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クラシック音楽をTRPGで使おう!2

2022/12/6:マガジンにしました。


ありがたいことに、前回の拙著にご好評いただいている。

クラシック音楽の権利について

楽曲紹介の前に、前回ほぼ触れなかった、クラシック音楽に関する著作権、著作隣接権の扱いについてかんたんに説明する。「そもそも著作権と著作隣接権って何?」という諸氏は、先にこちらを読んでおいてほしい。

著作権

著作権の保護期間は,原則として著作者の生存年間及びその死後70年間です。

著作者の権利の発生及び保護期間について
文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/hogokikan.html

これには例外がある。2018年12月30日付で、保護期間が死後50年から70年に法改正された。一度保護期間が切れた著作物は、再度保護されない。よって2018年12月29日までに死後50年経過した著作物は、保護期間が切れたものとして扱われる。このあたりは、下記の文化庁Q&Aページが詳しい。

また、クラシック音楽といっても、19世紀末~20世紀ぐらいの作曲家だと、保護期間が生きている楽曲も多いので気をつけよう。超親切な会社が「あるある」を下記サイトにまとめているので、ぜひ参考にしよう。

ここに載っていない作曲家だと、「カルミナ・ブラーナ」のカール・オルフが該当する。なんと没1982年だ。長生きである。

さらに、編曲(アレンジ)にも著作権はある。たとえば、曲はパブリックドメインだが歌詞が保護期間中、なんてことはよくある。気をつけよう。

著作隣接権

実演,レコード発行が行われたときから70年間,放送又は有線放送が行われたときから50年間

著作隣接権
文化庁
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosaku_rinsetsuken.html

これもまた、先ほど紹介した2018年12月30日付の法改正にともなう例外があるので、各自確認してほしい。具体例を述べると、前回紹介したサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」は1959年9月録音だが、2010年に50年の保護期間が切れているので、自由に使える。

海外の著作物

クラシック音楽の多くは海外の作者によるものなうえ、録音も海外のものが多い。多くの国々は著作権に関する条約(ベルヌ条約、万国著作権条約など)を結んでおり、日本で使う場合は日本の法律が適用される。相手国が日本より長い保護期間であっても、内国民待遇により70年のみ保護される。

ただし、日本より保護期間の短い国の著作物の場合は特例で、相互主義により相手国の保護期間だけ保護される。著作権法第五十八条に記載がある。

たとえばカナダの著作権は2022年時点で50年なので、カナダで発表された著作物は、作者の死後50年経過すると日本でもパブリックドメインとなる。

素人解説は以上である。以下、あくまで自己責任での利用をお願いする。特に商用利用では慎重にされたし。

では曲の紹介に入ろう。今回は、Twitterで頂戴したコメントもいくつか参考にした。

戦闘BGM

ピアノ協奏曲 ト長調 第三楽章 ラヴェル

※音源最後 Ravel:Piano Concerto in G major [3.Presto]

合法的に流せるゴジラ。伊福部昭がラヴェルをリスペクトしたので、この曲をゴジラと言うのはかなり失礼だが、実際ゴジラなのだから仕方ない。どうあがいてもゴジラなことを除けば、勇ましく緩急もあり、ちょっとしたボス戦やトラブルにぴったりだ。

ピアノ・ソナタ第14番「月光」 嬰ハ短調 Op.27-2 第三楽章 ベートーヴェン

※音源3番目 Beethoven: Piano Sonata No.14 In C Sharp Minor, Op.27 No.2 "Moonlight "[3. Presto agitato]

美しく狂気的な戦闘曲。指定はPresto agitatoの意味は「激して。興奮して。せき込んで。」である。最初から最後までまさにルナティックだ。物語において重い意味のある、特別な戦闘にふさわしいだろう。

ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」 ニ短調 Op.31-2 第三楽章 ベートーヴェン

「月光」が入るなら「テンペスト」もね、と、もう一曲ベートーヴェンのバトル向けピアノソナタをねじ込んでいく。「月光」に比べるとより無軌道で、一瞬も立ち止まらない疾走感がウリだ。風属性のテーマかもしれない(大嘘)。

弦楽四重奏曲第3番 Sz.85 第2曲 バルトーク

※音源2番目 Bartok:String Quartet No.3, Sz.85 [2.Allegro]

狂乱の弦楽四重奏。バルトークは最近の作曲家(1945年没)らしく、疾風怒濤の不協和音大乱舞である。「不協和音のやべーやつ」というくくりでは、このあと紹介するプロコフィエフあたりと時代も系統も似ている。この系統が気に入ったひとは、ぜひ他の曲も漁ってみよう。やべーやつらである。

ダンジョンBGM

ベスガマルク組曲 4. パスピエ(Passepied) ドビュッシー

※音源最後 Debbussy:Suite bergamasque [4.Passepied]

ホンマにダンジョンじゃん……。浅学ゆえ存じなかったが、出だしの一音からしてダンジョンである。かわいげとミステリアス、ひとさじの不気味さがいい風味を出している。どんなシチュエーションにでも似合うだろう。

2つの演奏会用練習曲 第1番変ニ長調「森のささやき」S.145-1 リスト

※音源5番目 Liszt:2つの演奏会用練習曲?第1番変ニ長調「森のささやき」S.145-1

名は体を表す。ちなみに「ささやき」は誤訳らしく、「森のざわめき」が正しいらしい。最初から最後までざわざわしている。タイトルどおり深い森に使うもよし、わりと激しいので軽い戦闘BGMにしてもいい。

不穏なイベントBGM

レクイエム ニ短調 K626より「怒りの日」 モーツァルト

※音源3番目 Mpzart:レクイエム「怒りの日」

みんな大好き「怒りの日」。モーツァルト作曲版は、神々しさと威厳が全面に出ており、格の違う存在を演出するにはぴったりだろう。歌唱となると気になるのが歌詞だが、ミサ曲なのでWikipediaに全対訳がある。

もう少しおごそかな訳が好みなら、下記サイトにパブリックドメインの訳が掲載されている。ありがたい。

レクイエムより「怒りの日」 ヴェルディ

※音源2番目 Verdi:Messa da Requiem.Dies irae: Dies irae

みんな大好き「怒りの日」その2。ヴェルディ作曲版は、冒頭の激しい旋律がたいへん有名だが、終盤の静かな緊張もまた味わい深い。ループせずに一発勝負でキメたい。

世紀毎の時間と瞬間的な時間 1. 悪意のある邪魔者 サティ

※音源1番目 Satie:Heures seculaires et instantanees [1.Obstacles venimeuv]

BGMの神ことサティ。グノシエンヌを推す声をよく見受けたが、私は敢えてこの曲を推す。なんとも言えない間の抜けた、いやらしい、まさに「悪意のある邪魔者」。もちろん、グノシエンヌをはじめサティはほかの曲も使い勝手が良いので、ぜひあれこれ聴いてほしい。

※グノシエンヌはこれ。悲しいシーンのお供。↓

ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 Op.83 「戦争ソナタ」 第一楽章 プロコフィエフ

※音源1番目 Prokofieff:ピアノ・ソナタ第7番 変ロ長調 Op.83 「戦争ソナタ」 「第1楽章」

録音のノイズすら不気味さに貢献している。得体のしれない曲だ。どちらかというと現代に近い舞台のほうが似合うかもしれない。確実に何かが迫ってきている。私の好きなクラシック音楽の一つだ。

明るいイベントBGM

ゴルトベルク変奏曲 BWV988よりアリア J.S.バッハ

※音源1番目 Bach:Goldberg-Variationen in G majrt, BWV 988 [1.Air]

不眠症対策にうってつけの穏やかな曲だ。事件の間の日常、エピローグ、なごやかな食事のシーンなど、「なんとなく平和な曲を流したいな~」というときにぴったりだろう。

ちなみに先ほどはチェンバロ演奏版を紹介したが、映画でレクター博士が要求したグレン・グールド演奏版は、これである。(でもggったら映画で流れているのは1981年演奏らしい。)

水上の音楽 組曲第1番 第1曲 ヘンデル

※音源1番目 Handel:Water Music Suite1, HWV 348 [1.Overture]

ザ・王宮ミュージック。優雅で華やかな場所のBGMにもってこい。ヘンデルはほかにも「王宮の花火の音楽」など、みやびな音楽を多く作っている。ファンタジーな王宮はもちろん、お嬢さま学校から高級ホテルまで、使いどころは多くある。

レクイエムより「サンクトゥス」 ビクトリア

※音源5番目 Victoria:Requiem Mass [5.Sanctus]

明るいイベントなのにレクイエム!? オーケー、気持ちはわかる。ここでの「明るさ」は「神々しさ」「光属性」と思ってほしい。不穏組に振り分けたモーツァルトとヴェルディが闇属性としたら、ビクトリアはストイックな光属性のレクイエムだ。なにせ伴奏がない。輝かしい救い、大いなる力、堂々たる大神殿など、ぜひ使ってみてほしい。

ギャグBGM

交響曲第9番 ホ短調 作品95(B.178)「新世界より」第四楽章 ドヴォルザーク

※音源最後 Dvorak:Symphony No.9 in E minor, Op.95 "From the New World" [4.Allegro con fuoco]

出オチ曲の代表格。序盤の例のフレーズが勝負どころである。無理に切らず、そのあとも流しっぱなしにすると、BGMとしてほどよく定期的に面白いところが出てくる。とにかく元気のいい曲である。

交響曲第5番ハ短調 作品67「運命」第一楽章 ベートーヴェン

※音源1番目 Beethoven:交響曲第5番 ハ短調 作品67 「運命」 「第1楽章」

出オチ曲の代表格その2。やはり冒頭の「ジャジャジャジャーン」が勝負どころである。このフレーズ、指揮者によってけっこうノリが違うので、よければ音源を聞き比べてほしい。サイト内にたくさんある。

ラプソディ・イン・ブルー ガーシュイン

瞬発力を求めるなら2:57から。でもせっかく初めて聴くなら最初から聴いてほしい。「あ~、これね」となること請け合いである。ご紹介のとおり、ちょっぴり間の抜けたドタバタ劇にこの上なく似合う。しかもオシャレだ。ずるいぞ、ガーシュイン。

序曲「天国と地獄」 オッフェンバック

例のパートは7:22から始まる。どうせパブリックドメインなので、お好みのところで切り抜くのもいいだろう。どうあがいても運動会の完成だ。

さらに探したい人のために

これまで紹介したクラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~だけでは飽き足らない人、上記サイトに存在しない音源を探したい人のために、クラシック音楽を多数掲載しているサイトを紹介していく。ただし、下記には気をつけること。

  • クラシック音楽=パブリックドメイン(著作権保護期間切れ)ではない。編曲にも著作権はあり、演奏(打ち込み含む)にも著作隣接権がある。必ずサイトや楽曲の利用規約を確認すること。

  • (海外サイトについて)海外と日本では著作権法が異なる。条約加盟国であれば、最初に作品が公表された国(編曲、録音ふくむ)を「相手国」として、保護期間が「相手国>日本」なら日本の保護期間、「相手国<日本」なら相手国の保護期間が適用される。利用規約と併せて、必ず作曲者・編曲者の没年と、録音年を確認してから使うこと。紹介はするが、この辺りが不安なら、海外サイトは避けた方がいい

クラシック名曲サウンドライブラリー

クラシック音楽の打ち込みを実に700曲以上掲載している日本のサイト。もちろん著作隣接権があるので、利用規約(About)を必ず確認しよう。また、ダウンロードできないようにはなっているが、著作権の切れていない音楽の音源も一部あるので注意すること。

ポケットサウンド

クラシック音楽の打ち込みを100曲以上掲載している日本のサイト。もちろん著作隣接権があるので、利用規約を必ず確認しよう

音楽の素材屋さん

こちらもクラシック音楽の打ち込みを多数掲載している日本のサイト。もちろん著作隣接権があるので、利用規約を必ず確認しよう

IMSLP(国際楽譜図書館プロジェクト)※カナダのサイト

メインはパブリックドメインの楽譜だが、実に73000点以上の録音を掲載しているサイト。企業ではなく、多数の有志により運営されている。ありがたいことに、重要なページの多くは和訳されている。特に「よくある質問とその答え」には、IMSLPがどのようなサイトかが解説されているため、一読したほうがいい。

録音(Recording)はパブリックドメインとは限らないので、著作権欄を必ず確認すること。多くはクリエイティブ・コモンズに則って記載されている。また、レコード丸ごと一本掲載されていることも多いので、一本あたりの容量が大きい。編集を前提に、PCでの利用を強く推奨する。

Free Music Archive ※オランダのサイト

オランダのTribe of Noiseという企業が運営する、フリーの音楽サイト。クリエイティブ・コモンズに則って使える楽曲が15万曲以上あり、クラシック音楽も多数掲載されている。ただし、著作権が切れていない楽曲の音源もあるので、利用しないよう注意すること。

こちらもFAQやライセンスガイドを一読してから利用しよう。