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ホールインワン、一日2回の幸せ
ゴルフを始めた頃の話
谷越えの158ヤードのショートホール。
前のグループが、まだティーグランドにいます。四人は髪が長めの若い男性ゴルファーです。学生のグループのように見えました。
プレーが渋滞気味なので、われらのグループも、この若い先行するグループに追いついてしまいました。
その前のグループは、さっさとパッティングして次のホールに向かいました。グリーンがあいたので、若い四人組がショットに入りました。
初めてのホールインワンに遭遇
四人のうちの何番目か。
いかにも自己流のスィング。白球が見事に舞い上がり目前の谷間を超えて、小さなグリーンに乗りました。ボールはグリーンを転がり、そのまま旗の根元に消えました。
「入ったんじゃないか」
「やったぜ」
後ろにいた我々も、思わず「ホールインワンだ」と叫んでしまいました。
ティーグラウンドの八人が「やったあ」
八人で、万歳を何度もしてしまいました。
なんといっても、生まれて初めてのホールインワン。
奇跡だ。まぐれだ。夢だ。幻か。
四人の学生らしきグループは、全員のショットを終えると、ティーグランド下の鉄の橋を渡っ行きます。谷を渡ると斜面を登って、グリーンに立ちました。
旗のもとに集まり、皆して覗き込んでいます。
改めて歓声が上がりました。
我々も思わず顔を見合わせました。
「一発必中だ」
「はじめて見たよ」
「俺もだ。すげえ、信じられねえ」
とまあ、感心しながら、グリーンが開いたので我々もショットをしました。我々のショットは平凡なボールで、グリーンの周辺に、ボールは散らばっていきました。
事件が起こる
ところが、事件は、これだけでは終わらなかったのです。
次のホール。
254ヤード。
先ほどのグループはショットを終えると、グリーンの周りでパッティングをせずに、我々のために待機してくれました。グリーンを空けて、我々を先にショットさせてからパッティングに入ることにしたわけです。
ゴルフでは、よくある礼儀作法です。
朝靄が出ていました。
254ヤードのホールの先には、クラブハウスが見えています。
友人が三番ウッドを手にしました。スポルディングです。私が彼に付き合ってフルセットを買ったときの一本です。
友人は素振りをしました。
ボールに向かうと、まさに素振り通りのスィングをしました。
快音を残して、ボールは朝靄の中に姿を消しました。
若干のダウンヒル。
突然、グリーンで歓声が上がりました。
あの四人が拍手をしています。
「おい。入ったんじゃねえか」
「まじか」
ボールが朝靄のためによく見えなかった我々は、半信半疑でした。
先の四人グループが、拍手をしいます。
「入ったんだよ」
先の四人が、我がことにように、グリーンで手を振っています。
「まちがいねえぞ。行こう」
奇跡を確認す
こうして、我々はグリーンに向かいました。
先攻していたグループは、パッティングを終えると、到着した我々を祝福してくれました。われわれはというと、パッティングを忘れてピンの旗の根元に集まりました。
友人がボールを拾い上げました。
「やったあ」
夢を見ているような顔です。
その後、自分がどんなパッティングをしたのかは覚えいません。
先攻していたグループが、嬉しそうに次のホールに向かっていきます。
彼らの背中を見送っているうちに気が付きました。
『われらのホールインワンの喜びと驚きを知っているのは彼らだけだ』と。
我々だけの一日
八人だけの歓喜と驚愕。
確率的に、人生に二度とないだろう一日二回のホールインワン。
われわれだけ、ホールインワンの二倍の感激と夢のような体験を、一つのボールとクラブが実現してくれたのです。
こうして、その日は、ホールインワンの思いに満たされながらプレーを終えました。スコアなんて、どうでもよくなっていました。
先行する若い人たちも、今日のことは忘れることができないでしょう。
名前も知らない彼らと、我々だけの貴重な一日でした。
もちろん二つのホールで、自分がどんなショットを打ったのかは、思い出すことはできません。
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