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豊前国紀行 (24年8月)

 2024年8月25日、フォロワーさんの案内で福岡県の旧豊前国地域を巡りました。私は福岡県出身者ですがこの地域には馴染みが薄く、ほとんど訪れたことがありませんでした。しかし福岡県の歴史を学んでいるうちに、香春岳や豊前国府跡、そして幕末維新期の小倉藩に関するものなど興味深い史跡がたくさんあることを知り、現地に行ってみたいと思っていたのです。 
 今回の旅の移動は車でしたが、ローカル線の駅もたくさん訪問しました。では、長くなりますが旅の思い出を。
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[キーワード]
 ・香春岳・石灰石・セメント・採銅所
 ・糸田貞義・少弐頼尚・少弐冬資・懐良親王
 ・三四郎(夏目漱石)
 ・小倉藩・香春藩・豊津藩・豊津県・小倉新田藩
 ・千束藩・千束県・中津藩・豊前裏打会
 ・平成筑豊鉄道・日田彦山線・カントリーサイン
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飯塚から糸田町へ(糸田城跡)

 朝7時半、私たちは飯塚市内で合流し、国道201号を通って早速豊前国へと向かいます。烏尾峠を越えると田川郡糸田町に入ります。

●糸田駅(平成筑豊鉄道糸田線)

 最初の目的地は糸田城跡。糸田駅近くの小高い住宅街の中にあります。

●糸田城跡

 糸田城は、鎌倉時代末期の豊前国守護・北条貞義が拠点にしていたとされる場所です。貞義は糸田荘を領し、糸田貞義ともよばれます。1334年、兄の規矩高政とともに建武政権に反旗を翻しましたが、少弐・大友氏により鎮圧されました。

 城跡には墓碑・供養塔が建てられていて、貞義公を誇りに思う地元の人々の気持ちが伝わってきました。


香春町へ(香春岳・香春藩庁・採銅所)

 糸田町を出発し田川市を通って田川郡香春町に向かいます。道中ちょこちょこ見える香春岳にワクワク…。

●田川後藤寺駅
(後藤寺線・日田彦山線、平成筑豊鉄道糸田線)

 

●田川伊田駅
(日田彦山線、平成筑豊鉄道伊田線・田川線)

二ノ岳と三ノ岳…?(田川伊田駅前)
田川市!(国道201号)
香春町!(国道201号)
一ノ岳と二ノ岳…!

 途中車内から見えるものに心を惹かれつつ、まずは町の北にある採銅所地区へ。

〈採銅所〉(さいどうしょ)
 香春岳(三ノ岳)から銅が採掘されたことにちなむ地名。「豊前国風土記」には香春岳に銅の存在することが記され、大和国東大寺の大仏鋳造、長門国鋳銭司にもこの地の銅が送られている。

『角川日本地名大辞典40福岡県』

 採銅の史跡はいろいろあるようですが、今回は時間の都合上、一箇所だけ訪問しました。

●清祀殿

 銅の精錬・神鏡の鋳造が行われた場所だそうです。

 そして、以前からずっと訪れたかった採銅所駅へ。

●採銅所駅(日田彦山線)

 とても良い雰囲気の駅舎です。

●採銅所村役場跡

 採銅所から南へ。

●田川郡役所跡・香春町役場跡

 香春町には多くの史跡が存在しますが、中でも特に興味深いのが香春藩ゆかりの地ではないでしょうか。香春藩というのは長州征討後の小倉藩のことです。

〈幕末の小倉藩〉
 第二次長州戦争において単独で長州藩と交戦した小倉藩は、最終的に小倉城を焼き(1866年8月)、企救郡を経て田川郡香春に藩庁を置いた(1867年3月、香春藩の成立)。しかし香春の藩庁は一時的な措置だったため、1870年には仲津郡錦原村に藩庁を移した(錦原は豊津と改められる。豊津藩成立)。
 そして1871年7月、廃藩置県により豊津県となる。

『角川日本地名大辞典40福岡県』
※北九州市立いのちのたび博物館には、
小倉藩・香春藩・豊津藩の印が展示されている
(撮影:2024年9月5日)

 香春に藩庁が置かれたのはわずか数年でしたが、その痕跡は一ノ岳麓の秋月街道沿いに今もなお残されています。

●香春藩庁跡

●香春藩庁門

小笠原家の紋が

 町の中心部へ。

●香春駅(日田彦山線)

以前九州鉄道記念館で購入した駅名標キーホルダーと一緒に
待合室に青春の門のポスター
予習を兼ねて筑豊編だけ読んだのですが、
すごく面白かったです…!

 ちなみに、私が香春町を訪れたいと思った一番の理由が、南北朝時代に北朝方の少弐冬資が香春岳城に籠って南朝方と戦っているからです。

香春町歴史資料館の年表にもちゃんと少弐冬資

 麓から香春岳を眺めながら、その昔ここに冬資がいたのだなあという感慨に浸っておりました。

香春駅前から香春岳を眺める。
一ノ岳の石灰石採掘の歴史も興味深い…。
セメント工場かっこいい…!

 最後に、少し気になっていた史跡に寄りました。

●懐良親王歌碑
 駿河なる富士の高根と名のみきゝ
  香春の里に富士を見るかな

 香春の里の富士とは、標高337メートルの小富士山のこと。登山ルートに「懐良台」なる場所もあるようです。


みやこ町へ(豊前国府跡・国分寺)

 国道201号に戻り、仲哀峠を越えると京都郡みやこ町に入ります。みやこ町は2006年に豊津町・犀川町・勝山町が対等合併して成立しました。

 時刻はちょうど11時になったので、フォロワーさんおすすめのお店で昼食を頂くことに。食べるのはもちろん、豊前裏打会のうどんです。

📍豊前裏打会 うどん真之介(みやこ町勝山黒田)

 あまり知られていませんが実は福岡県はうどん王国で、地域ごとにかなり特色があることで知られています。その中で旧豊前国地域のうどんは、細く透明感のある麺で特に美味しいです。私は本場で食べるのは初めてで、すごく嬉しかったです。

 そしてこれは本当に偶然なのですが、うどん屋さんのあるみやこ町勝山黒田は私がひそかに行きたいと思っていた場所でした。先ほど香春岳のところで登場した少弐冬資の父で豊前国守護でもあった少弐頼尚の所領・黒田荘があったのが恐らくこの地と思われます。

少弐氏の黒田荘の名残を探して少し歩いた。

 うどんで栄養を補給し、午後からの活動再開です。少し寄り道をしながら、町の歴史民俗博物館へ向かいます。

●東犀川三四郎駅(平成筑豊鉄道田川線)

夏目漱石の三四郎が京都郡出身ということでついた駅名
ちょうど列車が

●豊津駅(平成筑豊鉄道田川線)

駅名標からわかるように、
豊津駅の所在地はみやこ町ではなく行橋市。
旧豊津町にあった唯一の駅は新豊津駅。

〈豊津について〉
古代以来、豊前国の内に「豊津」という郡名は存在せず、藩庁が造営された台地は、国分寺原、国分原またはナンギョウバル(難行原、南郷原)と呼ばれ、1839年以降は錦原と呼ばれていた。藩庁をこの地に移したのち、1869年12月に「豊津」への藩名変更を政府に願い出、認可される。豊津の呼称は「豊前国仲津郡」の「豊」と「津」を組み合わせたものと考えられている。

『豊津町史 下巻』
豊津駅・新豊津駅近くの県道34号にカントリーサイン


●みやこ町歴史民俗博物館
 ここも訪れたかった場所の一つで、想像以上に見応えのある展示でした。漱石の手紙・書画や、堺俊彦の書・獄中書簡が興味深かったです。そして豊津藩の印・豊津県庁の印・豊津県庁俸禄券が特に印象に残りました。

 最後に、いにしえの豊前国を感じる場所へ。

●豊前国分寺

 ここの三重塔は、みやこ町のシンボル的存在です。

●豊前国府跡


吉富町・豊前市へ(藩界石・千束城跡)

 さて、香春町とみやこ町を巡ったところで、まだ時間があったので私たちはさらに南へ。

中津市には行かずに…

 お目当ての史跡は築上郡吉富町にあります。

●藩界石「従是東中津領」

 これは中津藩・小倉藩の境となる川に建てられていた石で、境界・領地の変更のたびに移転を繰り返した歴史があります。そして現在、神社の境内で保存されているということです。

●御界川

 細川氏の肥後転封から1867年まで、小倉藩と中津藩の境となっていた御界川。現在は吉富町と豊前市との境界です。

 次に豊前市へ。

●千束陣屋跡(旭城跡)

〈小倉新田藩/千束藩〉
小倉藩の支藩。長らく小倉に居城を構えていたが、明治2年版籍奉還の際に本藩から離れ、上毛郡の領内に藩庁を置いた。これに伴い築城され明治3年に完成した旭城であるが、翌年の廃藩置県で藩が廃止、千束県となった。

『角川日本地名大辞典40福岡県』

 このように、日本で最後の城として有名な千束城跡は、現在千束八幡神社となっていますが、石垣は当時のものがそのまま残っているようです。

 城の御殿が移築されている上毛町の光林寺も見学しました。

帰路
 

 気になっていた史跡を全て回ることができ、ちょうど良い時間となったので私たちは帰路へ。通ってきた道を戻ります。

 豊前国から…

筑前国に戻ってきました!

直方駅に到着。

実は魁皇に会ったことがあったりする自分…

 今回の旅はこれにて終了です。

おわりに

 実のところ私は、福岡県の旧豊前国地域を訪れるのは北九州市を除くと今回が初めてでした。
 香春・豊津、そして千束と、明治維新期の小倉藩の歴史を現地で学ぶことができ、本当によかったと思います。そして少弐氏ゆかりの地も訪問しました。少弐頼尚の所領(みやこ町勝山黒田)、そしてその息子冬資が征西府に対して最後の抵抗をした香春岳(香春町)が地理的に非常に近い位置にあることが印象に残っています。
 また、気になっていた駅をいくつか訪問することができとても嬉しかったです。

 案内してくださったフォロワー様、本当にありがとうございました。豊前国、いずれまた訪れます!

📍Roaster's Labo(行橋市)
少し苦味のあるコーヒーソフトすごく美味しかったです!

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[訪問した史跡]
田川郡
 糸田町▶︎糸田城跡
 香春町▶︎採銅所、香春藩庁門、香春岳(麓から)

京都郡・仲津郡
 みやこ町▶︎豊前国府跡、豊前国分寺、勝山黒田
上毛郡 
 豊前市▶︎千束陣屋跡
 吉富町▶︎藩界石
 上毛町▶︎光林寺(千束陣屋御殿)

[訪問した鉄道駅]
糸田駅、東犀川三四郎駅、豊津駅
田川後藤寺駅、田川伊田駅、香春駅、採銅所駅 

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〈参考文献〉
竹内理三 編『角川日本地名大辞典 40 福岡県』
              角川書店、1988年
豊津町史編纂委員会『豊津町史 下巻』
              豊津町、1998年

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