2024年Q1 最注目技術の1つ 各ZK EVMプロジェクトの比較
Introduction
前提となるzkpについては以前の記事を参照していただけたら幸いです。
zk rollupは上記のzkpを活用したブロックチェーン取引の加速化や秘匿化を可能にする技術です。主に、L2(レイヤー2)と呼ばれるメインのブロックチェーンの上に構築されるスピードや活用のしやすさに着目したブロックチェーンを実装する際にキーになる技術となります。
近年L2の成長は著しく伸びており、多くのプロジェクト、またはL1ブロックチェーンがL2上に展開する動向が伺えます。
2021年1月16日にL2プロジェクトのOptimismがmainnetをローンチした当時、L2の総TVLは約10,500ETH(1億2500ドル)程でした。しかしその後市場が好調に伸び、現在では約9.69M ETH(36.52Bドル)にまで急増しています。
ETHでみれば約920倍の増加、ドル換算でのTVLは約29倍に増加しています。
また直近一年だけで比べてもL2市場全体のTVLは過去一年で約5倍以上も増加しており、そのマーケット全体での盛り上がりと信頼性が伺えます。
L2プロジェクトに焦点を当てると、主にArbitrum One、 OP Mainnetの2つが全体のシェアの多くを占めていることがわかります。
L2市場が盛り上がるにつれて、Arbitrum、ZkSync Era、 dYdX、 Linea、 Baseなど数多くのL2プロジェクトが誕生しました。現在も新たに多くのプロジェクトがEthereum上に次々と誕生しており、新興チェーンであるBlastはメインネットローンチ時点で2B$ものTVLを獲得しました。
これらのデータからL2市場全体のさらなる成長が伺え、今後ますますL2上のプロダクトが台頭してくるかと思います。
本記事では、主にzk-rollupプロジェクトに焦点を当てていきます。
その中で比較的有名な Rollup プロジェクトに加え、最近登場した期待度の高いプロジェクトまでを紹介していきます。
テック系の記事が多い中、この記事ではビジネス向けの話題を扱うため、より多くの投資家やスタートアップの方々にリーチできたら幸いです。
ーーL2についてーー
そもそもL(レイヤー)とは何か?
ブロックチェーン技術は様々な「レイヤー」で構成されています。これらのレイヤーはブロックチェーンの機能や性能を向上させるために存在し、それぞれが特定の目的を果たします。
L1(Layer 1)は、ブロックチェーンの基礎となる層で、EthereumやBitcoinなどの主要なブロックチェーンネットワークを指します。これらのネットワークは、トランザクションの承認や記録、データの保管など、ブロックチェーンの基本的な機能を提供します。
一方、L2(Layer 2)は、これらの基本的な機能を補完または強化するためにL1の上に構築される追加の層を指します。L2ソリューションは、トランザクションのスピードを向上させたり、手数料を削減したり、スケーラビリティを改善したりすることで、ブロックチェーンの性能を向上させます。
L2ソリューションの一部は、Rollupと呼ばれ、これはトランザクションを「巻き上げる」ことで、ブロックチェーンの効率を大幅に向上させる技術です。Rollupには、Optimistic RollupとZK Rollupの2つの主要な種類があり、それぞれが独自の方法でブロックチェーンの性能を改善します。
本記事では、これらのL2ソリューション、特にZK Rollupに焦点を当てていきます。
ーーOptimistic rollup or zk-rollup—--
TVLからわかること(画像参照)
現状はzk-rollupと比べ、Optimistic rollupの普及率が高い
Arbitrum、OPでシェアの多くを取られている
中間層ではzk rollupが多い
L2市場では現状Optimistic rollup系のプロジェクトが多くのシェアをとっており、ZKrollupは依然としてシェアが少ない状況です。
ではなぜこのような現状となっているのか?
主な原因として、汎用性の面で zk rollupは実装が難しいからと考えられます。
ここでoptimistic rollupとzk rollupの違いを簡単に表にまとめます。
Vitalikも記事の中で語っている通り、現状は技術的な特徴から、Optimistic rollupの方が汎用性が高いのですが、中長期的にはいずれzk-rollupが全てのケースで圧倒するだろうと考えられます。
zkEVMについて
EVMとは
Ethereum Virtual Machineの略称で、
Ethereum(イーサリアム)ブロックチェーン上で動作するスマートコントラクトを容易に実行するための仮想マシンです。
実はブロックチェーン単体ではスマートコントラクトを実行できず、EVMやそれに準ずる技術が必要となります。EVMは、EthereumやEthereumと互換性があるブロックチェーンで利用されています。
EVMは主に2種類:EVM compatibility、 EVM equivalenceに分けられます。
EVM compatiblity
EVM互換とは?
Polygon、BNB、AVAXなど多くのL1チェーンは実はEVMを採用しています。
普及率が非常に高いEthereum chainと互換性があるということは、お互いのチェーン同士でのやりとりが容易となります。
EVM互換のあるチェーンはEthereumと同じスマートコントラクト、プログラミング言語(Solidity)で実行することが可能なため、開発者は新たに実装を行わずにEVMをそのまま移植することでEVM互換チェーンを開発可能です。
また、ユーザーもDapps、仮想通貨取引などクロスチェーンでのやりとりが可能となり様々な恩恵を享受できます。
EVM equivalence
EVM同等性とは、L2ソリューションとそのすべてのモジュール(Ethereum互換サイドチェーン、不正検証メカニズムなど)が、Ethereumの設計書に完全に準拠していることを意味し、既存のコントラクトを変更なしにそのまま移行できます。(出典:Metis「EVM Equivalence vs. EVM Compatibility」
https://metisl2.medium.com/evm-equivalence-vs-evm-compatibility-199bd66f455d)
これによりL1で実行可能なバイトコードはすべてL2でも実行できるようになりました。
EVM互換ではオンチェーン上のほぼ全てのアプリケーションに使用ができますが、一部ではバイトコードレベルで実行が困難なケースがありました。そのため開発者は新たに実装を行うなどの作業コストの増大が懸念点でした。
EVM同等性ではこれらの問題に対処し開発者・Dappsユーザーともに恩恵を授かったと言えます。
So, what is zkEVM?
zkEVMは、ゼロ知識証明とEVMの互換性を組み合わせたスケーリング・ソリューション技術です。 これにより、ZKロールアップの高速トランザクションとスケーラビリティを実現しながら、EVM上でプロジェクトを実行するすべての機能と利便性を追求できます。
zk-rollupは主にpayment、 defiなどに特化して活用されていましたが、zkEVMではDapps開発などにもサポートされています。
Difficulty of zkEVM
先ほどはzk-rollupは実装が難しく汎用性の面でORU(Optimistic Rollup)に劣ると述べました。
では具体的に何が技術的に開発を困難にしているのでしょうか?
ZKP専用の開発言語の習得
ZKP、EVMそれぞれへの高い専門知識
アプリケーション間のコンポーザビリティの低さ
コントラクト開発者からしたら、新しい分野での開発が求められるだけでなく、それに伴う高度な専門性も求められるため効率的でありません。
これらの問題を解決するために、zk-rollupをEVM上で容易に実行できるzkEVMの開発が盛んとなってきています。
Type of zkEVM
上記のチャートでは、異なる種類のzkEVMについて説明し、それぞれの性能に関する利点と欠点を述べています。
Type1
タイプ1のZK-EVMは、Ethereumとの完全な互換性を維持しつつ、Ethereumの元の設計に変更を加えないことを目指しています。Ethereumのセキュリティを完全に継承できる点により長期的なスケーラビリティが向上しますが、Ethereumの設計が元々はゼロ知識証明に適していないため、検証時間が長くなるという欠点があります。ただしこの点は今後改善される見込みがあり、直近ではEthereumチェーン上の大型アップデート「Dencun」でL2のスループット向上・コスト削減を目指しています。
Type 2/3
タイプ2のZK-EVMは、EVMとEthereumの両方との適合性のバランスを取りながら、プルーフ(ゼロ知識証明)生成を高速化するために一部で変更を行っています。
DappsはEVM上と同様に使用できユーザーが意識することなくゼロ知識証明にオンボーディングが可能です。開発者目線では、高速化を行うためにEVMを書き換えて実装を行うことがあるため、コンパイラの変更や開発環境の違いに直面することがあります。
多くのzkEVMプロダクトはEVMとの互換性を向上させてType-1/2への移行を目指しています。
Type4
タイプ4のZK-EVMは、スマートコントラクトを高レベルの言語から直接ZK-SNARKSに対応した言語にコンパイルすることで、証明までの時間を最適化しています。
EVMでは搭載されていない機能を柔軟に実装できたり非常に高速な検証能力を得られるため、決済やGameFiなどの分野での使用が優れています。
後述するStarknetでは、独自のCairoという言語を使用することでゼロ知識証明をEVMへ取り組みました。
ただ他のTypeと比べてEVMとの互換性を犠牲にしている部分もあるため、一部のアプリケーションとの互換性も損なわれる可能性があります。
主なzkEVM PJ
ZkSync
Matter Labs社が開発したzkSyncは、zkロールアップを活用したL2パブリックチェーンです。
2020年には決済アプリケーションに特化したzkSync Lite(zkSync 1.0)がリリースされ、2023年3月にはzkEVMであるzkSync Era(zkSync 2.0)が発表されました。
zkSync Eraは上記のチャートのType4に分類され、カスタム性が高いのが特徴です。
EVMとの互換性はその分低下しますが、トランザクションの高速化やgas代を非常に安く抑えられるなどといった恩恵が得られます。
また、EVMでは搭載されていない機能も追加できるため柔軟性にも優れています。
zkSync Era がメインネットにローンチされて以来、わずか4ヶ月でTVL$735Mという最高数値を達成しました。その後も堅調な伸びを見せており、TVLのランキングではzk-rollup銘柄で首位に位置しています。
Linea
Linea(リネア)はConsenSys社が手がけるzkEVMプロジェクトであり、2023年8月16日に5年の開発期間の末にメインネットをローンチしました。
同社は月間アクティブユーザー3000万(出典:Blockworks「MetaMask monthly active users nears all-time high — over 30 million」https://blockworks.co/news/metamask-monthly-active-users-blockaid)を超えるMetaMaskの開発元でもあります。ローンチ当初にはMetamaskユーザーのUSDC.e取引手数料無料キャンペーンを行い、ネイティブなweb3ユーザーを既存のdappsなどへオンボーディングすることができました。
Lineaは Type-2/3に属しており、EVMとの完全な同等性を兼ねながらAA(アカウント抽象化)などの機能にも対応可能な柔軟なプロジェクトであるため、豊富で幅広いDappsとの提携拡大をしています。また、独自のコンパイラを使うことなくSolidityでコンパイルされたコードをそのまま利用してゼロ知識証明を行うことができるため、セキュリティ性もEthereumに依存して高いです。
ガス代もEthereumチェーンのおよそ10〜20倍ほど安く、FinalityもzkEVMエコシステムの中で屈指の早さです。
同社はMetaMaskのほか、ユーザー数40万を誇るweb3開発者向けAPIツールのInfuraも提供しており、Ethereumエコシステムで中核をになっております。TVLも374M$を誇り、今後ますます成長する可能性があります。
Starknet
Starknetは2021年11月にAlpha版がリリースされ、2022年2月にはEthereumのメインネットで正式にメインネットがローンチされました。
StarknetはType-4に分類されるzk-EVMであり、その名前も冠しているSTarksの採用、アカウント抽象化、Cairoというプログラミング言語での開発、などの特徴がある革新的なプロジェクトです。
通常のEVMはSolidityという言語で開発が行われていますが、ゼロ知識証明の関連技術に対応していないのが課題でした。
そこでStarknetではCairoと呼ばれる証明作成に特化した言語を使用しています。
CairoはStarkware社によって開発されたプログラミング言語です。
StarknetはEthereumとの後方互換性を犠牲にする代わりに、より柔軟なシステム機能・アプリケーションの構築を可能にします。(アカウント抽象化, etc)
その特徴を活かしエコシステム、特にゲーム分野での拡大をしています。
TVLでは1.78B$(3/16時点)とzkEVMで首位を飾っており、その盛り上がりを見せています。
今年2月には独自トークンであるSTRKのコインベースへの上場を果たし、主要な取引所への動線が敷かれました。(出典:CoinPost「Starknet(STRK)がコインベースに新規上場、ポリゴンラボとも提携」https://coinpost.jp/?p=512040)
Scroll
ScrollはType 3に分類されるzkEVMで、2023年10/8にメインネットローンチしました。
独自の検証メカニズムを構築しており、二層からなるゼロ知識証明システムのレイヤーから構成されています。
これにより証明時間の短縮とEthereumとのシームレスな接続を可能にしています。
zkEVMの中でもScrollはEVM互換と分散性に焦点を当てているため、ファイナリティまでの時間が他エコシステムと比べ(zkSync eraなど)少々かかります。
ScrollはEthereumと同等の互換性であるType 1を目指しており、Ethereum開発者のためにとっての実装の容易さを目標に現在も開発が進められています。
Dune analyticsによるとTVLは現在で143M$に上り、メインネットローンチから堅調に伸び続けております。
他のzkEVMエコシステムと比べて数字面ではまだ劣りますが、ローンチから間もないのと今後の参入PJでいずれ拡大していく可能性があります。
AaveなどのDefi大手も参入したため(出典:Scroll「Scaling DeFi: Announcing The First zkEVM Market On Aave」https://scroll.io/blog/scaling-defi-with-aave)今後の動向に注目です。
Polygon zkEVM
Polygon zkEVM はType-3に分類されるzkEVMで、2023/3/27にメインネットbetaをローンチしました。(出典:Polygon「Polygon zkEVM Mainnet Beta is LivePolygon https://polygon.technology/blog/polygon-zkevm-mainnet-beta-is-live?utm_source=twitter&utm_medium=social&utm_campaign=zkevm-launch&utm_term=mainnet-beta-live&utm_content=blog」)
Polygon zkEVMは、Ethereumのセキュリティを活用しながら、ZKプルーフによってトランザクションの有効性を保証し、検証データをEthereumチェーンに公開します。
開発元であるPolygon Labsにはもう一つpolygon 2.0(PoS)と呼ばれるL2ソリューションがあります。こちらは既存のPolygon PoSのアップグレード版であり、rollupソリューションとしてValidiumという技術を採用しています。polygon zk-EVMと基本は同じ仕組みですが、トランザクションデータの検証をオフチェーンで行う点が特徴であり、具体的にはPolygonチェーンのデータ可用性(DA)部分をAvailブロックチェーンに置き換えています。
これによりL1にポストするデータ量を最大90%削減し、チェーンの運用コストを大幅に下げ、エンドユーザーにとってはるかに安い取引手数料を可能にしました。
ただしデータ検証部分はオフチェーンで行われるため、純粋なRollupよりもセキュリティが低下する可能性はあります。
またこれら二つはクロスチェーンブリッジに対応しているため、それぞれの特徴に合わせて容易に使い分けを行うことが可能となります。
主な用途として、Polygon zkEVMは、高いセキュリティが必要なDefi上取引などのアプリケーションに適しています。
一方、zkEVM validiumは、大規模なトランザクション処理が必要なアプリケーションや低い手数料が求められる場合(Gamefi、 etc)に適しています。
PolygonはAstarとの提携や、Type-1 proverと呼ばれるEVM搭載チェーンへのzkEVM化技術の発表など、その影響力を強めています。
まとめ
ひとえにzkテクノロジーといっても、様々な適用や応用のされ方がなされており、zkEVMにおいても複数の試みがなされてきています。今後もどのTypeが主流になるか、またどういったDAレイヤーの組み合わせ方がなされていくかに注目していければと思います。
また、本稿は筆者のディレクションの元、インターンのモシュケリがリサーチを重ねたことクレジットを記載しておきます。
zkEVMのみならず、Web3の主要トレンドは引き続きnoteにまとめていければと考えていますので、多くの皆様とアクティブな情報交換ができれば幸いです。
Web3やベンチャー資金調達にご興味ある読者がいらっしゃいましたら、是非HIRACメンバーや檜山へは是非お気軽にご連絡ください。