ワンパンマン二次創作 「alice」

第一章 La La La「序章」

記憶の始まりは、音だった。

レンズの向こうから齎された世界の音を、彼女は初めて聴き、記憶する。レンズの精度は酷いもので、像を結ぶ対象は実に判別しずらかった。だがかろうじてそこが小さな部屋の一室である事、そしてレンズの向こうで話しかけてくる対象が、人間の男と女である事だけは今の彼女のメモリーであっても理解できた。歪むレンズを中指で叩いたのは男性だ。メモリー内部の動画情報は、軽量化の為その人物の色を写さない。ただ発光した様な白い肌の凛々しい男性が濃い影に彩られて再生する。彼は、真っ黒な瞳でレンズを覗き込み、満足そうに微笑んで後方へ下がった。対象の動きを追えず白黒のノイズが記憶画面に横に入った後、再びそこには不明瞭な画素で映像が再生される。後方に辞し、恐らくは椅子に腰掛けた男性の隣には、これもまた白と黒で彩られた女性の姿があった。彼は幸せそうに彼女の手をとった。彼女もまた幸せそうに彼を見て微笑み、そしてレンズへと目を向けた。

『アリス』

荒い音声が再生される。

『僕達の声が聞こえるかい?アリス。アリスは君の名前だ。君はこれから人格を持ち、自己改修を行いながら、人と関わり生活していく。これは歴史的な一歩だ』

上ずった声がそれに重なった。前のめりに体を出した女性の瞳は、その荒い記録映像の中でも一際輝いている。

『アリス、貴方はね、世界で初めてのプロトタイプになるの。貴女は全てのモデルになる。人間を理解する、人間の友人としての機械になるのよ』

二人は光に身を乗り出して白くなった。重ねられた手はしっかりと繋がっている。女性が男性を見上げた。男性も女性を見て、何かを決めたようにうなづいた。

『アリス。これから君はたくさんの情報を記憶しなければならない。そして君は君の存在証明を行わねばならない。君が存在する大きな理由はたった一つだ。どうか、全世界、全生命の為にこの作業を行って欲しい』

男性の指が、前に伸びた。カタカタ、とキーを叩く音が再生される。その瞬間、自身を統制する情報プログラムに書き込まれた命令通りにaliceと呼ばれたAIは起動し始める。彼女にとっては、プログラムこそが命題、存在する理由、食事もせず、眠りもしないプログラムであるからこそ彼女には突き詰められる。人間に於ける本能は彼女にとっての計算なのだ。最後のキーを入力し、男はenterキーを押した。aliceは与えられた命題を本能として存在する。二人の男女によって与えられた命題は、以下のようなものであった。

『愛を 定義 せよ』

#ワンパンマン #二次創作 #小説  







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