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(無料記事)『12/3【クレジットカード会社等による表現規制「金融検閲」問題を考える】要約(前半)』2024-12-31

 まず前半をアップする。
 前後に分けたのは分量が多くなることと、前半がおおむね日本での問題(荻野幸太郎氏と山田太郎議員)、後半がジャック・ラーナー教授によるアメリカの問題解説が中心になるため、その方が見やすくなると判断しました。

冒頭:会合事務局あいさつ、談話
(うぐいすリボン理事・荻野幸太郎氏)

 平日のお忙しい時間にお集まり頂き、ありがとうございます。
ここに

・2024年に入ったあたりから、クレジットカードの運営が「なにか変わった」状況になりました。同人書店・アダルトサイトなどで次々と外資系の寡占企業2社(VISAとMastercard)の取り扱いができなった。

・しかし実際に何が起きているのかが非常に分かりにくい問題であり、加盟店や同人ショップは「契約をしている決済会社から言われて」、決済会社は「クレカ会社の本社から委託された調査会社とかコンサル会社から問題があるので対応しろと言われて…」と言う。契約上の守秘義務などもあり、誰がどこで何をしているのか分からない、非常に透明性の低い、伝言ゲームのような状態になっている。詳しいことを知っていても表に出せない状況が続いていた。

・調べていると、アメリカでも同じようなことが起きているんですが、少し日本と事情は違う。アメリカの少なくとも本屋では深刻な問題ではない。真面目な本屋だけではなく、アダルトな同人ショップみたいなところでもクレカが使えなくなるというような事態ではない。

・2012年にPayPalがそういう規制をしようとしたことがあったが、全米書店組合や電子フロンティア財団、アメリカ自由人権協会などが連合して抗議し、書店への介入が収まっている。

・アダルトサイトに関しても、停止事件などはあるもののその後復活したりしている。これは問題が「被写体が同意していないポルノの拡散」に集中しており、本人認証の徹底などで対応している。全てではないがアクワイアラー(※)によってアダルトサイトも扱われている。
(※アクワイアラー(accquirer):VISAやMastercard,JCBなどのクレジットカード会社と、カードを利用できる加盟店の間に立ち、加盟店の開拓や管理をする「加盟店契約会社」のこと)

・日本の場合は、実写でもない漫画や小説なのに、題材が近親相姦や獣姦を扱っている場合にクレカ会社が、違法でもないし誰も傷つけていないがクレカ会社の信用・名誉をきずつけるおそれということで取り扱いしないという領域がある。そこで事実上の表現規制が進んでしまうという状況が起きている。

・難しいのは、クレカ会社が民間企業の自由な経済活動であることから、それをどこまで規律できるかという点。この2~3週間で色々な動きが急速に進んでいる。国内でも、逆に海外での販売を促進するために日本の漫画アニメの純化を目指すという動きも出てきたり、経済産業省の中でも意見が分かれていて「よくない風」が吹いているという話も聞いている。

そうした深刻な状況の中で、今回の会を開かせて頂いた、まずは山田太郎参議院議員、およびアメリカでの状況について、カリフォルニア大学のジャック・ラーナー教授からの説明をいただく。

解説①「クレカ表現規制」
(参議院議員 山田太郎氏)

マンガ図書館Zについて

・成人向け作品も配信に含んではいるが、全体的にはアダルトサイトでないマンガ図書館Zが、閉鎖に追い込まれる事態になった。赤松健氏が創始したサービスである。
 マンガ図書館Zは5月にも、クレカ会社が指定する禁止表現を含む作品の配信停止をおこなっている。しかし10月ついに「アダルトコンテンツ」の取り扱いを理由に、決済代行会社から10月末で契約解除の通達を受けていた。
「決済代行会社と協議したが、カード会社の判断であり、当社では覆せない状況だった」とのことで、以降クレカ決済ができなくなっていた。
「作家への還元ができなくなるようなサイト運用は、結果的に作家・ユーザーからの信頼も裏切ると判断し、サイト決断を決断した」と運営のJコミックテラスは述べる。
 今後はサイト再始動を視野に、非営利団体への移行やクラファンの検討をする。

クレカ表現規制の歴史

・2019年8月、COMIC ZINの通販での成人向け書籍がクレカ不可に。これが山田氏がクレカ問題を認知し始めたはじまりのころで、非常に多くのメール相談を受けた。
 その頃から中止して動いていたが、2020年頃にはまだ「山田議員は大げさ」「カード決済できなくなるなんてことないだろう」と言われていたが、徐々に認知されてきた。

・2022年7月、MindGeek事件。カリフォルニア州の連邦地裁が「VisaはMindGeekの児童ポルノ収益化を意図的に支援したと推測できる」として、VISAを被告になると判断(筆者注:VISA敗訴ではなく「被告に認定」である)。
・2023年11月~翌3月、ニコニコなど日本で大型のサービスを運営しているところに累が及び、一気に話題が大きなものになる。
・2024年4月、DLサイトのVISA/Mastercardの決済停止に至って一気に問題が加速。

 ポイントとしては「ネットでの販売ができない」のであり、実物の(店舗での)売買ができないのではない。またコンテンツも中身を見ているのではなく、タイトルに反応した所謂「言葉狩り」。
 また、決済会社を変えればOKだったケース、また同じ物を扱っていても大手ならOKという場合もあり。なので、どうやら最も上位の国際ブランドそのものが禁止をしているのかどうかが不明瞭な状況。

VISA本社訪問

 そこで24年8月に、サンフランシスコのVISA本社に出向いて担当責任者と話をした。

先方の言い分
 合法的コンテンツに関する価値判断は、我々はおこなっていない。それは社会的に議論のある商品――たとえばアメリカ国内では銃の売買――でも同様に判断していない。
 アダルトコンテンツについても、年齢に関するルールや児童ポルノでないこと、合意のもと提供されていることといったルールが守られていれば、内容についての判断はしていない。また本社は大きな基準を決めているだけで、
 個々のコンテンツやサイトについて、これは駄目だあそこはダメだという判断をしているのは、我々ではなく現場である。
 特定のキーワードを含むコンテンツについて、取り扱うなという指示を出したこともない。

 どこまで本当かということについては未知数な部分もあるという意見もあると思うが、少なくとも日本の国会議員が直接、担当責任者と会って、このような回答を得たということで報告しておきたい。
 しかし近日、Visa日本法人のキトニー社長が、アダルトコンテンツの販売を行うサイトでは「我々はブランドを守るために、使えなくすることも必要になる」と、本社の回答に反するかのようなコメントが報道された。
 山田議員の件は日本法人から米国法人に対してアテンドしたものなので、どういう話がなされたかは日本法人も知っているところである。
 これについて問い合わせたところ、昨日以下のような趣旨の回答があった。

「米国で回答したことと、日本法人のコメントに齟齬はなく、また追加的な情報を述べたものでもありません。全体的な活動として色んなトピックスを扱っていて、山田議員に申し上げたような個別の論点を掘り下げたものではありません。日本法人キトナー氏の「我々」という言葉は、VISAグループ全体を指しており、アクワイアラーなど個別の会社の判断ということで理解して頂いております。Visaとしてどうするという方針は本社もVisa Japanも変わるものではありません」

カードの仕組みと規制の関係

 そもそもクレジットカード支払というのは、図のような仕組みになっている。 

山田議員による図解。↑↓とも現地撮影。

 表現規制はこの図の中で、カード加盟店の増加や管理を行う「アクワイアラ」と呼ばれる会社群や「決済代行会社」と加盟店の間で何かがあったのではないかと考えられる。
 なおそれぞれの会社の関係のしくみについては、筆者の方で分かりやすい解説を見つけたのでリンクしておく。

 加盟店からの声は、この決済代行会社から言われた、というものが非常に多い。一方で決済代行会社からは、もうちょっと上の方から言われたという声が山田議員の方に届いている。
 しかし、カードの利用ができなくなるなどのリスクから、なかなか山田議員に対しても情報提供ができない実情がある。
 なお、アクワイアラーと決済代行業者をまとめた「クレジットカード番号等取扱契約締結事業者」は272社存在しており、このうちのどこが問題なのかは現時点では不明瞭なところがある。

インフラとしてのクレジットカード決済

 国内における決済の4~5割が電子決済であり、そのほとんどがクレジットカードの決済である。国の方針としても、税金なども含めてデジタル決済への移行をどんどん進めていこうという話になっている。
 本来、そのような重要な決済手段には一定の規律が必要であり、準公共のプラットフォーマーであるカード会社に、どのような取引はしていい、ダメだということを勝手に判断させるべきではないのではないか。
 また、クレジットカード会社の寡占性(VISA、Mastercard、JCBが3大ブランドとしてシェアのほとんどを占めている)も、このような判断が勝手になされることの問題に拍車を掛けている。

 国もクレカ決済について、表現規制としての問題が浮上する前から「重要インフラ」として考えている。
 もしも海外の意向によって、日本国内でそれが使用できなくなれば混乱をもたらすという点において、電気ガス水道などと同様であると、いま考えられつつある。
 クレジットカードをプラットフォームとして、国の関与のもと、法的にきちんと取引をさせるようにできるのではないか。

違法な取引とは

 もちろんクレジットカードを法の監督下に置いたとしても、取引させるべきでない「違法な取引」というものは存在する。
 コンテンツ(表現物)でいうと、

①わいせつなコンテンツ(刑法175条)
②児童ポルノコンテンツ(児童ポルノ禁止法)
③著作権侵害コンテンツ(著作権法)
④名誉棄損コンテンツ(刑法230条)
⑤侮辱コンテンツ(刑法231条)

 などがある。
 他にもあるがこれらに該当しないのであれば、取引は自由であるべきである。

クレカ表現規制への今後の対応

①優越的地位の濫用(独占禁止法)の一環としての対応
 担当する公正取引委員会とこれまでもかなり詰めてきたが、公取委の立場としては、競争する事業者のうち「特定の誰かが有利に儲かる」ようなもので市場が歪む場合を、今は独占禁止として取り締まっている。
「特定のコンテンツ」ということでは適応がしにくいというのが今の解釈。しかし、好き嫌いのような理由で、合法であるにもかかわらず取引できない、ということを許してしまえば、優越的地位の濫用ではないかということで、その解釈を広げることができないかとトライしているところ。

②プラットフォーム・インフラ規制としての対応
 実は日本では、クレジットカードに対する法的規制が割賦販売法しかない
 これは金融に関する規制としては異例のことで、普通なら金融庁が非常に細かい規制を敷いて免許事業として認可しているが、クレジットカードにはそれがない。これが金融検閲に政府や議員が手をだしにくい大きな理由である。
 インフラ・プラットフォームとして特定の企業だけが支配するということはあってはならない。また現金にも代わるものなのだから、カード取引が自由にできないということには、ならないようにしなければならない。
 そうでなければ、自由に表現物を売ったり買ったりが、特にネットではできないことになる。

 政府としてもこの問題については関知していないということはない。
 実際に2023年3月9日に山田議員が経済産業省大臣官房審議官とした答弁では、以下のような回答を得ている。

 実際に加盟店の方から、クレジット会社から契約の締結を拒否されたりあるいは解除されるといったお問合せ、いただくことは実際ございます。統計的あるいは網羅的には把握しているところではございませんが、そういう形で実態を把握しているという状況でございます。

 クレジットカードに関する表現規制には不明瞭な部分が多いが、そこにメスを入れようと思えば、法治国家である以上は根拠法が必要になる。
 しかしそれもプラットフォーム、インフラとして位置づけることで(根拠法を作り)法治ができるようになるだろうと思われる。


 山田議員による解説は以上になります。
 次回、後半ということで、アメリカの状況についてカリフォルニア大学のジャック・ラーナー教授の解説をお届けします。


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