犬に対して精一杯の虚勢を張ってみたものの、端から見たら何も起こっていない生か死かの話
とぼとぼ歩いていたら、向こうから品の良さそうなちいちゃいおばさんが、自分くらいあるシェパードっぽい犬連れてこっちに来た。
こう言ってはなんだが、私は犬が大の苦手だ。
生き物自体、心から苦手だ。
犬なんて知ってか知らずか高確率で吠えてきたり向かってきたりする。
得体が知れなすぎて心底怖い。
話の通じない人間の次に怖い。その次はおばけ。
おばさんの様子からしておそらくしつけはきちんとされていそうだ。
しかし事故というものは「万が一」に起きると相場は決まっている。
もしあのでかい犬が「ワン、ワン」とかいってこっちに向かってきた場合、
あの品の良さそうなちいちゃいおばさんでは、この臆病おばさんへの犬の攻撃を制御できないだろう。
私のこれまでの人生、犬との対峙はいつもただごとではない。
犬とか好きな人にはわからないと思うけど、
「一大事」「生命の危機」「生か死か」
こんなとこだ。
根っからの用心深さのおかげで犬関係の事故に遭ったことはない。
遭ったことがないからといって、油断はできないという対犬人生。
だが、今の私には飛将がいる。
犬好きなひとには、
「犬は『怖い!』って思うから余計向かって来るんだよ。ニコッ」
って耳にタコなくらい言われてきた。
じゃあ一生だめだ、どうせだめですよ、と諦めてきた対犬人生が今変わる。
私は牛がいるんだぞ。
ここにはいないけどな。
牛だぞ牛。
1000キロくらいあるからな。
ワンじゃなくて、モーだからな。
けっこうあれだからな。
とかいろいろ念じながら、平気なふりして歩いた。
おばさんは犬の散歩する人特有の「私のワンちゃんですぅ」、みたいな社交性出してきた。
だまされん!誰もが犬かわいいと思ってると思うなよ!
とうとう犬とすれ違う瞬間がきた。
犬は、
「はいこんにちは。」
みたいな感じで通りすぎていった。
私は無事だった。
何も起こらなかった。
今後も飛将の威を借ることにします。