薬について調べると。

時々、お薬について調べている。


ひとつには、自分たちの日々を支えてくれているものの仕組みを少し知っておきたいという興味からだ。

胃腸薬や抗アレルギー剤や偏頭痛に効く薬などを、現在、三つの診療科から処方して貰っている。それらの内、数ミリの小さな錠剤の名前を試しにネットで検索すると、ドーパミン受容体に作用する、と書かれていた。

ドーパミン。

脳内からぶわっと出る感じの。

穏やかになるとか、興奮するとか、そういうのを制御をするものだった気がする。

テレビや文章でたまに見るけれど、いざ説明しようとすると、理解が曖昧で全く言葉が出てこない。なんだったっけ、と首を傾げながら引き続き調べる。


ドーパミンは中枢神経に存在する神経伝達物質のひとつで、ドーパミン受容体と結合する化学物質。

で、中枢神経は脳と脊髄のこと。

神経伝達物質は、脳と脊髄を構成するニューロンという神経細胞と、ニューロン同士の連結部分にあるシナプスという構造との間で信号をやり取りして、情報を伝え合う。

ニューロンは、本体から長く伸びた軸索から、別のニューロンへ向ける電気信号を出力して、シナプスで化学物質に変換している、らしい。不要な情報をはじいて、合致した信号を、木の枝のような形をした樹状突起で受け取って電気信号に変える。

ちょっと自信がないのだけれど、私の理解としてはこういう感じになる。


人の体は外から受けた刺激を信号に変換して、中枢神経に情報を送る。目や耳、手や足、内臓などの全身に網の目のように張り巡らされている末梢神経から信号を受け取って、集めて蓄積して処理して、感覚や運動、意思や情緒、呼吸などの全身の機能を制御する。

その細胞内の情報のやり取りは、シグナル伝達とも呼ばれている。神経伝達物質やホルモンなど、細胞の外からやってくるシグナル分子を介して、情報の伝達が行われるのだそうだ。

信号をキャッチする受容体は、レセプターとも呼ばれる。受容体ごとに結合できるシグナル分子の型が、鍵と鍵穴のように決まっていて、合致するものを選び取って情報を受け容れて、細胞内の核に伝える。

例えば、目の網膜でいうと、網膜に存在する光を受け取る視細胞が受容体に当たる。また、花粉アレルギーなどは、鼻の粘膜にある抗ヒスタミン受容体にアレルギーの原因となる杉や埃などのアレルゲンが結びついて、くしゃみや鼻水を誘発する。


仕組みがぼんやりと見えたところで、ドーパミンとはなんだろう、という問いに戻る。

『ドーパミンはアドレナリン、ノル・アドレナリンの前駆体です』


ぜんくたい。


単語を調べる度に新しい言葉に出会うので、辞書で類義語を引いている気分にもなってくる。

前駆体とは、とある物質として生成される前の段階にある物質なのだそうだ。ドーパミンが変化したものがアドレナリンで、どちらも交感神経が優位なときに分泌される。

ドーパミンは幸福感を得て穏やかになる。アドレナリンはやる気を出して興奮や緊張する。双方、元をたどれば同じ物質なので、ドーパミンが分泌されるとアドレナリンも生成される。
うっとりと溶けた気持ちのときに、やる気物質がでるというのも、少し不思議な感じだけれど、リラックスと、次に起きる事態に備える程よい緊張感は、同じ状態だと何かの本で読んだ。

冒頭に挙げた薬はドーパミン受容体を程々に刺激してくれる。過剰に出れば抑制し、足りなければ分泌を促してくれる。
また、ドーパミンとアドレナリンを制御するセロトニンという物質の受容体にも働きかける。
セロトニンは、交感神経と副交感神経のバランスを整えてくれる神経伝達物質で、分泌されると安心感や平常心を感じる、とも聞いたことがある。日光を浴びることでも生成されるそうなので、春に向けて日差しも増えるこの季節に、ベランダで日向ぼっこをするのも良さそうだ、などとふと思う。

別で、偏頭痛にも効く薬も貰っていて、そちらはGABAも増やすと書いてある。脳の神経を鎮静させて、血流を安定させるので、頭痛が落ち着くのだそうだ。
GABAといえば、成分が配合されたチョコがお菓子売場や薬局に置いてあるけれど、効果の方向性としては近いのだろうか。どうだろう。
どちらかと言えば上向きの抑制の方が得意な薬、と伺って飲んでいるのだけれど、抑制する一方で、アドレナリンとセロトニンにも作用する。落ち着かせるのに活性化させる作用を持っているところに、薬と人の体の神秘を感じる。


ここまで書いてみて、つくづく、身近なものなのに知らないことばかりだなと感じる。
検索を掛けて文字列を眺めては、薬を研究し開発する人たちの膨大な知識量と探求心と、途方もなく傾けられる時間に思いを馳せる。効くも効かぬも様々だけれど、長年停滞していた症状に鮮やかに効いてゆく様子を、間近で見ることもある。救われている部分も多い。

小さな錠剤に注がれた情熱に助けられて、今日もささやかに日々を暮らしている。