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【ライブハウスの人】 第2回/ニシヅカ ジョン(秋葉原クラブグッドマン・照明&PA担当)
ライブハウスの人〜音楽を愛するライブハウススタッフに話を聴いてみた
コロナ禍で「ライブハウス」はとても厳しい状況を迎えています。それでも、そこで働くスタッフたちは創意工夫と努力を重ねながら、懸命にバンドマン、音楽ファンの居場所を守ってくれています。彼らが培ってきた優れた技術や仕事への情熱は、なかなか世間には伝わっていないようなので、あらためてインタビューを通じて、「ライブハウスのスタッフってスゲェ!」と思ってもらえたらと、この企画を始めました。
グッドマンの鉄砲玉
ニシヅカ ジョン(秋葉原クラブグッドマン・照明&PA担当)
第2回目は、秋葉原クラブグッドマンで照明とPAを担当しているニシヅカジョンくん。ジョンくんとの付き合いは古く、在りし日のテクマ!のワンマンライブでジョンくんは専属照明担当、私はスチール撮影として一緒に関わってきた10数年来の仲。でも、じつはお互いのことをあまり知らず、この機会にいろいろ聞いてみようと思います。現在、グッドマンの中核スタッフとして照明以外の業務も行っていますが、今回はステージ照明のことを中心に、ライブハウスの仕事とは何なのか話してもらいました(2021年2月4日取材)。
初日に決まった「ジョン」の名前
●付き合いは長いですが、そもそも「ジョン」って名前はどこから?
ジョン グッドマンで勤めた初日、気合を入れて、自分ではイケてると思っていたシャツを着て行ったのですが、そのシャツに「JOHN」って大きくプリントされていて、それから「ジョン」と呼ばれるようになりました(笑)。深い意味はないんですよ。
●ライブハウスの仕事に関わったきっかけは?
ジョン ボクは音響の専門学校に通っていて、卒業間近になると音響会社やライブハウスで実習に行くようになり、自分はバンドが好きだから、働くならライブハウスだと決めていました。ちょうど秋葉原クラブグッドマンがスタッフ募集をしていたのがきっかけです。それが2003年なので、もう17年! いい選択だったんでしょう。
●個人的にジョンくんは「照明」の印象が強いのですが、照明担当になったのはどうして?
ジョン グッドマンでは、アシスタントからスタートして、ステージの流れや演出について照明の目線から学び、それからPAへ進むような流れがあります。
●私と出会ったのが、2006年ごろだと思うので、ちょうど照明担当として活動し始めた時期だったわけですね。その出会った場所がテクマ!のワンマンライブ。専属の照明になったのはどうして?
ジョン 元々はボクに照明を教えてくれた先輩がテクマ!の専属照明をやっていて、その先輩が辞めるのを機にボクが2代目を譲り受けました。何よりテクマ!さんのこと好きだったので、照明をやりたいなと思っていました。
他の現場や外部の人から学び、自分の引き出しを増やす
●照明で心がけていることは?
ジョン ボクが教わったのは、Aメロ、Bメロ、サビの変化をわかりやすくすること。これが基本で後輩たちにも同じように教えています。あとは曲と照明がリンクする瞬間を意識しています。当日に初めて聴く曲でも、どこかで合わせられるタイミングがあるはずなので、それを1つでも多く見つけることです。事前に資料をいただいていると聴き込んで、このタイミングでこういうライティングができるなとかアイデアを考えます。でも、たまにリハーサルで照明を合わせると、やりすぎてしまって本番よりもリハの方が良かったなんてこともありますね。
●何か仕事での思い出はありますか?
ジョン 始めた当初は明るい色調でわかりやすく、ちょっとポップな照明から入ります。経験が少ない頃はカッコいい系のバンドに合わせる照明のバランスを作り出すのに苦労しました。当時は自分でもこのバンドにはポップ過ぎると思っているけど、いまの技量ではこれしかできないんだよなぁって。ライブ映像や先輩の仕事を見て参考にしながら研究してましたね。
●私がクラブグッドマンの、ジョンくんの照明を好きなのは、ライブ撮影で狙ってるタイミングでバッチリと照明が変わるところ。照明の担当者によって、リズムの前ノリ、後ノリみたいなタイミングのズレが若干あるんです。こちらは照明に合わせてシャッターを切るから、このタイミングがじつは重要だったりします。
ジョン 切替スイッチを押してから照明機器が反応するまで若干のタイムラグがあるから、リズムとジャストに切り替えると微妙に遅れることがあります。先輩に言われたのは、ホール内の映像モニターは実際より遅れて映し出されているから、少し前ノリを心がけた方がいいということ。それを意識しながら長年実践しているうちに腕が磨かれたのかもしれません。
●テクマ!のワンマンではグッドマン以外のライブハウスでも照明をやってましたよね。フライヤーには「照明=ジョン(人間)」って記載されていたし(笑)。
ジョン 他の現場を見ることができたのは勉強になりました。事前に会場から「照明のセッティングをどうしますか?」と聞かれますが、ボクはそのままの配置でやってます。そのライブハウスでベストな配置になっているはずだから、それを活かした方がいいはずなので。逆にグッドマンに外部の照明さんが来て操作することもあって、こんな使い方もあるんだと自分の「引き出し」が増えましたね。
コロナ禍が新たな挑戦のきっかけに
●昨年2020年の緊急事態宣言で店舗営業から配信に切り替えましたが、通常ライブと配信の違いはありましたか?
ジョン 4月から配信を始めましたが、最初の頃は試行錯誤の連続でした。映像の場合は少し人物の照明を明るくするようにしました。通常のライブ照明だと、人間の目で見るとそうでもないのですが、カメラを通すと暗く感じるのです。PAもそうですが、照明でも映像にした場合は違いがありましたね。状況は厳しいですが、新たな挑戦の機会があったのは良かったです。通常ライブができるようになったら、以前よりも細かい表情がつけられるかなと思います。
●ジョンくんにとってライブハウスとは?
ジョン 美術館や映画館は、すでに完成された作品を発表する場じゃないですか。でもライブハウスは、リアルタイムにその場で作品が作られているのかなと。出ている演者さん、お客さん、ボクたちスタッフが、それぞれの想いで作品を受け止められるのもライブハウスならではじゃないですかね。
まとめ
ライブ写真にとって照明はアーティストの表情の次ぐらいに大切な存在です。ジョンくんは、私が撮りたいタイミングにピタリと照明を合わせて、ライブハウスのプロの仕事とはこういうものなんだと思わせてくれた最初の存在かもしれません。きっと、お客さんにとっても、照明によってライブの印象が変わったという経験を持つ人も多いのではないでしょうか。煌びやかなステージ照明を操る存在のことを、もっと多くの人に知っていただけたら幸いです。
この記事以外に、2020年10月に公開されたジョンくんのインタビュー映像もあるので、そちらも併せてご覧ください!