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ミッドサマー 感想&解釈(うろ覚え全ストーリーネタバレあり)

ミッドサマー見ました。内容があまりに予想以上だったので、うろ覚えなストーリーネタバレしつつ解釈垂れて自分の心の整理をつけたいと思います。ネタバレ嫌な人は戻ってくださいね。あ、あと、大前提として、筆者はミッドサマーはホラー映画ではなく恋愛映画として捉えています。

まず、主人公のダニーは双極性障害の妹を持ち、さらに自身は不安障害を患っています。妹が度々騒ぎを起こし振り回され、不安でパニックになります。それを4年と少しの期間、側でずっと支えてきた恋人クリスチャン。ダニーはクリスチャンに心から安心を感じる事が出来ず、クリスチャンもまたダニーを支えることに限界を感じて一年前から別れようか迷っている。ミッドサマーはそんなギリギリの状態の二人が戻れないほどに決定的にすれ違い、破局するまでを描いた物語です。


起 ダニーの妹が両親巻き込んでガス自殺

冒頭、両親の家の電話にダニーの留守電が入るところから始まります。双極性障害の妹から「もう限界 パパとママも一緒にいく さよなら」といった不穏な内容のメールをもらったダニー(不安障害)は連絡のない電話やメールボックスを見返しては唇を噛んでいます。妹の様子がおかしい、なぜ連絡がないんだろう、そんな不安に駆られて仕方がないダニーは恋人のクリスチャンに電話をかけます。

「君の気を引きたいだけだろう」

妹の話になると彼はそう言ってダニーを宥めます。

「でも、なんだか様子がおかしいのよ」

「君が甘やかすから」

「──そうね、あなたの言う通り」

冷たいように思える言葉にもダニーは責めません。だってダニーが家族以外で頼れる中で一番近い存在はクリスチャンしかいないから。

その後のセラピストとの会話でも、「クリスチャンに頼りすぎているのでは」という事を言っていましたし、ダニーはクリスチャンに煙たがられ、関係が壊れるのを怖がっているのが分かります。もし関係が壊れたら、それこそダニーは本当にひとりぼっちになってしまうから。

その後、おそらく救急隊からかかってきた電話で両親と妹の無理心中を聞き、真っ先に電話をかけたのもクリスチャン。クリスチャンは仲間との集まりを抜けてダニーの家に駆けつけて、蹲って泣き叫ぶダニーを宥めます。

(このシーンで分かるように、クリスチャンも決して悪いやつではないのです。仲間(主にマーク)に「早く別れろって」と言われてもダニーを見捨てられずに一年間迷うぐらいにはいい人間なのです。けれど、共感を望むダニーと解決策やアドバイスを提示するクリスチャン。こんな風に、ひとりの人間として普通に育った人間同士のカップルなら絶対にある「価値観の違い」が二人の運命を大きく変えます。)


承-1 ダニーは夏至祭に行った

その後しばらくは沈みこんでいるダニーですが、クリスチャンがパーティにいくというと付いていきます。そこでもほとんど上の空で、曖昧に笑みを浮かべて輪の中に立っていますが、クリスチャンがジョシュ(博士論文を書いている黒人キャラ)、マーク(下品でバカな罰当たりキャラ)、と一緒にスウェーデンからきた交換留学生であるペレ(穏やかで優しい)の故郷の村で行われる“夏至祭”に行くという話になると意識が鮮明になります。その後クリスチャンに社交辞令というか、来ないだろうけど一応、と一緒に行こうと誘われると承諾します。

(※ミッドサマーには度々、「ダニーが強いショックを受けた時話し声が遠くに聞こえる」演出があるのですが、今回のはショックを受けた時の防御反応としての演出というより、ショックから立ち直れておらずぼーっとしていたが「クリスチャンが自分の知らない旅行に行こうとしている」という話題を聞いて“自分一人が取り残されようとしている”という危険察知センサーが働いたという演出)

村の入り口付近に行くと、ペレの“家族”が出迎えてくれます。中にはペレのように留学していて、友達を連れて帰省してきた人もいます。ペレの“弟”(グレンマークだっけ)は自分が連れてきた友人(サイモンとコニー 二人はカップル)を紹介します。そしてダニーたちを歓迎しつつ、マジックマッシュルームを渡してきます。何で?

「私、落ち着いてからにする」

そう言うダニーに、クリスチャンはでは自分もとキメるのをやめようとしますが、仲間のマークの反応を気にして結局一緒にやることにします。ガンギマる面々ですが、ダニーはあの日のことを思い出していても立ってもいられず立ち上がり、周囲に笑われている妄想に囚われながら近くの小屋に逃げ込みます。暗闇の小屋の中、そこで背後に誰かがいる幻覚を見て、外へと転がり出て山の中に逃げ込みます。

(ダニーは辛くなるとしばしトイレなどの「個室」に行って泣いたり、深呼吸をして自分を落ち着かせようとするなど、自分の不安や苦しみを誰にも見られないよう押さえ込むような仕草を見せます。もう誕生日も来たのだから、と自分の辛さをなんとか一人で乗り越えようとしていますが、どうにもそれが出来ずに抱え込んでしまっています)

そのまま場面は切り替わり、とうとうダニーたちは村へと足を踏み入れます。村は草原の中にあり、白い服を着た衣装の人々が穏やかに生活しています。沈まない太陽と美しい青空も相まって、そこはまるで天国のようです。ダニーたちは村を案内され、辺りを散策します。

(この時コニーたちが「あれは何?」と指差した布に何やら絵本の挿絵のようなものが描かれていますが、ここに「ケルト式 恋のおまじない」のやり方が書いてあります。①好きな人が出来たら、愛情のルーンを掘った木の板をその人のベットの下に置く②次は陰毛をその人の料理に混ぜ、さらに生理の血を飲み物に混ぜ飲ませる③グルグル目になった相手はバッチリ惚れてくれるよ!と言った内容の絵が画面いっぱいに順々に映し出されます。まあよくある感染呪術ですね。ちなみにこの呪術をペレの“妹”(赤毛の子 マヤ)がクリスチャンに対して行います)

承-2 人生の冬の後に

宿泊する施設に案内されたクリスチャンたちに、ペレはホルガにおいて人生は季節として喩えられているという話をします。子供は春、ペレたちの年齢は夏、大人たち(労働の家にいる人)は秋、72歳までは冬。ダニーが「72歳を超えるとどうなるの」と言うとペレは少し笑って首を掻っ切る仕草をします。冗談だと思って笑う面々。

「食事が出来たわ」

ダニーたちを呼びにくる女の子。マークはその子が気に入り、分かりやすくそわそわします。食事の席は外。司祭が何やら模様を描いた円台で、夏至祭の始まりの挨拶をし、乾杯をします。

食事の風景はなんだか異様です。鐘の合図とともにドミノのように順に座っていきます。偉い人が食事を始めると、次々と食事を始める面々。

(マークはここでも勝手にグラスを持って飲もうとする仕草を見せており、村の掟などどうでもいい、と思っている様子が滲んでいます)

部屋に戻ると、ペレがダニーの誕生日だからとダニーの似顔絵をくれます。

「ありがとう」

そう言うダニーの顔はなんだか晴れません。

「誕生日に絵を贈るのは不適切だった?」

と冗談めかしつつ、クリスチャンがプレゼントを渡していないことを察します。ダニーは「私が念を押さなかったのが悪い」とクリスチャンを責めません。ペレは改めて、ダニーがこの村に来てくれて本当に嬉しいことを伝えます。

その後、誕生日を忘れていたクリスチャンはペレに促され、一切れのケーキにろうそくを立ててダニーのもとに現れます。ハッピーバースデーを歌いながら日を点そうとしますがライターがつきません。ダニーは作った笑みでそれを見つめます。

「悪かったって」

クリスチャンはそれを非難の目線だと思いぞんざいに謝ります。ダニーは怒ってないわ、と笑顔のまま伝えます。

(この時のダニーは、クリスチャンが誕生日を忘れたことを大したことではないように振舞っています。しかし、祝って欲しかったのは明らかです。けれど、多くの人が恋人との価値観の違いやすれ違いに歩み寄りで解決しようとするように、ダニーも仕方がないと言い聞かせているように思えます)

その日の夜、ダニーは家族が死んだ時の夢を見ます。


転-1 何もおかしくはない

次の日。特別な日であるらしいと聞かされていた面々は食事をとります。テーブルの先頭には、この村には珍しく白縹色の服を着た老人と老婆が二人。何やら呪文のような言葉を唱え、最後に例の「フハッ」という独特の呼吸をして食事をとります。

「あの人たちがそう?」

暗に72歳を超えた人かどうか尋ねられ、ペレは頷きます。(老婆はなんだかダニーに似ていました)

食事が終わると、老人たちは紺色の服を着た人々の持つ担架に担がれるようにして運ばれていきます。村人も一緒に移動していき、ダニーたちも続きます。(マークは眠いから昼寝すると言って宿舎に帰ってしまいました)

崖の下で何が起こるのかと待っているダニー。崖の上では老人たちが手のひらを切り、血を石板にこすりつけます。そして、老婆が崖っぷちに立ち、そのまま飛び降ります。顔面から着地したため顔面が割れ、頭蓋の内側を見せてずり落ちる老婆。即死です。叫ぶダニーたち。サイモンたちは「なんで助けないんだ!人が飛び降りたんだぞ!」と大パニック。そうしてるうちに老人が崖の上に現れます。飛び降りてはいけないという制止も聞かず、老人は飛び降ります。しかし足から落ちたため、即死できず足がひん曲がった痛みで呻きます。その苦しみを味わっているかのように、村人達も苦しみだします。そして司祭が合図すると、村人の中から大きなハンマーを持った人たちが現れ、老人の頭を砕きます。

(この時ダニーの目の部分のアップと、息を飲む様子が挿入されます。筆者はこれがダニーが防御反応に入ったサインとして捉えています。ダニーは精神的苦痛やショックを受けた時、心のシャッターをしめてショックを耐えようとし、感情を抑圧する傾向があります。この場面以降、しばらく人物達の声が遠くに聞こえます)

サイモンたちはいよいよ騒ぎだし、「イかれてる!」とその場を離れようとします。司祭は慌てて駆け寄り、説明しなかったことを謝りつつ、大体こんなような事を言います。

「ホルガでは命のサイクルがある。彼らはまた生まれ変わる。これは彼らにとって喜ばしいことなのだ。命の終わりを自分で決められないのは辛い事だ」

ダニーは意識の外でそれを聞いています。

(最後の部分とか特にそうですけど、今のダニーにとって、無意識下で聴くにはあまりに強い言葉ですよね。無意識のうちに聞いた言葉は中々心から離れないものです)

荷物をまとめ始めたダニーに、ペレが宥めつつこんなようなことを言います。

「あんなすざまじいものを見せて悪かったよ。でも知って欲しかった。あれは僕らにとっての誇りなんだ。僕の素晴らしい村の伝統を、家族を、みんなに見せたかった。君は家族を亡くして動揺しているんだね。」

「そんな話してない」

「僕には君の気持ちが本当によく分かる。僕も両親を火事で亡くした。けれど、僕は一人じゃなかった。村のみんなが、僕を元気付けてくれた」

「君は、クリスチャンといて本当に安心できているの?」

その後、草むらにうずくまるダニーの所にクリスチャンが来て言います。

「すざましかったし、確かに衝撃的だったが、偏見を持ってはいけないと思う。理解してあげなきゃ」

絶句するダニー。

ここでも二人の思いはすれ違います。


その日の夜、ダニーは他の四人にこの村に置いていかれる夢を見ます。悲しみで叫ぶダニーの口から黒い煙。砕けた老人が重なる、フラッシュバック、置いていかれる。

(ダニーは村の奇妙な伝統よりもなによりも、置いていかれて独りになる事を一番怖がっています。)


転-2 「あなたも同じ事をしそう」

次の日、サイモン達はこの村を出て行くことにします。しかしサイモンがいない。村人はサイモンは先に行ったと言いますが、コニーは「サイモンが私を置いて行くわけない」ときっぱり。しかし村人はサイモンは先に行ったの一点張り。その様子を見ていたダニーは不安げな表情。

(彼の身に何かがあったのでは、と考えたのだと思いますが、もしかしたら昨日の置いていかれる夢とリンクし、夢が現実になるのではと思ってしまったのかもしれません)

「コニーがサイモンに置いていかれたって」

ダニーがその旨をクリスチャンに伝えますが、クリスチャンは、

「なんてひどいやつだ。だけどまあ、すれ違いがあったんだな」

こんな返事しかしません。信じられないものを見たかのようにクリスチャンを凝視するダニー。

(ダニーは明らかに異変を感じており、サイモンの身に何かがあったのではという不安を伝えようとしています。しかしクリスチャンは、本当にサイモンが先に行ったとしか考えておらず、この村の異常性にも、自分たちが危険かもしれないという事にも、さらにはダニーの不安にも寄り添おうともしないわけです。クリスチャンの楽観的とも、愚かとも言えるこの鈍感さが、なんとか歩み寄ろうとしていたダニーをどんどん遠ざけていきます)

クリスチャンはこの村をテーマに博士論文を書くと言いだします。(博士論文はアカデミアでやっていく際に自分の顔となるものなのでテーマをパクるなんて以ての外)ジョシュと険悪なムードになりつつもなあなあになり、結局二人は表面上は協力して博士論文に取り組むことになります。

話は変わりますが、昨日の二人の遺体は焼かれて灰になり、倒木の側に撒かれます。先祖代々、死んだものは灰になりそこに撒かれているようです。そんな先祖代々の墓といっても過言ではない場所に、なんとマークが立ちションします。激怒し泣き叫ぶ村人。ペレがこの木がどういうものか説明しますが、「は?知らねーし!」と反省しないマーク。

昼食時も、泣き叫んでいた村人はマークを凝視します。

「殺されねーよな?」

そんな軽口を言っていると、クリスチャンが食べたパイの中から陰毛が出てきます。

(赤毛の陰毛なのでマヤの)

「陰毛じゃねーか!」と騒ぎ出すマーク。その時、マークが気に入っていた女の子がマークに声をかけます。

「あっちで見せてあげる」

マークはホイホイついていきます。

残されたダニーたちは、サイモン達の事を話題にします。

「サイモンのやつ、置いて行くなんてひどいよな」

「あなたも同じことしそう」

ダニーの硬い声に、はあ?という顔で睨みつけるクリスチャン。「俺はお前のためにこれだけ心を砕いてやっているのに!」そんな心の声が聞こえてきそうです。

(この時ジョシュは手帳を見ています。クリスチャンのパイに入っていた陰毛、そして彼のベットの下にあった愛情のルーンが彫られた木の板。今まで集めた情報と照らし合わせ、クリスチャンが外からの“血”の相手として選ばれた事を察したようです)

その晩、ジョシュは神殿に忍び込み、聖書(禁書でもあり、司祭以外触れてはいけないとされているものでもある)の中身を写真に撮りまくります。と、背後の気配に振り返ると、そこにはマークが。

「おい、物音立てんなよ!バレたらヤバイんだぞ!」

そんな事を言っていると、側にいた村人にハンマーで殴られます。痙攣したまま何処かへと運ばれるジョシュ。そんな彼を、マークから剥いだ皮膚を被った村人がじいっと見つめていました。

(この村人、ジョシュが振り返る一瞬の間にバッチリ写っているのでもしよければ目を凝らしてみてください)

転-3 メイクイーンの誕生日

次の日の朝食にて、祭殿にあった聖書がなくなったこと、ジョシュとマークが居なくなった事が告げられます。明らかにダニー達が疑われています。

(この時クリスチャンが飲んでいる飲み物だけオレンジ色です。マヤのブツがバッチリ入っているのが分かる描写なので、映画館で見る方はオレンジジュースは頼まないほうがいいです)

「マーク達がどこにいるのか知りません」

「マークは女の子と一緒に行ったじゃない」

「ああそっか。でも、ジョシュは夜中にいなくなった。僕らは決して彼らと共謀してなんかいません、信じて」

仲間を盗人だと決めつけ突き放すような言葉にギョッとしてクリスチャンを見つめるダニー。村人はペレとクリスチャンに二人を探すようにいい、ダニーは女性と一緒に行動するよう指示します。

ダニーはそのままダンスバトルに参加する事になり、強いお酒(おそらくドラック)を飲まされます。不気味な半音階の音楽に合わせて、不思議な木の像の周りをぐるぐると回ります。いつのまにかスウェーデン語が理解できるようになり、ダニーは心からの笑顔でダンスを楽しみます。その頃クリスチャンは女性にお酒を飲まされます。

「心を解放する効果があるのよ」

言葉の通り、クリスチャンの意識は酷く混濁します。

一方ダニーは、こちらを見ていないクリスチャンに悲しそうな顔をしながらも踊りきり、ついには最後の一人になり、「新たなメイクイーン」として村人達に心の底から歓迎され、祝福を受けます。

(この時のダニーの表情は、呆然としているようにも陶酔しているようにも見えます。うわべではなく、心のそこから歓迎され、受け入れられる。ダニーが望んでいたものが、村人達によって与えられたのです)

昼食はダニーが先頭、つまり一番偉い席に座りました。ダニーがフォークとナイフを持って食事を始めると、村人もそれに従って食事を始めます。

(この時、テーブルの上の食事が奇妙に蠢いています。何かはわかりませんが。)

ダニーはメイクイーンとして五穀豊穣を祈るために馬車に乗るよう促されます。

「クリスチャンも一緒に」

「ダメよ、一人で行くのよ」

ダニーはクリスチャンを見ますが、クリスチャンは俯いてダニーの方をまともに見ません。ダニーはそのまま一人馬車に乗り、村人と一緒に五穀豊穣の祝詞と祈りを捧げます。

その間にクリスチャンは、マヤの処女をもらうように頼まれます。精力剤を嗅がされ目が座った状態のクリスチャンが通された部屋では、全裸の女達が肩を組み半円を作っていました。その中央にはマヤ。クリスチャンは服を剥ぎ取られ、促されるようにマヤを抱きます。マヤが母親に手を伸ばすと、母親は宥めるように歌います。それは次第に喘ぎ声のようなものに変わり、周囲の女性は乳房を手で揺らしながら喘ぎ声を真似ます。

戻ってきたダニーは、その光景を目撃してしまいます。嗚咽を漏らして胃液を吐くダニー。村人達に支えられ宿舎に戻ると、ダニーは腹の底から慟哭します。まるで両親を亡くした時、クリスチャンに縋ったように。けれど唯一違ったのは、村人はそれを宥めるのではなく、共に叫んだのです。ダニーが叫ぶと同じように、苦しみ、悲しんで叫びます。決して、止めようとか、泣きやませようなどとはしません。いつも誰もいない個室で、トイレで、必死に涙を堪えていたダニーが、やっと心の悲しみを解放した瞬間でした。

一方クリスチャンは、マヤの母親の「finish!(射精して!)」の合図でイキます。マヤが「赤ちゃんを感じるわ!」と喜んでいる間に正気に戻り、股間を手で隠しながら村中を逃げ惑います。こちらに歩いてくる村人やダニーの泣き叫ぶ声、土から飛び出したジョシュの足、それらから逃げるように小屋へ飛び込むと、そこは鶏小屋でした。その真ん中では、サイモンが生きたまま肋骨と肺を引きずり出され(まだ動いてる)目をくり抜かれた状態で天井から吊り下げられていました。

その姿に唖然としていると、背後から迫っていた村人に薬を振りかけられて気絶します。


「ハイ。あなたは動けないし、喋れない。いい?」

次にクリスチャンが目を覚ますと、彼は体の自由が利かず、車椅子に乗せられた状態でした。司祭は言います。

「神は奪い、与える。神の与えたものの見返りとして私たちから九人の生贄を捧げる。私たちの村から二人(老人達のこと)そして外からの4人。さらに志願してくれた二人。(ペレの弟グレンマークともう一人が自ら志願して生贄になりにくる。)これで8人。残りの一人は、しきたりに沿って女王が決める。今からクジで決まった村人か、外から来た者(クリスチャン)か」

ダニーは悲しみにくれてそっぽを向いていましたが、ふっと顔を正面に向けます。そこにいるのはメイクイーンとして自分を受け入れ、自分の決断を待つ村人達と、自分を裏切ったクリスチャン。


ダニーが何も言わないまま場面は変わり、黄色いピラミッドのような神殿に次々と生贄が運ばれていきます。ピエロの帽子を被らされ皮だけになったマーク(愚か者の皮剥)、木の枝や花で装飾された老人達、コニー、ジョシュ、サイモン、そして志願者が二人。同時に、クリスチャンは車椅子で運ばれて、熊の皮を被らされ中央に置かれます。生贄に選ばれたのはクリスチャンでした。

「恐ろしい獣よ!お前と共に罪を燃やそう(うろ覚え)」

こんな感じの事を言ってから、儀式役の人が志願者二人に「恐怖を感じないように、痛みを感じないように」とイチイの木からとったエキスを舐めさせます。

(イチイの種子には毒が含まれていて中毒症状を起こすらしいので、そのエキスかな?と思っています)

いよいよ司祭が火をつけ、建物に火が燃え広がっていきます。クリスチャンは身動きさえできずに燃やされていきます。

ダニーは黙ってそれを見つめています。

火はいよいよ燃え広がって、志願者の体にも燃え移ります。志願者達は顔を見合わせて、そのうち一人が痛みと恐怖で叫びだします。

村人もそれに合わせて苦しみ悶えます。ダニーも、花のドレスを引きずって、酷く噎せながら苦しみます。しかしふっと表情を無くすと、呆然と燃え上がる建物を見つめます。そして苦しむ村人を背景に、晴れやかな顔で微笑みました。

〜本編終了〜

これまでネタバレを挟みつつ解説してきたように、【ミッドサマー】は「恋人同士が決定的に決裂するまでを描いた失恋映画」なのです。

恋人という関係は家族の次に近い繋がりであるのに、あまりに脆く、そして最初から居心地がいいわけではない。居心地の良い関係を築くまでに、気の遠くなるような譲歩と諦めと交渉と親切を重ねねばなりません。しかもその間に裏切り裏切られる事があるという、なんとも不安定な関係です。そしてそれはお互いが別の環境、独立した個として育てられたからには必ず起こることであり、仕方がないことのです。けれどホルガの人々は違う。

彼らの思想は共有されており、血が繋がっていなくとも、性格が違っても、根底はお互い何も変わらない。誰かが悲しめば悲しみ、誰かが喜べば喜ぶ。なぜなら互いは自分だから。これ以上に安心できる関係性は家族でさえ存在し得ないのです。

これはダニーにとって、クリスチャンなんかよりもずっと安心できる、新しい家族を手に入れる物語であり、まごうことなきハッピーエンドなのです。

所々に挟まる恐怖演出は“ダニーの心理描写”というだけであり、ホラーとして見ようとするからそこに観客とのズレが生じて、不気味な恐怖が生まれるというわけですね。

長い話になりましたが、最後までお付き合いくださりありがとうございました!

ミッドサマーは恋愛映画だから安心してみてくれよな!



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