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新しい仕事場でウイルスの気持ちが分かるようになった

「おはようございます!」
研修室のドアを開け、挨拶をして自分の席に着く。まだ集合15分前なのに、もうすでに全員が揃って席に着いているみたいだ。みんな早いな…と思いつつ椅子に座りながら時間を過ごす。

やがてやって来たトレーナーから今日の研修の内容についての話を聞き、今日色々な作業を教えてくれるトレーナーの人たちに挨拶をするよう促され、まるで小学校のホームルームのように、大の大人がみんな揃って声を合わせて挨拶をする。「「よろしくお願いします!!」」

軍隊みたいだな、と俺は心の中で思う。みんなトレーナーに少しでも気に入られようと、気持ちの悪い愛想を振りまく。お揃いの制服に、自分がどこにいるのかも忘れてしまうような代わり映えのない殺風景な部屋が、いま自分はどこか別の国、あるいはどこか別の惑星にでもいるのかもしれないという気持ちを彷彿とさせる。

一緒に研修を受けている仲間たち?と一列に並びながら長い廊下を歩き、行けども行けどもまったく風景の変わらない殺風景な廊下を並んで歩いていると、まるで映画の中の、誰かまったく別の人の人生にでも変わってしまったんじゃないかと、すごく不思議な気分になってくる(なんでみんなこのまったく代わり映えのない殺風景な建物のなかで迷わず歩けるのか不思議でならない)着替えの部屋まで行ったら作業に入る前に更に専用の特別な服に着替え、専用のマスクで顔まで覆う。みんな作業中は目しかでていない状態。もうここまでくるといよいよ誰も見分けがつかない。俺は心の中で、一緒に研修を受けている人たちやトレーナーに人にあだ名をつけることでなんとかその人たちが誰かを判断していた。(スノーマン、おしとやかに歩く人、挙動不審、など)


着替えが終わり、しっかりと消毒やゴミを落として準備を整え、最後の扉を開けると扉の向こうにはまるで異世界が広がっている。

見渡す限りの同じ景色。右を見ても左を見てもまったく同じ景色。所狭しと最新の機会やパソコンが並んでおり、そこら中にまったく同じ格好をしている、人なのか、はたまた地球外生命体なのかがたくさんいて、なにかの作業をしているが、なんの作業をしているのかは回目検討もつかない。一体ここではなにが行われているんだろう?秘密の実験か?地球を転覆する作戦が進んでいる?いや、そもそもここは地球なのだろうか?

この中で俺に与えられた仕事は、「なにかの装置をなにかの機会に入れたり出したりする」というもの。1週間も研修を受けたのにも関わらず、この仕事が一体何を意味しているのかも分からなければ、こんなことをしている自分の存在意義すらもよく分からない。もしかしたらこの仕事自体にはなんの意味もなく、ただ俺たちに自分で考えることを辞めさせるためにこんなことをさせているだけなのかもしれない。だが、俺にはそんなことを知るよしもない。

この部屋で作業していると自分がウイルスにでもなったかのような気持ちになる。みんな同じ格好をし、このただっ広い工場内で、機会の指示に従い、機会的な決められた単調な動きで、ひたすらになにかの装置を運んだり出したりしている。生物の身体の中でもこれと同じようなことが起きているんじゃないか。それぞれの細胞が血液を運んだり、必要な栄養素を吸収したり、要らない毒素を分解したりといった仕事を、それぞれの細胞がそれぞれの仕事を持っているように、俺たちも自分の役割をこなす細胞の1つにすぎない。まったく同じように見える細胞にも意識があり、個性がある。身体の大きなもの、小さなもの、せっかちなもの、要領のいいもの、のんびりしているもの、やたら人の顔色を伺っているもの。

すべての物質も同じ。エネルギーも、細胞も、ウイルスも、すべて意識があり個性があり、もっと大きなものを作り、さらに大きなものを作り、突き詰めていくと1つになる。それぞれが歯車の1つとして働いているが、それぞれにちゃんと意識があり、それぞれがそれぞれのために必要な働きをしている。完璧になりたっている。

今夜から本格的にシフトに入る。ここで長い時間を過ごしたら一体俺はどうなってしまうんだろう?自分で考えることをやめ、大きな細胞の1つに組み込まれてしまうのか。歯車の1つの細胞でありながら、意識的に在ることは忘れないようにしないといけないと思う。



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