引用25時Ⅱ:吉本隆明『わたしの本はすぐに終る』『吉本隆明詩集』より_ガンダムのシャアが典型しているもの
繫栄する校舎と鳩舎
繫栄する教授と業種
前を行きあとから慕う
記号の兵士たちと醜い看護婦
遠征する言葉の旅団
負傷したものが猿にされた野戦病院
「三時のあなた」*から
五時半の「機動戦士ガンダム」まで
絵の家族は無事で 少しずつ
光のとび交う幽界にちかづいている
水のように注ぎ 水のようにねむりこけ
絵かきはよくやっている 予感のように
予感のように
_*私註:当時のTVワイドショー番組
(吉本隆明「水の死」『わたしの本はすぐに終る』講談社文芸文庫、2024._p.228)
贋アヴァンギャルド
きみの冷酷は
少年のときの玩具のなかに仕掛けてある
きみは発条(バネ)をこわしてから悪*んでいる少年にあたえ
世界を指図する
少年は憤怒にあおざめてきみに反抗する
きみの寂しさはそれに似ている
きみは土足で
少女たちの遊びの輪を蹴ちらしてあるき
ある日 とつぜん一人の少女が好きになる
きみが負っている悔恨はそれに似ている
きみが首長になると世界は暗くなる
きみが喋言ると少年は壁のなかにとじこもり
少女たちは厳粛になる
きみが革命というと
世界は全部玩具になる
_*私註:にくんで
(吉本隆明「贋アヴァンギャルド」蜂飼耳編『吉本隆明詩集』岩波文庫、2024._p.158-159)