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石井力重 著 使えるアイデアがあふれ出る「すごいブレスト」フォレスト出版 書籍レビュー
みなさんは、仕事で、新しいアイデアを考えるために、ブレストを行った経験がある人が多いのではないだろうか。そして、結果として、あまりいい成果が得られなかった方が多いのではないだろうか。
そのブレストの方法について、研究、研修講師、書籍を出版している人物を見つけた。我流になりがちなブレストについて、日本初のブレスト入門書が本書である。
初めに著者の石井力重氏に触れる。石井氏は、現在、アイデアプラント社の代表、早稲田大学・奈良女子大学 非常勤講師(デザイン論、創造学)を務める。大学では、工学、経済学を学び、さらに創造工学を研究する。国立の研究機関で勤務後、現在代表を務めるアイデアプラントを設立。創造工学の研究、ブレインストーミング・ツールの開発、アイデアソンのデザインとファシリテェーション、創造研修を行っている。研修を実施した企業・教育機関はこれまで600件以上でのべ2万人以上が参加。実施企業は、グーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、富士通、KDDIなど。ブレストを研究、その成果をビジネス、教育に生かして活躍中の人物である。
初めに、本書の冒頭に書かれた文章を紹介する。
私は創造工学を研究しています。今回ブレストの本をかきました。なぜかと言いますと「ブレストが苦痛だ」「ブレストをしても良いアイデアが出てこない」という声が多かったからです。
今後、テクノロジーが進化していくと、人間に残される仕事は「創造」です。そして「アイデア出し」はその基礎となります。
そした時代を見据えて、企業や大学では「さまざまなブレストの実践講座」が増えており、成果も出ています。
そしてオンラインであってもやりやすいブレストの方法があるので、今回はそれについて紹介したいと思います。
本書の構成は、
第一章「なぜブレストがアイデア出しに有効なのか?」や「超基本・ブレストの手順」について
第二章「最も失敗の少ないオンライン・ブレストのやり方」の解説
第三章「大人数でも実践できるオンライン・ブレスト」を解説
第四章「1人でアイデア出しをする」ときのテクニックを紹介
第五章「アイデアの整理」の方法を解説
第六章「ブレストの秘訣」を紹介
第七章「短期間でアイデアをきたえる」方法を解説
第八章「創造工学の雑談」として、創造的な努力を続けるうえで役に立つエッセンスを紹介
で、ブレストのノウハウを解説している。
第一章「なぜブレストがアイデア出しに有効なのか?」や「超基本・ブレストの手順」について
ブレストがうまいと、優れたアイデアを得られる確率が各段に高まります。(中略)アイデアの創出には「量が質をもたらす」という傾向があります。ですから、まずはたくさんアイデアを出さなければなりません。「優れたアイデアを生む出したかったら、良い/悪いはひとまず脇に置いて、とにかくアイデアをたくさん出す」。これが鉄則です。(中略)
まずブレストの基本を押さえておきましょう。
アイデアは既存の要素の組み合わせ
イノベーションは既存の生産要素のまったく新しい組み合わせ
この2つの考え方に基づくと、人間がアイデアを作り出すときには脳の中にあるさまざまなアイデアのパーツを組み合わせる作業をするということになります。この作業を1人の脳でやるよりも、複数人の脳を使ってやるほうが多様性があり、良いアイデアが生まれる可能性が高くなります。(中略)このみんなで集まってアイデアを出し合う行為に、一定のやり方を定めて「ブレイン・ストーミング」と名づけたのが、アメリカの広告代理店の副社長をしていたアレックス・F・ボーンという人です。
ブレストをざっくりひと事で言ってしまえば、集団発想法の一つです。(中略)参加者全員が創造的イマジネーションを発揮しやすいように、安心・安全な心理状態にいられるようにするための、話し合うときのちょっとしたルールを設けましょう。
具体的なブレストは次のような流れで行います。
01準備
テーマオーナー(ブレストのテーマを持ち込む人)がメンバーに参加を依頼します。
資材を準備します。付箋やノート、ペン、ホワイトボードなどの筆記用具、そして場合によっては、飲み物や休憩時につまむお菓子なども。
もし、メンバー全員がブレストの進め方になれていないようであれば、誰か一人がファシリテーター(進行役)になり、進行をリードします。
02テーマの紹介
テーマオーナーは、みんなにアイデアを出してもらいたいテーマを紹介します たとえば「新しい〇〇のアイデアについて」などというテーマをホワイトボードの上のほうに大きく書くなどして、みんなの目に入るところにはっきり掲示します。
みんなでテーマについて質問したり、アイデアを考えるにあたって必要な背景などの情報を追加で聞き出したりして、全員がテーマを理解するようにします。
03発想して、発言して、書き出す
ブレストを開始します。参加者は、アイデアを思いついたら即座に発言します。順番に発言するとか、偉い人から先に話すというようなルールや忖度はなしで、とにかく思いついた人からどんどん発言します。
ただひたすら、みんなでアイデアを列挙するようにします。
書記役の人は、あがってきたアイデアをホワイト・ボードに書いていきます。書記役がいない場合は各自がポストイットに書留ます。
一方、ファシリテーター(進行役)は、創造的な会話がしやすくなるように、場の雰囲気づくりや発言をうながしたりします。
04獲得
ブレストが終了したらテーマオーナーは、出てきたアイデアを見て、記憶が新鮮なうちに、アイデアリストを書き出します。ホワイトボードやポストイットの内容をPCなどに書き写します。ブレストの最中に書かれたものはいわば”速記メモ”なので、必要に応じて言葉を補って書いておかないと、あとで内容を思い出せなくなったりするので、アイデアが集まったらすぐに整理するようにします。
また、テーマオーナーは、発言者に質問したいことがあれば、場を終了する前に聞いておきます。
終了にあたって、テーマオーナーは参加者にお礼を言います。そして、みんなで会場を片付けます。
第二章「最も失敗の少ないオンライン・ブレストのやり方」の解説
「フリップボード・ブレスト(FBS)」は、オンラインでもリアルでも最も進めやすく、失敗することが少ない方法です。
必要なものは、A4サイズぐらいの紙とマーカー(または太めのマジックペン)だけ。
まず一人でアイデアをじっくり考えて、それをフリップボードに書いてみんなに見せる、そして全員でアイデアを共有してブレストする(意見を言ったり、アイデアを広げるなど)という、基本的な動作の繰り返しなので、なれてしまえばとてもスムーズに進めることが出来ます。
「フリップボード」(アイデアスケッチ)
まず一番上にアイデアをひと言で表現したものを書きます。次に、上から4分の1くらいのところに太い線を1本引きます。その下にアイデアの補足情報を箇条書き(3つくらい)で書きます。
空いているスペースに、イラストや図などを入れてもOKです。
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道具
100円ショップで売っているスケッチブックやノートで十分です。あるいは、メモ用紙やA4サイズのコピー用紙を適当に束ねて使っていただくのでもかまいません。
マーカーは芯が十分に太くて、書いた文字がはっきり見えるもの。たとえば、プロッキーとか紙用マッキーなどがおすすめです。
手順
STEP0:テーマの設定(説明&質疑&定義5分)
STEP1:1人の時間(考える&書く5分)
STEP2:集団の時間(説明&ブレスト2分X人数)
STEP3:「1人の時間」と「集団の時間」を繰り返す(2~4回程度)
第四章 1人ブレストでアイデアをどんどん出す方法
良質なアイデアを発想するためには、良質な材料を大量に仕入れる必要があります。
・新聞や雑誌を見る
・ネットを検索する
・特許検索
・テレビを見る
・新しいものを食べに行ったり、面白いサービスを体験してみる
・自分の仕事の領域に関連する製品やサービスのユーザーがたくさんいる現場でしばらくすごす
・カフェや居酒屋で周囲の人たちの何気ない会話に聞き耳を立て、ヒントを得る
・家族や社外の友人と話す
要は「新しい情報にたくさんふれることでアイデアの材料を増やす」ということですが、そうそう都合良くはいかないでしょう。でも、いいのです。直接的に材料にならなくても「新しい考えを誘発する刺激」になりますから。
「別の時間の自分は別の人」ー人間誰しもそういう面がありますが、ここで紹介するアイデア発想法はこの人間の性質を利用しようとするアプローチです。
人間の頭の中には、「知っているけど、意図的に思い出せない記憶」が大量にストックされています。
この膨大なストック(情報、着想のかけら)を自分でぐるぐるとかき混ぜ、活性化してアイデアの材料にします。
そのためのさまざまな発想法があります。
まず代表的なものは「エクスカーション」です。
たとえば、動物を10種類ほど思い浮かべて、さまざまな特徴や機能を書き出す、そしてそれを自分が今抱えているテーマと強制的に組み合わせてみます。
また、芋づる式に発想を引き出す方法もあります。たとえば、マインドマップやマンダラートなどです。
また、日ごろから断片的なアイデアや思いつきをノートや情報カードなどに書き溜めてストックしておき、アイデアが必要になったときに読み返すという方法も有効です。
人間は頭の中に入っている情報をすべて使って考えることはしません。脳内の膨大な情報空間の中に「今、意識を向けているエリア」があり、そのエリア内にあるものしか「思考の作業台」の上には載らないのです。
「1人で他家受粉」をするときは、まずは頭の中にある思考のかけらを、テーマに関係ないものも含めて、大量に紙に書き出すことです。そして、テーマとは無関係と思われる要素であっても無理やりテーマと組み合わせてみて、「何か意味のあるアイデアを作れないか」と考えてみます。こうすると「今、この瞬間の自分」にとっては「外」から来たものを使って発想ができます。
「ブレストの4つのルール」というものがあるのですが、その本質は創造的イマジネーションへのガイドなのです。
①まずは徹底的にアイデアを出し尽くす。そこからさらに出す(すべてを吐き出すと新しいアイデアが浮かぶ余地が生まれる)。
②他人のアイデアを非難しない。良いところだけを見つけて言うようにする(誰もが思いついたことを言いやすい雰囲気になり、創造性が高まる)。
③できるかどうかわからない未成熟なアイデアも、突飛なアイデアもかまわず出す(そのままでは使えないアイデアであっても、場に新規性や多様性をもたらす)。
④出たアイデアを面白がる。その面白い要素をもとにさらにアイデアを出す(1つのアイデアからさまざまな可能性を探索する)。
1人ブレストの際には、自分が書き出したアイデア(特に先ほど紹介した突飛なアイデア)を第三者の面白がる姿勢でみることで中核を探します。それに具体的な部分を新たにつけ加えて、現実的に成り立つようなアイデアにします。
あるいは組み合わせたり、結合できそうなアイデアを2つ見つけて、それぞれの中核を足してみて、それに具体的な部分をつけ加えて、融合案に発展させるということもできます。
第5章アイデアを整理して良いアイデアを選び出す方法
ブレストがうまくいってアイデアがたくさん出せたら、次はアイデアを整理します。個々のアイデアを評価して絞り込みます。
創造工学には「発散(ブレスト)の4つのルール」と対をなす「収束の5つのルール」があります。
01肯定(劣ったところではなく、欲している要素を見る)
02公平(先入観を外し、全案を同じように扱う)
03目標(ぶれないよう、当初の目標をガイドにする)
04改良(ふるいにかける前に、改良に時間を費やす)
05新規(独自の案の可能性を信じ、早期に捨てない)
アイデア整理に秀でた人は、のちに輝く「原石」を取り逃がすのを避けるためにこうした基本姿勢を持っています。
〇アイデアがたくさんありすぎて困ったときはハイライト法。
(100のアイデアを20まで絞る)。
ブレストのあとで、全員で、各人が自分にとって魅力的なアイデアに☆をつける。ただし、1つのアイデアに1人がつけられる☆は1個まで。これを行うと
・参加者の4分の3以上の人が☆をつけるアイデア:4%
・参加者の2分の1以上の人が☆をつけるアイデア:15%(上位4%含む)
・☆が1つ以上つくアイデア:55%(上の15%含む)
・☆がゼロのアイデア:45%
に、多くのケースが、この割合を示します。
この上位15%と、☆が1~2つのエリアから1人1つずつ拾い上げ、数の多い全体数の5%程度を拾い上げる。
〇評価に足るようにアイデアの具体を描く「誰・何・ねらい&仕組み」
アイデアが20個程度まで絞り込まれたところから話をスタートします。
まず、ある程度育ったアイデアには構造があります。「What部分(理想案)」と「How部分(解決策)」で構成されています。(中略)
もし、アイデアが付箋やホワイトボードに記載された1行アイデアの状態であったならば、アイデアごとにスライドを1枚用意します。
・スライドのタイトル部=アイデアのひと言表現
・本文の左=アイデアのWhat=誰に、何を、ねらい
・本文の右=アイデアのHow=具体的な機構や仕組み
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アイデアのHowは、構造を持つ製品なら「機構」、オンラインサービスなら「サービス・モデル」を考えます。
〇AFマッピング
アイデアを出したあとの整理方法はいろいろありますが、2軸でマッピングするのがおすすめです。A(魅力度)とF(実現可能性)の2軸が基本です。
A=アトラクティブネス(魅力度)
B=フィージビリティ(実現可能性)
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A軸とF軸の2軸上に各アイデアをマッピングします。
まず、各軸にとって最も「筋がいい」と思われるアイデアを1つずつ選び、それを「1」(軸上の最大)のところに置きます。
ほかのアイデアは、最初に選んだアイデアと比べてどうかという基準でマッピングしていきます。これが基本のやり方です。(中略)
無理やりにでも数値化してみると、付箋がうまい具合に散らばって配置されます。(中略)
たいていは、ベストなアイデアがダメになったときに備えて、バックアップとして3案くらいを成果にすることが多いので、バランス型、A重視、F重視で3案を残すといいでしょう。
以上が本書の概要である。
私が本書を通じた学びは、
〇ブレストの基本
アイデアは既存の要素の組み合わせ
イノベーションは既存の生産要素のまったく新しい組み合わせ
〇「フリップボード・ブレスト(FBS)」
手順、フリップボードの書き方等の紹介があり、自分が今までにやってきたブレストとは異なる手法で、具体的なアイデアの創出に役立つと感じた
である。
本書には、オンライン・ブレストを始めとした、さまざまな状況に応じたブレストのやり方、具体例が紹介されており、ブレストを行う機会が多い人、新しいアイデアの創出に興味、関心がある方には、一読をお勧めする。