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後日譚

前述の長い夜は3月末のこと。消化するのに2カ月近くかかったことになる。思ったよりかなり早く幕引きが来てしまったが、スナック勤めはとても楽しかったし、ご縁があればまた関わりたい世界だ。

あの朝、常連さんと私はそのまま帰るのは気が進まず、禊がてら8時まで営業している居酒屋さんに立ち寄り、くだを巻いて帰った。そしてその後彼と、色っぽさもなにもない友達となれたことが収穫のひとつだ。

ママがどう出るかわかっていたので先回りした。朝の内に店の女の子たちへ連絡し、クビを告げた。予想はつくはずなので理由は書かなかった。常連のお客さんたちへも退職の連絡をし、今までのお礼と直接ご挨拶出来ないことを詫びた。よくも悪くも、この件で様子見に来るお客さんもいるはずだった。

担当していたSNSで、中のひとを卒業する旨のご挨拶をした。応援してくださっていたフォロワーさんたちがたくさんコメントをくださり、本当にありがたかった。更新を続けていたら見える世界がきっとあったのに、未練は残った。

SNSパスワードをまとめてママにメールし、私がアクセス出来ないよう、パスワードを早急に変更してほしいと告げた。万が一乗っ取りが発生した際、私と切り離しておいてほしかった。

私が辞めた次の晩、店は大繁盛したらしい。私が悪者になることで、店の売り上げが上がったならそれでいい。
同日、ママの妊娠が発覚し、愛人でオーナーである先生が認知することになったようだ。ふうん、と思った。先生が自分の子供を欲しがっていることを知っていた。妊娠はおめでたい。だからといって、今までの理不尽をチャラに出来るほど、私は人間が出来ていない。先生の子ではないかもしれないと知っているが、私にはもう関わりがない。

ママが店を休むことになったらしく、店の女の子たちが働きかけてくれ、復帰してほしいとの打診をもらった。嬉しくて嬉しくて、ありがたかったけれど、もう充分だと辞退した。ママと先生は、店の運営との生活との切り離しが絶望的に下手だ。いままでよりややこしい出来事に巻き込まれる可能性しか感じなかったし、店は閉めた方がいいと思った。

突然収入源を失ったことは手痛かったが、辞めてよかったと思う。まるで差し出されたかのようなきっかけ。辞めるタイミングはあのときがベストだった。
そして変わらず、働けてよかったと心から思う。人から必要とされること、憎まれること、頼られること。スナックを必要とするひとたち、スナックに偏見があるひとたち。狭い世界で、自分なりの正義を貫き、楽しむ人、冷めていく人、ねじれていく人。偏った世界ではあったけれど、ひとや感情のバリエーションをライブで感じることが出来た。私はここの住人にはなれないこともわかった。でも書きたいことはまだまだある。

大好きな相手だったからこそ、大嫌いになった。大嫌いになれるほど大好きなひとと出会えたことがすばらしいな、と思える。

辞める少し前、明け方にママと沖縄料理屋で朝ごはんを食べた。嬉しそうににんじんしりしりを食べるママの笑顔は、とてもかわいくて良い顔だった。そう遠くなく、良いことばかりを思い出せる日もくるだろう。
どうか元気で。あなたはあなたの世界で、私は私の世界で、お互い図太く生きていけますように。


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