死んだはずの父親から届いた、最後のメッセージ #テレ東ドラマシナリオ



■ 主な登場人物は


・ イシダ ケンイチ(30代後半)
・ メッセンジャー(20代)


■ ざっくり言うと

ケンイチの元にメッセンジャーを名乗る男が現れた。
そのメッセンジャーが持ってきたのは、父親からの別れの言葉。
ケンイチは今の妻と結婚するときに、父親との縁を切って死んだことにしていた。
父親が本当に死の淵にある今、ケンイチはメッセンジャーに伝言を託す。


■ くわしく


「今日はどこ行きたい?」

「ゆうえんちーっ!」
「えーっ、遊園地はこないだ行ったばっかりだろ」

「じゃあ、どーぶつえーん!」
「そうね、動物園、しばらく行ってないものね」

「やったぁ!」

どこにでもある休日の朝のやりとり。
ほのぼのとした家族の会話。


……と、
ピンポーン♪ 鳴る玄関のチャイム。


「誰かしら、日曜の朝から」
「ああいいよ、俺がでるから」

玄関に向かうケンイチ。
ドアを開けると……、

立っていたのは、青いジャンパーの男。

「ええっと、宅急便ですか」
「いえ、メッセージをお預かりしております」

「電報かなにか、ということですか?」
「いえ、口頭でお伝えしております」

青いジャンパーの男は、
口頭で伝えることを専門としたメッセンジャーだった。
青いジャンパーにもちゃんと、

「さよならメッセンジャー(株)」

と書いてある。


「それで、誰から?」

「お父様です」

「っ! ……私の父はもうとっくの昔に亡くなっています」

「ご依頼主のイシダミノル様は、あなた様のお父様ではありませんか?」
「……そのとおりですが」

「伝言をお伝えに参りました、イシダミノル様からの」
「ちょっ、ここじゃ困ります」

妻と娘を気にして、
メッセンジャーを公園へと連れ出すケンイチ。



ケンイチは父親のミノルを死んだことにしていた。
というよりもむしろ、父親の方から

「俺は死んだものとして扱ってくれ」

と言われていたのだった。



それは、ケンイチが今の妻と交際をはじめた頃のこと。

ケンイチの父親は建築現場の現場監督だった。
しかしその現場で事故が発生。
部下が一人亡くなった。

その現場監督だったケンイチの父親は、業務上過失致死の罪で有罪判決を受けた。

そして、
「身内に前科者がいると肩身が狭いだろうから」
とケンイチの父親は自ら姿を消したのだった。

誰にも居場所を伝えることなく。

そしてその後、父親からケンイチへの連絡はまったくない。




「それで父からのメッセージというのは?」

公園のベンチに座っているケンイチとメッセンジャー。


「はい、ではお伝えいたします。
『ありがとう。お前のような息子を持って、俺は誇りに思う』
以上となります」


「ちょっと待って。それじゃよく意味が……」


「私は言われたことを言われたようにお伝えするのが仕事ですから」

「もうちょっとほら、どこで言ったとか、どんな状況で言ったとか」
「それは個人情報にあたりますので」

「そうか。でもなぁ……」
「確かにお伝えしましたので、こちらにサインを」
配達伝票を差し出すメッセンジャー。


サインをためらっているケンイチ。


困惑気味のメッセンジャー。
急にヒソヒソ声になり、ケンイチにささやく。

「今から言うことは……僕が教えたってことは内緒にしてくださいね。服務違反になりますので」

「……わかった」

ふぅ……
息をついて話しはじめるメッセンジャー。


「あなた様のお父様は、まもなく亡くなります」

「っ!!」

「お父様からのご依頼は、病院の集中治療室でお受けしました。最後にどうしても息子に言っておきたいことがある、と」

「病名は?」
「そこまでは、こちらではちょっと……」

「そうか……死ぬのか……」
放心しているケンイチ。

「実はオレの父、前科もちでさ……」
静かに話し始めるケンイチ。

「不思議だよね。「家族の縁切るために俺を死んだことにしろ」って父が言った時、オレ、ちょっとホッとしたんだよ、正直」

「でもさ、本当に死ぬってなるとさ、……オレ、……オレ」

言葉をつまらせるケンイチ。
黙って聞いているメッセンジャー。

「もう一回言ってくれる? さっきの伝言」


ゆっくりとうなずくメッセンジャー。
「ありがとう。お前のような息子を持って、俺は誇りに思う」


その言葉を聞いて、黙ってうなずくケンイチ。


「お見舞いに行かれますか?」
「教えてくれるんですか、父の居場所を」
「今回は特別です。本来はこれも服務違反になっちゃうんですけどね」
優しい笑みを浮かべるメッセンジャー。


するとそこに、

「パパーっ!」


手を振りながらやってくる娘と妻。
満面の笑みでとても楽しそう。


そんな娘の姿に、
幼かったあの時の自分の姿がふっと重なる。

肩車をされて見に行った動物園、
キャッチボールをした河川敷、
お腹がはち切れるまで食べたバーベキュー。

2人で一緒に遊んだ姿を、今でも鮮明に思い出せる。


「父さん……」


ただただ静かに涙を流すケンイチ。
とたとたとた、駆けてくるケンイチの娘。

「パパ、泣いてるの?」
「ん? ふふ……」

曖昧にごまかすケンイチ。

「おじちゃん、パパいじめちゃダメ!」

ぽかぽかぽか、
メッセンジャーを叩くケンイチの娘。

「うわぁー、やられたーっ!」
死んだふりをするメッセンジャー。

ケンイチは娘をじっと見ている。
とても優しい、思いやりに満ちた眼差しで。


そして、覚悟を決めた表情でメッセンジャーに向かって告げた。

「やめておくよ、行くのは」
「いいんですか。最後かもしれませんよ」

起き上がるメッセンジャー。

「いいんです。病院に行ってしまったら、わざわざあなたに伝言を託した、父の気持ちを台無しにすることになりますから」


「……わかりました。羨ましい親子です」

「でも、1つだけ」
と、ケンイチは人差し指を立てて言った。

「はい」

「伝言を頼みます。
『ありがとう。僕もあなたを誇りに思う』
と」


「かしこまりました」
去ってゆくメッセンジャー。



「なんかあったの?」
近づいてくるケンイチの妻。


「ううん、なんでもない」

「パパをいじめるワルモノをやっつけたんだよ、ワタシ」
「うんうん、強かったよねー」

娘の頭をわしゃわしゃとなでてやるケンイチ。

「肩車してあげよっか」
「いいの? やったぁ~っ!」

無邪気に喜ぶケンイチの娘。


「来週は絶対行こうな、動物園」
「うんっ!」


                  (おわり)



■ 今回使用したテーマは


みねたろうさん作の
【#100文字ドラマ】そのさよなら、代行します


■ 最後に

こんにちは、ひとつもです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございます。


6本投稿できることを目標にやってます。
と言いつつ、すでに7本目です。

ひとつでも、これ好き、って思ってもらえるストーリーがあったらいいなって思います。

台本の本文は書けたら書きます。






それはもう、とてもとても大切に使わせていただきます。