地獄から逃げた先にはまた別の地獄がある

転職活動をした。

理由は以前にも書いたが、長年の夢であった現職の現実との乖離があり過ぎた事に加え、残業時間が毎月100時間を越えている現状に心が死にそうになっているからだ。もちろん残業代は出ない。

転職先はとにかく残業が少なく、仕事内容に責任がないところに絞った。給与が少なくてもいい、健康で文化的な最低限度の生活を保障してくれる企業こそが御社だ。早く人間になりたい。そんな不純かつ生理的欲求に基づいて履歴書を送りつけた。

そして辿り着いた面接先で、でほとんどの企業から言われる言葉があった。

「現職ではまあまあ(給与が)もらえているんですね」

「給与面や待遇はガクッと下がりますが、それでもいいんですか」

現在、私の給与は保険費用を諸々引いて22万。昼食付きで家賃補助も出る。交通費も出る。出ないのは残業代だけ。

しかし転職先は昼食なし、家賃補助なし、社宅なし、保険費用諸々引いて18万。面接官からしたら、

「今まで散々甘やかされてきた小童だ、どうせ金の事など気にせず日々を過ごしてきたのだろう。こんなやつ、こっちにうつったら文句タラタラに違いない」

といったところなのだろうか。

仕方がない事である。彼らは私のこの半年を知らない。毎日12時間働かされる事が普通で、毎日泣いて食事が取れなくなり、電話の音に吐き気を催す地獄のような日々を何も知らない。いくら私が待遇の酷さを匂わせようが、彼らは私の置かれていた環境を紙一枚に並べられた文字列でしか測る事はできない。

彼らもきっと地獄を抱えて働いている。給与面であったり、人間関係であったり。私にはそれが見えないが、彼らはその地獄を知っているからこそ私に「本当にこっちに来ていいのか」と尋ねるのだろう。

彼らが地獄を知っているのは、その地獄に彼らがいるからだ。どんな地獄か本当に知る事が出来るのはその中にいる人だけだ。彼らに私の地獄を知ってもらう事は出来ないし、私が彼らの地獄を知る事は出来ない。

だから私は笑顔で、それでも御社がいいのだと言う。給与ではない。あなたたちは知らないだろうが、このままだと私は仕事に殺されるのだ。あなたたちにとっての地獄は私にとってはもはやどうでもいい事である。私は人間の生活が出来る御社に就職したいのです。採ってくれ。

結局、この世に地獄がない職場なんてない。その内忘れるかもしれないが、今はそれをよく分かっているつもりだ。同時に私の仕事は誰かにとっての天国の門に等しい場合もある事を知っている。地獄の沙汰も“人”次第である。だからこそ、せめて、御社の私にとっての辺獄だと祈りながら飛び込むしかないのである。

この文は転職先が決まってから不安に駆られている私自身に喝を入れる意味で書いた。たとえどんな場所にだって、地獄が無いわけではない事を忘れないようにしよう。

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