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スピードジェット 男性育休記7/68

月曜なのに幼稚園は休みである。金曜の帰りに「入園希望者の願書提出日なので」と説明されたが、願書を受け取る人を一人置いておけば後は通常運営できるのでは?と思ったが思うだけに留めた。

幼稚園は仕方ないので諦めるが、とはいえ新生児のため夜通しほぼ起きている妻の寝不足が深刻である。せめて2歳児を引き離せば昼寝くらいできるだろうと、私は2歳児を連れ出すことにした。ただ、約1ヶ月ぶりに再会した2歳児の母親への撞着はハンパではない。

「おもちゃ買い行こか、スピードジェット」

「スピードジェット!」

スピードジェットとは何かというと、2歳児が1年以上欲し続けているプラレールのおもちゃである。本来、プラレールはタカラトミー社が新幹線やら在来線やらきかんしゃトーマスやらを3両編成の、モーター付きプラスチック車両に簡略化したおもちゃの総称であるが、スピードジェットは一線を画する。現実世界にもきかんしゃトーマス世界にもまったく実在しない、タカラトミーの完全オリジナル車両である。
ちなみに2歳児が見たこともない車両を欲しがるのはこれが初めてではない。彼はYouTubeでめちゃくちゃプラレール動画を見ているので、ほぼ全てのプラレール車両を把握している。それは以前、新幹線用高速運転試験電車「アルファエックス」を買わされたときにも痛感した。彼の博識に私は敗北感すら感じる。新幹線、仕事でしょっちゅう乗ってるけどアルファエックスなんて見たことも聞いたこともなかった。

さて、話を戻してスピードジェットである。

「スピードジェットは大きいから、抱っこしたら持って帰れない。今日はベビーカー乗ってくれないか」

「うん」

幼稚園に行くときは鉄の頑固さを持ってして抱っこを譲らないのに、この折れようである。スピードジェット、恐るべきキラーコンテンツぶりである。架空車両なのに。

準備をしてから、我々は現実のJR車両に乗ってヤマダ電機へ到着した。しかしスピードジェットは見つからず、2歳児のご機嫌は急降下する。これはまずい。検索ですぐ近くに鉄道模型専門店を見つけ、そこにはプラレールも多少販売しているようだったので一縷の望みをかけて向かう。ラブホテルが並ぶうらびれた雰囲気に「こわいの」を連発する2歳児だったが、模型店をようやく見つけて入店。しかしそこにあるのはよりリアル志向の鉄道模型シリーズ、いわゆる「Nゲージ」の山、山、山。プラレールもあるにはあったが本当に少数で、また全く知らない九州の鉄道などしか置いてない。素人目にも、攻めたラインナップであることだけは分かる。店内には年齢不詳、店員なのかお客さんなのかも不詳な妙齢の男性が、2歳児がいることなど気にも留めずひたすらNゲージを走行させている。なんだか堂々として頼もしい人だなと思っていたら、袖を引っ張る2歳児が「これほしいの」と7万5千円の値札がついた新幹線模型を指さしたところで目が覚める。これはイカンと退散を決意し、「スピードジェットはなかったけど、さっきのところで好きなプラレール買ってあげるからここは出よう」と言い残し、これがほしいのー!と泣く2歳児を引き剥がして店を出た。

ヤマダ電機に再び到着し、どのプラレールでもいいでと機嫌の悪い2歳児に声をかけると、突然目の色をクルクルと変えたかたと思うと「スピードジェット!」と絶叫。目線の先を見ると確かに陳列棚の頂上に、やや色褪せたスピードジェットの箱が佇んでいた。マジか、あるんじゃん。よく見つけたなと2歳児を褒め、またAmazonなどより遥かに安いヤマダ電機価格に感動しながら「くーださい、しよ」とレジに連れて行き会計、店員さんがキャンペーンなのかなんかの余りなのか、きかんしゃトーマスのDVDをくれた。

2歳児は達成感からか、スピードジェットのクソでかい箱をベビーカー上で抱き止めてから30秒ほどで寝た。

帰宅して2歳児を妻に預ける。多少は昼寝ができたそうだ。電動自転車を駆って夕食用の食材、いつのまにかでかくなった2歳児の肌着とパジャマなど買ってきて、また帰宅する。
2歳児は妻とスピードジェットでめちゃくちゃ遊んでいる。良かったな。ごはん今から作るからな。

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