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【NHK記者証言拒絶事件】

※【嘱託証人証言拒否事件】からも転送されます。

 最高裁平成18年10月3日第三小法廷決定。民事裁判における【取材源秘匿の自由】に基づく証言拒絶権が認められた著名判例である。NHK記者が嘱託尋問制度って証言を求められていたことから、嘱託証人証言拒否事件などとも呼ばれる。
 
 1997年10月、アメリカの健康食品販売会社の日本法人が所得隠しをおこなって追徴課税を受けた......とNHKをはじめとする日本の報道機関が報じた。この報道により株価低下などの損害を被った同社の本社は、その後、追徴課税額は大幅に減額されたことから、もとを糺せばアメリカの国税当局によって、日本の国税庁に虚偽の情報が開示され、日本の報道機関に漏洩したものであるとして、アメリカ政府に対する訴訟を行った。
 情報の流れとしては、アメリカ国税当局→日本の国税庁税務官官→NHK記者という報道被害事件ということになる。
 裁判の本体はアメリカで行われたが、アリゾナ州地区連邦裁判所は事実審理のために日本の裁判所にNHK記者の証人尋問を依頼し、新潟地方裁判所で尋問が行われた。このような委託制度を嘱託尋問という。

 記者は、報道の情報源が誰であるかにかかわる質問について、民事訴訟法197条1項3号の「職業の秘密」にあたるとして証言を拒否した。

第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。
 一 第百九十一条第一項の場合
 二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合
 三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合
2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。

民事訴訟法

 最高裁判所は「ここにいう『職業の秘密』とは、その事項が公開されると、当該職業に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になるものをいうと解される」との解釈に基づき、「報道が正しい内容を持つためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するものといわなければならない」として、比較衡量論を提示した。

そのうえで以下のように判示。

 ある秘密が上記の意味での職業の秘密に当たる場合においても、そのことから直ちに証言拒絶が認められるものではなく、そのうち保護に値する秘密についてのみ証言拒絶が認められると解すべきである。そして、保護に値する秘密であるかどうかは、秘密の公表によって生ずる不利益と証言の拒絶によって犠牲になる真実発見及び裁判の公正との比較衡量により決せられるというべきである。
(略)当該報道が公共の利益に関するものであって、その取材の手段、方法が一般の刑罰法令に触れるとか、取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情がなく、しかも、当該民事事件が社会的意義や影響のある重大な民事事件であるため、当該取材源の秘密の社会的価値を考慮してもなお公正な裁判を実現すべき必要性が高く、そのために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった事情が認められない場合には、当該取材源の秘密は保護に値すると解すべきであり、証人は、原則として、当該取材源に係る証言を拒絶することができると解するのが相当である。
 これを本件についてみるに,本件NHK報道は,公共の利害に関する報道であることは明らかであり,その取材の手段,方法が一般の刑罰法令に触れるようなものであるとか,取材源となった者が取材源の秘密の開示を承諾しているなどの事情はうかがわれず,一方,本件基本事件は,株価の下落,配当の減少等による損害の賠償を求めているものであり,社会的意義や影響のある重大な民事事件であるかどうかは明らかでなく,また,本件基本事件はその手続がいまだ開示(ディスカバリー)の段階にあり,公正な裁判を実現するために当該取材源に係る証言を得ることが必要不可欠であるといった事情も認めることはできない。

最高裁判所判例集

 として、本件においては証言拒絶には正当な理由があると認定した。

参考リンク・資料:

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