはり園の一次募集では落ちてしまい、ダメ元で二次の小規模園(0〜3歳児まで扱う保育園)を希望したら何とか受け入れてもらえました。その間、働きたいのに働けない状況だったから、これが1番大変でしたね。先日、3歳からの転園先が決まってホッとしているところです。
●たしかに保育園の問題は大きいですね。預けてからはどうですか?
MEG 保育園で預かっていただいても、保育園から「熱が出ました」「中耳炎にかかりました」と連絡が来ては、その都度、スタッフLINEに「娘が熱を出したのでお休みします」みたいなメッセージを送ることもしばしば。この子は小さい頃から、ここに連れて来ているから、スタッフみんなが自分の子、孫みたいに思ってくれていて、状況を理解していただいているのは感謝しかありません。
●昨年のコロナ禍で変わったことはありますか?
MEG 5月にウェルカムバックの20周年だったから、たくさんの企画を準備していたのですが1本も実現できませんでした。他のライブハウスの状況を見ると次々にライブ配信を始めていて、コロナ禍が明けても配信と観客入りでの形態は残るだろうから、私たちも始めないとダメだろうという結論に至りました。でも、お金がなかったのでクラウドファンディングを立ち上げ、みなさんの力で達成できました。
配信に関する機材が何もなく、何から始めればいいのか誰もわからない状況でしたが、スタッフがそれぞれ情報収集をしてシステムを組みました。お店で購入したのはスイッチャーと4Kカメラ1台だけで、他の機材はスタッフの私物を持ち出しです。それで7月末から、何とか配信をスタート。配信担当は私たちがやっているので、最初はまったくの素人。いま4人のスタッフ全員がスイッチャーを操作できるようにはなりました。でも、全員が同じ仕事をできるようになって結束力が高まった気がしますね。
●MEGさんにとってライブハウスとは?
MEG 私にとっては「家」かな(笑)。もちろん大事な家族との「家」も1つなんですけど、同じ気持ちや志を持った人が集まって1つのことを作っていくのがライブハウスで、いつでも「家」のように待っていてくれる場所じゃないかと思うんです。私たちスタッフはいつでも玄関を開けて待っていて、「おかえり」と言ってあげられたらいいな。ここで8年間、育ててもらって、そう思えるようになりました。10代の頃はライブハウスは足掛けぐらいに思っていましたが、まさか、骨を埋めるような場所になるなんてね(笑)。
まとめ
ライブハウスで働きながら子育てをしているMEGさん。女性とライブハウスの職場環境について話をしていたところ、こんなことを話してくれました。「ライブハウスで働く、働きたい女の子たちにとって、ライブハウスももっと働きやすい職場になるといいなと思います。好きだからお給料が安くても我慢という時代ではないですよね。自分の能力を活かして、それに見合うお給料や待遇が得られる環境が増えるといいですよね」。これから、ライブハウスで女性スタッフが活躍しやすい環境が広がればいいなと思いました。