日曜日

「腕がもう一本生えるとしたら、どこがいい?」

憂鬱な夜。あの国民的な、平家の大家族アニメもちょっと前に終わったところ。


何度もこうして夜風に吹かれたなあ。

「腕がもう一本生えるとしたらどこからがいいと思う?」

「なんだ急に。」

「考えてよ。」

「うーん、いらないけどなあ。強いて言えばお腹とか。」

「なんでよ。」
「見えたら生活に支障出るじゃん。」

「…ふーん。ふつうだね。」

4階のベランダは、月明かりが鈍く差している。
2人でいるには少々狭いが秘密基地みたいで、気に入っているんだ。

「なんだそれ。じゃあ、キミはどこからがいいの?」
「私はのど。」

「え、のど? のどって首?」
「 首じゃないよ。のどの内側。」
「使えないじゃん、そんなとこに腕あっても。」


右側に目をやった。
彼女はフェンスに肘をかけ、広がる住宅街を見ている。


「めっちゃほしいものがあるときってさ、喉から手が出るほど欲しいっていうじゃん?」

「うん、あるねそういうことわざ。」
「だからね、実際に喉から手出してびっくりさせてやんの。」

「なんの意味があんのよ。」
「面白いじゃん。」

「そうか…。」

「…………そろそろ中入ろ。」
「うん。」

…いつもより部屋が白く見える。
 部屋が片付いているせいか…。

「はいこれ。鍵返すね。」
「ん。」

「今までありがとうね。」
「…うん、こちらこそ。」

「じゃあ私行くから。今日は友達んち泊まる。」
「わかった。気をつけて。」

「はーい、じゃあね。」
「うん、じゃあね。」

うちの扉、金具に油差した方がいいな…。

部屋はの中は居心地が悪い。となれば行くところは決まっていた。

ベランダ、少し広くなったな。タバコに火をつける。一年と4ヶ月ぶりだ。

腕ってどこから生えたら面白いんだろう…。

考えてみたけれど、やっぱりお腹なんだよなあ。
なんだよ。のどって。

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