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『男達の反攻:牛角とキャンセルカルチャー』2024-09-23

反「男性差別」の夏

 いわゆるキャンセルカルチャーと見なされるものが「男性差別」に対して行使される事案が今夏は連続した。 

 7月29日、大手衣料品チェーンのしまむらが「子供の面倒を見ないぐうたらな父親」というステレオタイプに基づく文字を書き入れた子供用靴下を発売、ネット上で多くの批判を受け発売中止となった。

 8月8日、フリーアナウンサーの川口ゆり氏がX上で男性の体臭を批判して炎上、アナウンス事務所との契約を解除される事態になった。

 8月21日にはタレントのトラウデン直美氏が『news23』(TBS系)出演時、自民党総裁選ポスターに「おじさんの詰め合わせ」と侮蔑的ニュアンスをもって称して炎上。

 そして9月2日~12日には焼肉屋チェーン『牛角』が女性限定の半額キャンペーンを行ったことが男性差別であるとネットで大きな抗議を巻き起こした。

 さらに、Xでの今月16日「エアコン修理を頼むと男性に来られる」という”女性の被害者意識”丸出しのポストと、それに便乗したイシゲスズコ氏の「エアコン業者なんて男のいろいろあった末での行き着く先」というブルーワーカーに対する侮蔑的な発言が大炎上し、彼女はポストを削除し長文の謝罪文を投稿した上で、法的措置を匂わせるというパターン行動を示した。

 これまで、「男性差別に対する抗議」がこうも矢継ぎ早に、なおかつ大きなムーブメントとして認知されたことはなかっただろう。まして単に騒がれただけでなく、しまむらの靴下発売中止や、川口ゆりの契約解除のように「キャンセル成功」まで行ってしまった事例も、この短期間に複数あったのである。

 もちろん男性差別そのものは数多く存在し、その中には抗議批判者いわく「たかが2000円」どころではない深刻で大きな不利益をもたらすものも存在する。
 たとえばプリクラや電車の一部の車両からの男性排除(いわゆる女性専用車両)なんてのは可愛いほうで、大学の女性枠は若い男性の進路に対する無視できない干渉であるし、研究者の公募が女性「限定」つまり男性が男性であるだけで一人たりとも採用されないなど、極めて重大な不利益というほかない。また公的な支援にも女性限定であるものが少なくない一方で男性限定は非常に少なく、全体として異様なまでのアンバランスとなっている。
 またXでよく話題にされる「司法の女割」つまり放送関係者がなにかにつけて女性に甘いというのも単なるイメージではなく統計的に確認されている事実である。

 しかし、これまでそのような差別は取り上げられることすらほとんどなかったし、言及する者も「理論的には同じことだが、そのくらいいいじゃないか」という雰囲気をまとわざるを得なかった。
 しかし男性側からの潜在的な批判意識は高まっており、今夏の「男性差別打破」の連続は、それがいよいよ火を吹き始めたものとして捉えられるだろう。

 だがもちろん、この動きは賛否両論をもって捉えられている。つまり「男性からのキャンセルカルチャー」を、「男性から」に注目してようやく市民権を得てきたと喜ぶ人々と、「キャンセルカルチャー」であることには変わらないのだからと、あくまでキャンセルに反対する側の意見の人々だ。

差別「表現」へのキャンセル

 しかしそのいずれにしても、重要な論点を見落としているだろう。
 なぜなら両方とも、今夏の各「男性からのキャンセル」をひとまとめにしてしまっているきらいがあって、それらを分類して否定と肯定に分けるべき、あるラインの存在を忘れている。

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