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根性バームクーヘン

イメージを具現化する、どうしても形にしてみたいからやってみる、その居ても立っても居られないような情熱が好きだ。完成までの過程に面白みを見出してしまい、本末転倒になることがしばしばだったとしても。

仲間内で毎年、夏の終わりにキャンプにいくのがいつのまにか恒例になっている。芸術畑の人たちなので、せっかくなら面白いことやろうぜ!というときの発想力、それはちょっとどうなの?と思っても作れてしまう実現力がずば抜けているなぁと思う。

数年前、「流し素麺やりたい」と誰かが言い出した翌日には男衆が集まり、知り合いの竹藪から材料を調達してきていた。切り出した竹をパーツ分けして節をくりぬき、キャンプ当日には大掛かりな流し素麺キットがすんなり組み上がった。流せば流したぶん、するすると流れゆく素麺。山の水はきんと冷たく、すくった素麺は美味しかった。誰も作ったことがないのにすごいな、と今でも思う。最下流に、ざるを忘れなかったところも。

私は、皆が熱中している作業をちょっと手伝ったり、手伝うふりしたり、なんとなく外から写真におさめたり、ちょろちょろしている。一体となって燃え上がる情熱の炎に手をかざして暖だけ取り、その火で美味しく焼けたお肉だけはしっかりいただく、要はちゃっかりものの役立たずだ。

例年役立たずな私が、唯一熱中した具現化作業が「野外での巨大バームクーヘンづくり」だった。キャンプ地で調達したまっすぐで太めの木の棒にアルミホイルを巻きつけ、バームクーヘンのタネをおたまでかけまわしながら焚き火の上でくるくる回して焼く。食べ応えのある大きさにするためにそれを延々とくりかえす。単純作業なわりに意外とコツが必要で、しっかり焼きつついかに薄く生地を重ねていくか試行錯誤。どんどんと日が暮れて手元は暗くなり、焚き火の逆光でますます仕上がり具合が見えにくくなる。

この作業をしているあいだは他のことが一切できないうえに座りっぱなしなので、酔いも相まって皆眠くなり、交代要員は次々と陥落していったが私は残った。もうそろそろ、焚き火を消して寝よう、と引き上げる明け方ちかくまで、タネをかけまわして焼く作業に没頭した。眠いし飽きたしもうやめたいのに、もう充分なのに、手をとめることが出来ない乗っ取られたような感覚。少なくともトータルで6時間くらいはやっていた気がする。

朝の光のなかで目にしたバームクーヘンは、薄カーキ色に染まっていて、まったくもって美味しそうではなかった。焚き火の煙で燻され続けたそれは、スモーキーなホットケーキミックスの味がした。

ただ包丁を入れて、いびつな断面図をみたとき、なんだか静かに感動した。そこには、森の中で過ごした夜、楽しかった時間が層になってぎゅっとつまっていた。


#日記 #エッセイ #キャンプ #バームクーヘン

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