春琴の佐助 佐助の春琴
イクニプロデュース Reading in the dark『春琴の佐助』の初日、白藤回を見てきました!
朗読キャストが2チームあって、白藤回は盲目のお嬢様春琴を堀江瞬さん、使用人の佐助を伊東健人さんが演じています。
谷崎潤一郎 の『春琴抄』をベースに再構築されているという感じでした。
大昔に一回読んだ記憶はあるのですが結構うろ覚えだったのでほぼストーリー初見まであった。
私自身は幾原監督の作品は熱心に追っているわけではないのですが、朗読劇も手がけられるんだなあ、
あのいわゆる「イクニ的」な描写って、実際に舞台と生身の人間という媒体を用いるとどんな感じになるんだろう?と気になっておりました。
結論から言うと2024年に観劇した舞台や朗読劇の中で最も衝撃的というか、
舞台という表現手段で観客としてここまで明確に「巻き添えにされた」ということを体感したのは初めてでした。
2024年ベスト観劇体験でした、
でも…………もう一度見るのは無理かもしれない…。
以下ネタバレ注意!配信を買いましょう!
上映前に監督自ら「ダークと標しているだけあって暗闇が肝心なので、絶対にスマホやデジタルウォッチはここで切ってね!
まだ間に合うよー!☺️切ったかな?だいじょぶかなー?☺️」とほんわかアナウンスされる。客席ややほっこりムード。
私はこの時初めて「タイトルにダークってついてるんだ…」と知ったのですが、マジでちゃんと確認して来いと言う感じです。
配信だと大丈夫なのかもしれませんが、なんと客席の照明が落ちてからほぼ10分間ほど?真っ暗闇に閉ざされます。
絶対に暗所恐怖症は来てはいけない舞台だ。
劇場内の時計も非常灯も消えて、席の小さな避難誘導灯がはっきり見えるくらいの闇。
照明卓?は後ろにあるので、客席やや後ろにいた私にはそこから漏れてくるその微かな光が少し心の支えになったのですが、
本当に前の方に座ってる人ってマジで真っ暗だったんじゃないんだろうか……。
その10分間、ずっとごぼごぼ、どうどう、といった水音が鳴り響いているのです。
私は本当に恐ろしくなって、田舎の山奥で灯りもない向こうから聞こえてくる大きな渓流の音、それに飲み込まれるんじゃないだろうかということを考えて、なんかひたすら息苦しく辛くなってました。
10分間の間に少しづつ声が聞こえ出したと思っても全く明かりは見えず、早く浮かび上がりたい、早くなんとかなりたいと願うばかり。
客席の照明が落とされるということは、すぐに舞台側が眩しくなることだと、そしていつかは物語が終わって客席にまた明かりがつくという約束だったんだ、
今までそれに無意識に甘えて観劇してきたんだなあ……と思って、
まだなんも始まってないのになんでここまで追い込まれているんだろうと我ながらワロタ(急激)
要するに光の届かない暗い水の底に潜っても、すぐに水面に戻れるもんだと思っているんですね。
後から考えるともう二度と浮かび上がることはできない、光に再開できない二人の追体験を強制的にされているという…。
ようやく物語が始まると、薄暗い明かりの灯されたステージの上にお嬢さんの上等そうな着物をお召しになった堀江さんと、
丁稚の着物をお召しになった伊東さんが立っているのを目の当たりにでき、一安心、
人間だーーー!!!!!!(XJAPAN)人間が立っている!と思った。
そして話を進めるごとに一枚一枚と巻き散らかされていく台本。なんか物語は二人の間にだけ横たわっているのであって、済んだことには何も用が無いみたいな感じで怖かった。
堀江さんって怒鳴ってもか細い声を出しても折檻しても、演技が完璧に気難しいお嬢さんで…ていうかマジで怒鳴るたびに佐助と一緒に泣きそうだった。
佐助の心の空洞は春琴様から溢れくる激情こそが埋めるからそれでいいのでしょうが…客席全員で説教されてるみたいな…。
あまりにも春琴と佐助の二人の世界がどんどん加速していくので、たまに現れるスズメ(イクニ作品における狂言回し)が心の支えだったチュンねえ…。
春琴と佐助の関係はかなり原作より削ぎ落とされて、それゆえに歪な愛が研ぎ澄まされてどんどん底が見えなくなっていたように思えます。
佐助に似ているが頑なに春琴様が父親不詳と言い張る息子とか、その後二人の元に来た女の子の丁稚なんかはカット。とにかくひたすら二人だけの世界。
お前は道具だ。はい。感情を持つな。はい。意思を持つな。はい。お前は道具だ。はい。感情を持つな。はい。意思を持つな。はい。のどんどん加速する繰り返しで、
客である我々が二人から振り落とされていく…。
加速しすぎて一定のところまで行って、ぴたりと止まっている(ように見えた)。
外から見て「あいつら、気持ち悪い!」とバッサリ言われてしまうほどの。
気持ち悪い〜!と外野から言われたって春琴様には佐助さんが、佐助には春琴様がいて、互いの間だけの言葉で事足りて、
音曲があって、光が内側から溢れていて、それで完結していたのだと思います。
よかったンゴねえ〜
ぎゃあああああああああああああああああ
どうして客をこんなに虐めるんだ!!!!!!!!!!!!
激烈フラッシュで目を灼かれたショックなのか、春琴様のこの世の限りの痛みを尽くしたような絶叫のせいなのか、佐助さんの悲痛な慟哭のせいなのか、
もう何に苦しめられているのかわからず、もう辛い目に遭いたくない…と思ってこの辺から自分で俯いて、自分で目を閉じて、自分を守りながら朗読を聴いていた……。
すいません!佐助さんより行動を一歩リードしてしまいました!照
マジ関係ない話でゴメン!なんだけど今日縮毛矯正かけてさあ。髪とか結べないから俯くと髪がダバっと目の前にかかっちゃって、目を開けても前が見えないの。
目を開けても前が見えなくて本当に恐怖した。何勝手に演出追加してんだお前!
佐助さんが春琴様!大丈夫です!ちょっと待っていてください!😄て出て行った時はなになに〜?と思ったのに女中部屋から針を
あーーーーーーーーーーーワーーーーーッ!!!!!!!!!
本当に……辛くて…両腕で自分をかき抱いて脂汗を流していて…
隣で担当さんも観劇していたのですが、「あの瞬間隣の席から明らかに肘樹さんの緊張がすごいのが伝わってきた…」て言われて照れたのですが
本当に……辛くて…。
(漫画なら見開き左ページの左下のめくりのコマで直前まで描いて、ページめくったら4ページくらい真っ黒の見開きとかにするのに…)とか考えてた。
必死に気を逸らせようとしていた健気な私であった。しかし、舞台って…空気…音と光景だから…逃げ場がない…。読み飛ばせないのであった…。
春琴様と佐助さんはあの瞬間本当に同一になって、主人と道具という対等(谷崎世界観的には道具側が主人に主人でいてください!と要望しているので対等。主人目線は不明な模様)で一対の存在になって、本当に互いが互いでぴったりと心が埋まったのでしょう。
私を見つけて、というキーワードは、水の底から掬い上げてほしいということではなく、たぶん底まで降りてきて一緒にいてほしいということだったのかもしれない…。
上から引っ張り上げられるのは与えられる救済で、屈辱ですが、隣にいてくれるなら分かち合いだものな。
春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!春琴様!佐助!
永遠に終わらないのでは無いかという絶叫の呼応、泣き叫び探し求めるような呼応、怒りと慰撫の呼応……。
水圧でひしゃげたような声が、死者が話しているような声が、
お前は道具だ。はい。感情を持つな。はい。意思を持つな。ものとしていろ。はい。お前は道具だ。はい。感情を持つな。はい。意思を持つな。はい。の繰り返しでどんどん若返っていくのが恐ろしかった。
来い、
そして並び立っているお墓。
なんか多分あの墓には二人はいないんだろうなと思った。
劇場の扉が開いて、そして明かりがついて、そこから1、2分客席の誰一人として何も言えず拍手もできず、沈黙と息苦しさに支配されていてすごかった。
もう煌々と明るくなったのに、春琴様と佐助は二人で閉じていて、そこから叩き出された衝撃で痺れているみたいな…。
水面に上がれて嬉しいのに全然嬉しくなくてまだ息が詰まっているみたいな感覚。
最後にようやく「以上で終了となります」というアナウンスがあり、拍手でよろよろと劇場を去ることができました。
キャストのカテコ等一切なし!潔い!
いやあ………辛かった……。
辛かった、助かった…という感情で劇場を去るのは初めてでした。
先週READING LIVE 2024「幻視探偵 -笹嘉神島の殺人-」 を観たところだったのですが、
あれは朗読劇とは言ってもリーディングライブ。
普通に舞台作品に出てくるような大掛かりなセット、映像演出、アンサンブルに小道具とかなり視覚的なアプローチがされているコンテンツです。
それを観たばかりだったので、一転「視覚情報を強制的にコントロールされる」という朗読劇体験がショッキングすぎて落差で体がハチャメチャになりました。
ah 少し温度差がデカすぎているよ……
しかし、平面的なアニメではなく立体的な舞台という表現方法を幾原監督が取った時、こうなるんだな〜と…。
アニメだとモチーフをリフレインで散らばらせることが多いんじゃないかな?と思うのですが、
舞台という、人間を通して行うリアルタイムの表現ではそういうのがなくてかなりストレートな手腕に感じた。
これをマチソワで演られるということなので、キャストの皆さんも、連チャンするというファンの皆さんも本当に頑張ってほしい、
元気に帰ってきてほしい そう思った。
原作の『春琴抄』って結構被虐側のエゴというか、佐助の「春琴様はこうでこうで素晴らしくて、こうでなくてはいけなくて、私を支配してくれるところがよくてえ…」みたいなところが書かれているのであのさ~…となるんですけどその辺バッサリ描いていないおかげで余韻がありましたね。
「春琴様は結婚してもいいかな~って折れかけたこともあったけど…そんなん私の好きな春琴様じゃねえから…」て佐助自体がわかってる、つまり互いにロールプレイをやっているということに自覚的と言うか。え~…。
てか春琴様は結婚してもいいかなーって思っちゃってるのに、まあ自分の生来の意地もあろうが佐助のために矜持ある主人であり続けてくれたってことで、やはりSってserviceのSなんですよ。佐助のヤロ~~~!!!!!(怒るなよ)
まあ結局、春琴様も佐助のために「春琴」をやってくれたんだよね…。
全然関係ないけど北品川ってマンスリー借りてた時しょっちゅう散歩してたエリアだからセンチになりました。
いや…ホント……観てよかったね〜!
でももう…ゴメンだね〜!!!(正直者)