没原稿小説「脱走ゴギブリ全滅作戦」顛末記
テーマは「虫」。発想が羽ばたく。
この作品は未発表のものです。
ある雑誌の短編賞に応募しようと思い、急遽作成したものです。その賞のテーマは「虫」で長さは30枚。
虫といえば、まずはゴギブリでしょう。そこで私はハチャメチャなドタバタ小説を考えました。
結局こんなストーリーになってしまいました。
ドラマが始まる・・・かもしれない。
場所はゴギブリ研究室。殺虫剤と化粧品を開発している多角経営の某会社の研究所の二階。
隣の部屋は化粧品の研究室。
本日は、飼育しているゴギブリの中から、屈強な強者23匹のゴギブリを虫籠に移して、実験に取り組むことになってます。
ゴギブリの研究者はたった二人だけ。変人の先輩と新人の研究員。
ところが新人がドジをして、ゴギブリの入った虫籠をひっくり返してしまいました。
元気いっぱいのゴキブリが、一斉に研究室の中を、四方八方駆けずり回る事態に。
新人君は先輩の研究員に叱られまくり、先輩は新人君に「用事があるから」と冷たく言い放ち、午後半日休暇をとってしまいました。
「おい、明日の朝までに、全部捕まえろ。丹精込めて育てたゴギブリだ。一匹も殺すな。生け捕りだ。わかったな」
先輩は吐き捨てるように命ずると、さっさと帰ってしまいました。
大変な宿題を課せられて、新人君一人だけの奮闘が始まります。
新人君はゴギブリと闘い続け、真夜中に、ついに電気ショックでゴギブリを気絶させる方法を考案しました。
深夜、電線を壁や床に張り巡らす作業に取り掛かりました。
翌朝、研究室のいたるところに電線がはりめぐらされました。ついに元気ゴギブリへの戦闘態勢が整いました。
「電流をおさえれば、気絶する。後はほうきでさっさと掃けば、生け捕りだ。このアイデア、ノーベル賞もんだぜ」
何のノーベル賞かはわかりませんが、一人ほくそ笑む新人君。入社して初めて胸に自信が溢れてきました。
窓から朝日が差し込んできました。ゴギブリ研究室の至る所に張り巡らされた電線が輝いています。
さあ勝負だ。
スイッチ、オン。
なんと、脱走したゴギブリの一部が、電線から逃げるようにして空調のダクトに走り込みました。
ダクトは隣の化粧品研究室に繋がっています。
隣部屋で悲鳴が。
「あっち、あっち」
「こっちよ、こっち」
大騒ぎになっています。
ゴギブリ研究室のドアが、ドカンと勢いよく開きました。怒った化粧品研究室の女性研究員の殴り込みです。
女性研究員は、みんな研究中の化粧品を自分の顔で試している自称美女軍団。化粧品研究チームは常に清潔をモットーにしています。化粧品研究室に入り込んだゴギブリや蠅は、すべて殺戮。生き延びた者はいません。
化粧品研究室に迷い込んだ虫たちにとっては、生存率0の危険な部屋なのです。
「ぶっ殺す」
入り口で叫ぶ女性研究員。
「ふ、踏まないで。足もとの電線」
必死に抵抗して、止めようとする新人君。苦労して取り付けた電線を切られそうです。
「やばい」
新人君は慌てて電源を切りました。
高いハイヒールを履いた若手女性研究員が、そっと電線をまたいでから、腕を前で組んで堂々と仁王立ち。新人君を睨みつけ、指さしました。
「あんたは敵よ。ゴギブリをばらまくんじゃないわよ」
女性研究員の早口は、弾丸のごとし。
女性研究員の話では、過去に何度もゴギブリ研究室から化粧品研究室に、不審なゴギブリの侵入があって、大変なご迷惑をおかけしてきたらしいのです。
「もう、我慢出来ないわ。こんな研究室、潰れりゃいいのよ。会社は私たちが支えるわ」
新人研究員君も、ゴギブリ扱いです。
不敵なゴギブリ達は、ゴギブリ研究室の汚れた壁から壁へ、忍者のような身の軽さで走り回り、何匹かは蛍光灯の下を飛び回っています。
なんだか、せせら笑っているようでした。
壁のでかいゴギブリは、触角を二刀流の剣士のように、子気味よく振っています。
中年の女性研究員。壁を走る何匹かのゴギブリを、なんと蠅たたきの一撃で倒してしまいました。中学校の地区剣道大会で優勝したことがあるのです。研究者になってから、ゴギブリで剣道の腕が上達したようです。
若手の女性研究員が、怖い顔で、自社製の殺虫剤を噴射しようとするその時、先輩の研究員が出勤してきました。
空きっぱなしの入り口から勢いよく入ってきました。
「おーい、おはよう。あれ、なんで『化粧品』チームがいるの」
先輩に、新人君が必死になって作戦と経過を説明。
「新兵器、見てください」
先輩は度の強い眼鏡で、足元を見回しています。ド近眼で見えないらしく、分厚いレンズの眼鏡を上げ下げしています。先輩のサンダル履きの素足に、電線が引っかかりました。
「電線って、どれよ。ゴギブリは捕まったのかい」
新人君は先輩の接触に気づかず、一気に電源を入れてしまいました。
先輩の研究員は飛び上がって、ひっくりかえってしまいました。
新人君、電圧を二ケタほど、まちがって設定したらしいのです。
呼吸困難に陥る先輩。
「先輩を退治してどうすんのよ」
『化粧品』チームの女性陣に突きあげられる新人君。
やっぱりAEDか。
いや、AEDも電気ショックじゃないか。混乱する新人君。
騒ぎに走り込んできた総務の職員も、顔を見合わせています。
「口移しの人工呼吸は絶対嫌よ」
誰も頼んでもいないのに先手を打つ年配の女性研究員。口をハンカチでなぜかぬぐっています。口紅が取れてしまいました。
天井から見下ろすゴギブリ達。
先輩研究員が、意識を失う直前に呻きました。
「感電の方法は、商品としてはだめだ・・・」
先輩は、途中で息絶えてしまいます。事態はさらに深刻に・・・
この作品の運命やいかに
途中で、すみません。簡単に紹介するつもりが、つい筆がすべってしまいました。
この作品、実はプロ作家の添削で、取材不足とダメ押しされて、お蔵入りになっておりました。
そのプロの先生、どういうわけか私以上にゴギブリに詳しいのです。企業の研究実態をご紹介され、ついでに「ゴギブリを食べる人もいるんだぞ、こんなことも知らないのか」と。
私は、先生、ど、どうしてそんなに詳しいんですかと、反省しきり。
実はこの作品。私なりに、実話がベースになっているのです。
昔、ゴギブリとも化粧品ともまったく関係のない研究所に、勤務していたことがありました。
人事異動で配属になったその日、新人君の私と研究所長と、居酒屋で一杯やったときの話です。
所長の研究者らしい冷静なお声。
「B研究室にはね、23匹のゴギブリがいるんだよ」
私は思わず聞き返しました。
「え、飼っているんですか。研究と、どう関係するんですか」
所長の低い声。
「いや、天然だ」
そんなわけで、プロ作家先生のご指導に基づき、いつかは関西の大手会社のゴギブリ研究室を視察に行きたいと考えております。実際に飼っているゴギブリは、23匹ではなく数万匹になるそうです。
私はどんなアイデアや未完成の作品でも、捨てないことにしいます。没アイデアでも、成長して日の目を見ることがあると考えているからです。
よし、画期的な作品にするぞ。
う~ん。数万匹のドラマに拡大するのかあ。
やっぱり地震でガラスケースが割れて、研究所全体がゴギブリに占領。研究者たちは、実験段階の殺虫剤で全面戦争に・・・・・やめておきます。
では、いずれ。