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労災になりますか?

「労災になりますか?」と質問をされることが多くあります。しかし、この質問に答えることは非常に難しく、また答える側としても慎重にならざるを得ません。
 それは、労災事故が起きた状況や原因はケースバイケースで、労災になるかどうか判断に窮することもあります。労災事故のその場面だけでなく全体を通じてみてみることが大事です。例えば、「脚立から落ちた」というだけではこれが労災になるかどうかは分かりません。
 この記事では労災になるケース・労災にならないケースを考えてみたいと思います。

労災になるかどうかの判断基準

 労災になるかどうかを判断する基準として「業務遂行性」や「業務起因性」という言葉で説明されることがあります。
 業務遂行性とは被災労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態のことをいいます。労働者が事業場内で仕事に従事している場合だけでなく、休憩時間中で業務に従事していない場合でも事業場内で行動している場合や出張中など事業主の管理下にない場合であっても、事業主の支配下かつ管理下にあると認めらます。
 次に、業務起因性とはケガや疾病が業務に起因して生じたものかどうかということです。
 これだけだと正直何を言っているのか今一つわかりません。もう少し砕けた表現にして言うと、労働者が雇用契約や請負契約等に基づいて仕事をしている最中に、業務が原因で労災事故に遭ったという場合は労災として認められる可能性が高いということです。
 ちなみに、確定的に「労災になる」と言えないのは、給付の決定は労働局・労働基準監督署が行うからです。
 では、次に具体的なケースで検討してみます。

工場内で歩いている時に機器のコードに足を引っかけて転倒して負傷したケース

 鉄筋加工会社Aで働く労働者Xは部品を取りに行くために倉庫へ移動中に弛んだ機器のコードに気付かずに転倒した。その際、地面に右足を強く打ち付けて焼死した。
 このケースの場合、ほぼ間違いなく労災になるでしょう。労災を否定する要素がほとんどありません。 

労働者Xが経営者(役員)の場合

 役員は雇用契約ではありません。兼務役員等例外的なケースを除いて、その多くが委任契約で仕事をしています。役員は原則として労災保険に加入できません。そのため、今回のケースでは労災になりません。
 役員は原則として労災保険に加入できませんが、特別加入という方法があります。労災保険に特別加入をしていれば役員も労災保険の給付対象となります。ただし、役員が労災保険に特別加入するには条件があります。一つは人を雇用していること、もう一つは会社の規模が一定数以下である必要があります。これは中小事業主の労災保険の特別加入制度

労働者Xが外部の人だった場合(その1)

 会社には多くの外部の方が出入りしています。例えば、A社に打ち合わせのため訪問中のB社の労働者の場合、A社の労災保険は使えませんがB社の労災保険は当然使用可能でしょう。
 ただし、この労働者がB社の業務のため訪問中でなければなりません。例えば、自身の業務時間外に私的にA社を訪れていた場合などは労災にならないでしょう。

労働者Xが外部の人だった場合(その2)

 外部の人が例えば個人事業主の場合はどうでしょうか?税理士や社労士など個人事業主であることが多いですが、税理士や社労士は通常会社と委託契約に基づいて仕事をしています。そのため労災保険を使用することはできません。
 しかし、この場合も税理士や社労士が個人事業主として人を雇用している場合、つまり経営者に該当すれば労災保険に加入できる余地はあります。
 もう一つ例外的な制度を紹介します。個人事業主がいわゆる一人親方の場合は一人親方の労災保険の特別加入という制度があります。
 一人親方の労災保険の特別加入制度の対象は建設業や個人タクシーの運転手など一定の職業の人がこの制度の該当者ですが、該当しない職種もあるので注意が必要です。

「部品を取りに行くため」ではなく「休憩のため移動中」だった場合

 休憩中は仕事中でありながら仕事に従事していないという特殊な状況にあります。休憩中とは私的行為のため仕事が原因と言えないため労災と認められる可能性は高くないのでないでしょうか。ただし、労災の原因が建物の欠陥や設備の管理等である場合には労災として認められる余地はあります。
 今回のケースの場合、「弛んだ機器のコード」が原因のため管理上の責任と言えなくもありません。
 しかし、この事故が会社の敷地の外で起きた場合、例えば会社の敷地から出て近くのコンビニに弁当を買いに行く途中の道で道路工事中の機械のコードに足を引っかけて転倒した場合は会社の労災は使えないでしょう。この場合、その道路工事の会社に対して治療費の請求はできます。

「部品を取りに行くため」ではなく「トイレに行くため移動中」だった場合

 トイレに行くことは生理的な行為であって、仕事に付随するものとして労災として認められます。

まとめ

 労災になるケース・ならないケースを紹介いたしましたが、いかがでしょうか。
 労災になるにはどういう状況で事故が起きたかが大きなポイントになってきます。「仕事中=労災になる」と考える人もいますが、必ずしもそうとは言えません。逆に「仕事外=労災ではない」ということも言えません。
 労災事故の状況によっては非常に判断が難しいケースもありますので、社会保険労務士や労働基準監督署に相談することも必要でしょう。

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