論理的な文章の書き方講座~トレーニング問題の解答添削
ロジカルシンキング講師の海老原です。
私は受講者の実際のメール文を課題にして個別添削するという、一風変わったロジカルシンキング講座を行っています。
先日「ロジカルシンキング力を鍛える論理的な文章の書き方」と題した記事を書きました。
https://hitoshi-ebihara.com/how-to-write-logical-document/
今回は続編です。ロジカルシンキング講座で使っているトレーニング問題の解答例添削をとして、論理的な文章の書き方を解説します。
(再掲)論理的な文章の書き方<トレーニング問題1>
私がロジカルシンキング講座の第1回で使っている課題を再掲します。続けて挑戦者の私の友人Yさんの解答例を示します。
論理的な文章トレーニング問題「上司に値引きの説明をする」
トレーニング問題の文章です。
あなたはある商品の営業担当者です。
現在あなたはA社に定価100万円の商品Bを提案中です。あなたは、定価100万円の商品Bを値引きして60万円で販売したいと考えています。
しかし、商品Bを100万円から60万円への値引きは、担当者である、あなたの決裁権限を超えています。そのため、あなたは上司であるTマネージャーを説得しなければいけません。
Tマネージャーに対して、100万円のサービスを60万円に値引き提案の承認をもらうための「説得の文章」を作成してください。
なお、前提はある程度自分で設定してかまいません。
論理的な文章トレーニング問題Yさん解答例
Yさんの解答例です。
【ご相談】A社へのB商品導入について
Tさん
B商品を40万円値引きの60万円でA社に販売したいです。【
下記、内容ご確認いただき、承認をお願いいたします。
承認いただければ、即日で契約可能です。
【利益】
合計:1000万円
売上:6000万円(60万円×100個)
原価:5000万円
【納期および製造】
6月末まで。
外注先の製造現場には、納期確認済み。
【支払い・入金の予定】
共に7月末に支払い・入金予定。
【状況】
B商品の提案にあたり、E社とのコンペになっています。
競合のE社製品は、性能、機能共に同じで、提案単価が62万円です。
E社とA社は長い付き合いがあるが、仕入れルートを増やしたい意向あり。
そのような状況の助けもあり、価格を下回れれば即決と先方から言われてます。
A社ご担当は、事業の統括責任者であり、今後継続的な取引も見込めます。
A社は当社の取り扱い商品は、年単位で50億円規模の発注をしています。
(今まですべてE社に発注していた)
今まで、A社には、複数回ご提案しておりますが、初めて価格コンペまで漕ぎつけてます。
タイミングよく、今回は当社を優先で考えていただいてます。
可決承認、よろしくお願いいたします。
論理的な文章の「読み方」
添削による解説に入る前に、論理的な文章の「読み方」について説明します。
まずは論理よりも直感で読む
ロジカルシンキング講座では、解答例の文章をまず受講者に黙読してもらいます。そのとき講師からお願いしているのは「頑張らないで読むこと」です。頑張って論理的に分析はしない。楽に読んでどう感じたかを話してもらいます。意外でしょうか。
論理的な文章はわかりやすい
なぜはじめは頑張らずに読むのか。それは論理的な文章はわかりやすく、読みやすく書かれるべきだからです。論理思考というと何やら小難しいイメージがあるかもしれません。しかし、論理は正しくても複雑で読み手にとってわかりにくい文章は、ビジネス文章の目的からして不適切です。
読み手は文章の分析に不要な労力を使わず、意図を誤解することなく、すっと読める。読み手にとってわかりやすい文章を書くために、書き手は論理思考を駆使すべきです。
解答例を直感的に読んでみる
では、実際に解答例を直感的に頑張らないで読んでみましょう。まず、全体的に非常に整理されて論理的な文章です。一文一文も、しっかり丁寧に書かれています。
しかし、論理は正しそうだが、読み込むのに時間がかかるところがないでしょうか。私は「状況」の段落の論理を理解するのに、少し頑張る必要があると感じました。なぜ、そう感じたのでしょうか。この直感的な違和感をロジカルに分析していきます。
解答例文章の論理構造を分析する
なぜ解答例の文章は直感的に読むと違和感があったのか。文章の論理構造を分析します。分析はロジカルシンキングで、一般的なフレームワーク、ピラミッドストラクチャーで考えるとわかりやすいでしょう。以下、できるだけ原文に近い形でピラミッドストラクチャーを描きます。
解答例のピラミッドストラクチャー
解答例の文章は、どんなピラミッドストラクチャーになるでしょうか。文章構造を考えるには、まず文章の区切りを判別します。文章の一番大きな区切りは段落です。解答例では、「【 】」でくくられた「ご相談」「利益」「納期および製造」「支払い・入金の予定」「状況」の5つの段落に分かれると解釈できます。
5つの段落を元にピラミッドストラクチャーを描いたのが、次の図です。
ピラミッドストラクチャーから文章構造の違和感を探す
まず、ピラミッドストラクチャーを見ると「バランスが悪い」と感じます。メインの主張である「ご相談」の配下で、「状況」だけ異常にボリュームが多いと感じるでしょう。私は論理的な文章を書くとき、このような「文章構造の違和感」を大事にしています。
次に気になるのが、ピラミッドストラクチャーの「状況」配下の構造です。いくつかのサブ構造に分かれそうですが、何個に分かれているかパッと掴みにくい。ここが、文章構造がわかりにくい要因です。
違和感を修正した論理構造を考える
先ほどのピラミッドストラクチャーで感じた違和感を修正した論理構造を考えます。修正した論理構造を元に文章を書けば、論理的な文章のできあがりです。
解答例の修正版ピラミッドストラクチャー
次の図は、解答例のピラミッドストラクチャーで、論理構造の違和感を修正したものです。
論理構造を「1.承認して欲しい内容」「2.承認すべき理由」の2つに分けています。それぞれの配下に具体的な承認内容、承認理由が入ります。
修正したピラミッドストラクチャーを見ると、まず直感的にバランスが良くなったと感じないでしょうか。このように、まずは右脳で構造のバランスを考え、左脳を使って整えていきます。
修正版ピラミッドストラクチャーを文章構造に直す
ピラミッドストラクチャーを段落に直すと、次のような構造です。
1.承認して欲しい内容の詳細
1)利益の条件
2)納期および製造
3)支払い・入金の予定
2.承認すべき理由
1)利益がでるから
2)E社に勝てるから
3)今後取引拡大が見込めるから
4)1社供給体制に組み込む数少ないチャンスだから
さらに構造を見直すとしたら
先ほど示した修正版の文章構造で、かなりわかりやすくなったと思います。これで十分と思いますが、さらに修正を検討するなら、私だったら承認すべき理由の構造がまだ複雑であることに着目します。
4つのうち、「1)利益がでるから」「2)E社に勝てるから」が、もっともシンプルな理由です。私だったら、まずこの2つの理由だけで、根拠として納得感があるかをチェックします。納得感があるかは商談状況次第です。
最初の2つの理由で根拠が不十分な場合だけ「3)今後取引拡大が見込めるから」「4)1社供給体制に組み込む数少ないチャンスだから」の2つの理由を加えます。
まとめ
最初の文章を論理的に分析し、わかりやすく修正するための手順をまとめます。
1.まずは直感で読む
2.ピラミッドストラクチャーなどで構造化し、違和感を明確化
3.わかりやすい論理構造に修正する
4.修正した論理構造を元に文章構造を作る
5.文章を書く
今後も論理的な文章の書き方シリーズとして添削していきたいと思います。添削して欲しい文章がある方は、海老原までご連絡ください。
元記事
https://project-facilitator.com/how-to-write-logical-document01/