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書評「身銭を切れ」ナシーム・ニコラス・タレブ
「身銭を切れ」は、不確実性が蔓延する現代社会において、私たちがどれほど自分の行動に責任を持ち、他人と対等な立場で物事に向き合えるかを鋭く問いかける一冊です。
ナシーム・ニコラス・タレブは、「ブラック・スワン」や「反脆弱性」といった著作で知られ、予測不能な出来事にどう対処すべきかを探求してきました。
本書では「身銭を切る」ことを通じて、個人や組織がリスクと責任をどのように共有すべきかを論じています。
身銭を切れというメッセージ
本書の中心テーマの一つは、他者にリスクを押し付けることの問題と、それに対する自己責任の重要性です。タレブは、以下のように述べています。
ほかの人にリスクを背負わせ、相手が危害をこうむったのなら、あなた自身がその代償の一部を払うのが仁義というものだ。「自分がしてほしいことを他者にもせよ」という原則に従うなら、あなた自身も、起こった出来事に対する責任を公平公正に負担するべきなのだ。
つまり、あなたが何か意見を述べ、誰かがその意見に従ったのなら、あなた自身もその結果に対してリスクを負う道義的な義務がある。経済的な見解を述べるなら、
あなたの〝考え〟ではなく、ポートフォリオの中味を教えろ。
この引用は、他者にリスクを押し付ける行為の問題点を明確に示しています。タレブは、自身が発する意見や予測に対しても実際にリスクを伴う行動を取るべきだと主張しています。
「リスクを取らない批評家」の存在を批判し、実際にリスクを取らずに他者を評価することの無責任さを指摘します。真に価値のある批評は、自らもリスクを共有し、その評価に対して責任を持つことから始まるべきだと強調しています。
投資でいえば、相場について意見を言うならポートフォリオは意見と一致させるべきだということです。例えば「今年必ず相場は暴落する」と言うなら、ベアETF(相場が上がると価格が下がる商品)を多く含んだポートフォリオにするべきです。
投資の例に留まらず、タレブはあらゆる場面で「身銭を切る」重要性を説きます。例えば、目標設定の際に、失敗した場合のペナルティーを設けることで、真剣に目標達成に取り組む動機付けが生まれます。
自分の発言や目標に対して具体的なリスクを伴わせることで、傲慢さが抑制され、より誠実な行動が促されます。「身銭を切るという行為が、人間の傲慢さを抑制する」のです。
まとめ
本書を読んでいると、「身銭を切るからこそ、より良い判断ができる」という考え方の大切さが、あらためて胸に響きます。リスクを避けてばかりいては、実は本当の意味での知恵を手にすることができないのかもしれません。
仕事であれ勉強であれ、いざ自分が損害を被りうる立場になるからこそ、人間は真剣に問題と向き合い、学びも深まっていくのです。
「身銭を切れ」は、一見すると難解なテーマを扱っているように思えるかもしれません。しかし、その核心にあるのは、「自分が安全圏に逃げ込んだまま、他人だけにリスクを背負わせてはならない」という極めてシンプルなメッセージです。
本書を読むことで、自分の行動がどの程度リスクを共有しているのかを振り返ることができるでしょう。もしその視点が不足していると感じたら、小さな一歩でもいいので「身銭を切る」姿勢を意識してみるのがおすすめです。
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