【西山記者事件】
外務省機密漏洩事件・沖縄密約電文漏洩事件などとも呼ばれる。
1971年6月に調印された沖縄返還協定について、その折衝過程を記した電文を、毎日新聞社の記者西山太吉が入手し野党議員に漏洩した事件。
その入手手段が、女性事務官に酒を飲ませて強引に肉体関係を持ち、それを盾に機密文書を持ち出させた挙句に用済みになった女性事務官を捨てた――というものである。
最高裁判決文から引用すると
という、まさに情報を得るためだけに相手を利用することしか考えていない男だったことが分かる。
事務官自身は国家公務員法100条(秘密保持義務)1項違反、記者は国家公務員法111条(秘密漏示そそのかし罪)で起訴された。
罪を争わず粛々と罰を受け入れた女性事務官と【報道の自由】・【取材の自由】を盾に取ろうとした記者との対比からも、社会的にはむしろ「報道倫理の問題」として記者・新聞が大きな非難を浴びた。
西山記者は、一審で無罪判決を受けたが、控訴審・上告審では有罪となっている。いずれの判決でも、西山記者の行為が秘密漏示そそのかし罪に該当することは認め、そのうえで、一審では違法性阻却による無罪。控訴審では同罪を厳格に合憲限定解釈して有罪となっている。
最高裁はこれらと異なる論によって西村記者を有罪とした。
まず最高裁は、報道記者の行為が秘密漏示そそのかし罪に該当することがあっても、正当業務行為として認められる余地があることを認める。この点では一審・控訴審と同様である。
「正当な業務行為」とは、刑法第35条に「法令または『正当な業務』による行為」は、罰しない。」とされているもので、たとえばボクサーが試合相手を殴っても(ボクシング特別法などというものが無いにもかかわらず)暴行罪や傷害罪にならないのはこれに当たる。
取材行為もまた「それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限り」正当な業務行為となるわけである。
問題は本件西山記者の行為は、正当業務行為と認められる「真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認される」ものか「一般の刑罰法令に触れる行為を伴う場合は勿論、その手段・方法が一般の刑罰法令に触れないものであつても、取材対象者の個人としての人格の尊厳を著しく蹂躙する等法秩序全体の精神に照らし社会観念上是認することのできない態様」のものかであった。
しかし冒頭の引用で示したような「当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で肉体関係を持ち」「被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥ったことに乗じて秘密文書を持ち出させ」「利用する必要がなくなるや、同女との右関係を消滅させその後は同女を顧みなくなった」という一連の西山記者の行為は、
と言わざるを得ず、有罪の判決が下された。
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