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手のひらいっぱいのくわの実
遅れてやってきた梅雨の入口 畑畑にはしげる夏野菜の葉陰
間を縫う畔道の土手沿いの木 たわわにみのる紫黒の桑
太陽をいっぱいに浴びた 野趣あふれる小さなふさ粒は
摘めよ食べよと言いたげに 弾けんばかりの胸を張る
よおく熟した子たちを選って
つぶさぬように そうっとそっと 手のひらいっぱい
ふと思い浮かぶのは幼い日のふるさと
手も口も紫に染めて 夢中で食べた小学校の帰り道
都会の店先に並ぶような 高価な果実ではないけど
口に含んだ一房の素朴で控めな甘酸っぱさは
記憶の扉を優しく開いて
舌先に残る懐かしさを呼び起こす
桑の実は 比べるもののない豊かさの味。