涙の理由は、悔しさと、バターでした。
講義中、はじめて泣くのを堪えた。自分に腹が立って、悔しくて、「なんであんなことしてしまったんやろう」って後悔して。
今回は、コピーライター阿部広太郎さん主催の『企画でメシを食っていく2021』という講座での学びと、そこでの情けない自分の感情を、全部はき出して残しておきます。
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第5回目となる今回の講義では、出版社 ライツ社の代表、大塚啓志郎さん をゲスト講師にお招きしての「本の企画」がテーマだった。事前に出されていた課題は、こちら。
自分の中で「絶対にいける!」と確信の持てる本の企画を、LINEグループで送ってください。そこに、企画の趣旨を伝える一言と参考となるニュース記事やSNSなどのリンクをつけて企画を送信してください。
・・・LINEで課題提出?イマドキだぁ!(そんな流暢なこと言ってられないということに、このときはまだ気づいていない)
正直、あまりイメージが湧かなかった。今までの課題では、一人もしくはチームで考えて抜いて、一生懸命まとめた企画書で提出する形がほとんどだったから。
LINEで企画出しをする方法は、社員が6名のライツ社さんが普段やられているもので、会議や企画書は存在しないそうです。(その経緯や、ライツ社さんの思いが素敵・・・!)
そしてこれは、LINEグループに送ってくださった大塚さんの言葉。
本は、凍りついた心を解かす光。その他にも、記事の中にこんな言葉があった。
企画する本の基準はただひとつ。社名に込めた『write』『right』『light』─ 書く力で、まっすぐに、照らす─ という思いに沿っているかどうか。そしてたとえおもしろくても、誰かを傷つける可能性があるものは企画しません。
ライツ社さん、大塚さんの思いに心から共感したし、めちゃくちゃ素敵だと思った。
・・・それなのに、悲しいくらい、どうにもこうにも、企画が思い浮かばなかった。どうしたら誰かの心を解かせるんだろう?どうしたら誰かの心を照らせるんだろう?
ライツ社さんの本も読んだ。記事も読んだ。すごくよかった。でも、わからなかった。
こういうときは、ペルソナを自分に置いてみて「自分だったら?どんなものに心が照らされる?」と考えるけど、それでも浮かばない。
スポーツでいう、スランプ状態なんだろうか・・・。
正確にいうと、ひとつの案だけは浮かんでいた。でも「絶対これはいける!」とまで思えていなくて。ただ、ひとつの案があるということにどこか安心していたのか、それ以上深めていくことも、広げていくことも、諦めてしまっている自分がいた。
(うわぁ、今、全然100%じゃない・・・)って心の中でぐるぐるしているうちに、課題提出の時間は迫り、中途半端な企画を送ってしまった。不誠実な自分にドロップキックしたい。
案の定、LINEグループ内の誰の心にも届くことなく、既読スルー。(※LINEでの一言で誰かの心に留まらないものは、書店でも誰かの目に止まって売れることはないので、ライツ社さんでもスルーになる企画はよくあるそうです。悲しいけど、それが現実。)
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ずん・・・となったままの気持ちで迎えた、講義当日。大塚さんは、私と同じ兵庫のご出身なので、馴染みのある関西弁で終始やさしく明るくフラットに話してくださった。
過去いろいろなことをご経験した上で、1冊の『1歳から100歳の夢』という本に心から感動して出版の仕事に就いた、とおっしゃっていた。
大塚さんご自身も、最初はとにかくたくさんの人の「夢」を集めていたそうです。だから、まだ本の企画の仕方がわからない初心者のときでも、「たくさんの人に夢を聞いてきたことはあるぞ!」という経験と、自分の好きなこと(旅)を掛け合わせて『僕が旅に出る理由』という、世界を旅した大学生100人の作文をかき集めた本を企画した、と・・・。
ただ、自分が「好きなこと」は、同じくそれを「好きな人」にしか刺さらない。だからこそ、今まで見たことのないようなものを作ること。ニッチの中でのトップを目指して企画する。
例えば『毎日読みたい 365日の広告コピー』という、ライツ社さんのヒット本。広告コピーの本は、コピーライターなど広告を生業としている人が勉強のために読むのがほとんど。
それを、仕事や勉強で読むものではなく、毎日読めるものとして企画する。365日分の名言集のように。そうすると「大切な人の誕生日のコピーが素敵だったから」とその本をプレゼントすることもできるし、本を手に取るきっかけを増やすことに繋がる。
・・・まさに、こういうのが企画なんだ。あぁ、もっともっと考えられることがあったなぁ。悔しさもあるけど、あたたかい気持ちにもなった。
大塚さんは、編集者でもあり経営者でもあるので、本を売るための戦略はもちろん、本を届ける人、そして制作に関わる人への気持ちも大切にされているということを知れたから。リアルもロマンも、両方大切にする。だからこそ生まれる企画があるし、ライツ社さんにしか生み出せない本があるんだと思う。
「僕ね、“バターのような人”って言われたことがあるんですよ。脂っこいってことなんか!?って最初は思ってたんですけど(笑)バターって、主役にはなれない、自分がない。でも、料理を美味しくするために必要ですよね。編集者はそれでいいんです。大切な人の心を溶かせたらいいなって。」
講義中に泣けてきたのは、自分自身への悔しさと、大塚さんのあたたかい思いに触れたから、かもしれない。
もう一度、自分の心と向き合って考えてみようかな。