<ひととてまnaヒト vol.02前編>薬膳は"気づける力"。あそび心で暮らしを楽しく(だしな薬膳 石丸由美子さん)
こんにちは!
【ひととてまnaヒト】担当のマイコです。
第2回に登場いただくのは、”薬膳”の智恵で暮らしをプロデュースする、だしな薬膳の石丸由美子さん。日本のだし文化と結びつけた薬膳や、季節やテーマごとの企画など、日々の暮らしに取り入れやすい薬膳を提案されています。
国際中医師でもある石丸さんの深い知識はもちろん、気さくで明るい人柄とわかりやすいトークも人気。薬膳のおもしろさや調子を整えて暮らしを楽しむ秘訣を伺いました。
それではどうぞ!
薬膳は"気づける力"。あそび心で暮らしを楽しく(だしな薬膳 石丸由美子さん)
食材の”働き”を知っていると、食生活が豊かになる
マイコ(以下、M):
薬膳は、「身体に良さそう」「食べたら元気になる」というイメージはありつつ、自分でやってみるという発想はなかったんです。石丸さんは、薬膳のいろいろな企画や講座をやられていて、日々の暮らしに取り入れられそうで興味がわきました。
まずは、石丸さんの考える薬膳の魅力からお伺いできますか。
石丸由美子さん(以下、石丸):
「薬膳は苦くてまずい」というイメージじゃなくて良かった!(笑)。そういうイメージはだいぶ払拭されましたけど。
薬膳は(中国の伝統医学の)中医学を基にしたお食事版です。中国古来の植物学の智恵を、今の時代にあわせた形でお料理や保存食、染め物などで生かしています。無駄がないのでSDGs的な視点でも学びがあると思います。
植物それぞれに特徴や働きがあって、それを知っているだけで食生活が豊かになります。自分の状態に合った働きの食べものを食べると調子が良くなるし、合わないとかえって不調を生んでしまう面も。もちろん食べものなので、そんなに大きな差異が出るわけではないですが、そういう不調に“気づける力”を勉強するのが薬膳だと思っています。
日々の生活に取り入れる「あそび方」と「応用力」を身につけてほしい
M:
“気づける力”というお話がありましたが、体調の変化に気付いたり、対応したりする力は、自分自身も身につけたいし、子育てをしていて意識することが多いです。
石丸:
外界の自然と人間も、身体の中の臓器同士もつながっているように、いろいろな事象のつながりを意識できるようになると、身体の変化に敏感になってきます。たとえば、「今日は突き刺す風になりそう」と感じ取って、ツボが多い首が冷えないようにストールを巻いて出かける、だとか。つながりや変化に気づけるようになると、自然と免疫力も上がります。
私の教えている薬膳講座では、理論を通してそれを学んでいくんですが、雑学として、テキストに出てこない生活の知恵や「あそび方」を織り込むようにしています。
M:
「あそび方」、ですか?
石丸:
そうそう。たとえば、『食材の緑豆が使い切れなくて余る』という人がいたら、『水を張ったバットに並べると、芽が出て緑豆もやしになるよ』と伝えます。実際やってみると、自分で栽培することで気づきがあったり、お子さんも食べものに興味をもってくれたりする。そういう雑学がとても大事。雑学を知った上で、理論を学ぶと生活と結びつきやすいんです。
M:
自分との接点を見つけるヒントが、雑学として散りばめてあるんですね。
石丸:
机上の話だったのが、生活と結びついて自分ごとになると、ぐっと感度が上がって“気づける力”につながります。
あとは、実際に暮らしの中で使える“応用力”を身につけてほしいと思っています。たとえば「トマトが夏の熱冷ましにいい」という情報は、テレビなどで目にして興味を持ってもらいやすいけれど、それだけだと応用が難しいですよね。少し理屈を覚えると、「こんなこともやれるかな」「ここを変えてみよう」と応用の仕方がわかってきます。「トマトはいい」という情報の背景にある、基礎的な理論を身につけると、日々の暮らしへの“応用力”につながります。
ふだんの料理に薬膳のエッセンスを
M:
薬膳というと、特別な食材を使っていないといけない、というわけではないんですか?
石丸:
薬膳で有名な食材だと、ナツメやクコの実などがあると思いますが、これを使わないと、ということではないんですよ。
薬膳を一言でいうとしたら「バランス」。悪いものは何もなく、そのときに自分に良いものを取り入れたり、捨てたりしてバランスを取るのがいい。妊婦さんや体質などで注意したほうがいい食材はあっても、「これはダメ」「あれはダメ」ということはなくて、基本的に生きものは全部OK。自分も生きものですから。植物か人間かという違いだけで、上下関係もなく、生きもの同士がお互いに上手に支え合う、保つ関係性が薬膳の好きなところです。
M:
そうすると、普段の料理でも、薬膳の考え方を取り入れられるんですか?
石丸:
うちのクラスでも、ふつうの料理でびっくりされますよ(笑)。
「今ストレスが溜まって鬱々している」とか、「人にあまり会いたくない気分」とか、自分の状態に合わせて料理を工夫してみるんです。たとえば、きんぴらは、ゴボウとニンジンの普段のきんぴらを、レンコンと蓮の実に変えたり、気の巡りを良くする陳皮のみかんの皮を入れたりして調整するのが薬膳の考え方。こだわりすぎると一般の人は食べつけない料理になってしまうので、そこはちょっと工夫が必要で、身近なものに置き換える工夫が楽しいんです。クラスでは、『肉じゃがを薬膳的にするとき、何を使いますか?』ということもやっていました。
M:
おもしろそうです! 普段の料理から調整できるんですね。
石丸:
ね。おもしろいでしょ?
そうすると、『体質が家族それぞれ違うのに、1人に合わせた料理だともったいない』という意見がきたりします。でも、たとえば、鍋を作るとき、白菜とかオーソドックスなものを入れておいて、血が足りない人なら、ここにクコの実や、ほうれん草、小松菜を足してみたり、潤いが足りない人は、白キクラゲやヤマイモを入れてみたりすることも出来ます。そういうふうに、一種類ベースがあると、全体図が変わってもいいと気づいていくんです。
講座の中では、実際に試食しながら、味が合わなければ別の食材に変えたり、自分に合うように工夫をしてみたりします。実際、家でユニークな料理を創作して持ってきてくれる方もいるんですよ。間違っていてもよくて、やってみて気づくことが素晴らしいんです。
―――
まだまだ話は尽きませんが、続きは後編へ!
後編では、石丸さんが薬膳に惹かれた経緯や“だしな薬膳”という屋号に込めた想いなどをお届けします。
【写真・企画:平野智子】
【聞き手・文:片岡麻衣子】