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渋谷途中下車

仕事帰りに渋谷で途中下車。


ここは日本の若者だけでなく、世界中からたくさんの人がやってくる街。

外国人観光客が動画を撮りながら嬉しそうにスクランブル交差点を歩いている。

日本ってこんなに外国人観光客居たんだな。

これまで日本で見てきた外国人といえば、地方の田舎で労働力として搾取されてる可哀想な東南アジア系の人ばかりだったから、普通に日本観光をしにきてる金持ち外国人観光客とかいたことにちょっと不思議な感じ。

センター街とかプラプラしてみる。

やっぱり同じ東京でも街によって全然雰囲気が違うから面白い。

人混みは嫌いだけど、久しぶりの渋谷の感じにちょっとテンション上がってキョロキョロしている田舎もん丸出しの、仕事終わりで汗だくのダサいおじさん。

なんか皆んなお洒落に見える。

別にそんなことないか。でもこの街の人は浮かれてるってのはあると思う。

看板とかを見ていると、東京の居酒屋とかではハイボールが1杯50円とかで出しているみたいだ。

「ご、50円ですか!?」

「はい!50円から提供させてもらってます!!うちで少し涼んでいきませんかー?」

うたぐり深い俺は、

『1杯50円ってなに?どうせお通しが高かったり、フードを頼まなくちゃいけなくて、そっちが結局高かったりするんだろ?』

と思ってしまう。


それにやたら威勢のいい客引きや、店員さんの元気いっぱいな感じがもう苦手。

だが、仕事の後の一杯を最高のものにするために、午後からはなるべく水分をとらないようにしていた俺。

なので喉はもうカラカラで今にも倒れそう。

だが、結局1人でそんなキャピキャピした店に入る気にもなれず、コンビニで缶ビールを買って店の前に座りこんでグビっと流し込む。

あー、最高に美味い。

仕事の後の疲労感と、たくさん汗をかいた後の1杯目ということも相まってなので麻薬なみに美味い。

1人コンビニの前に座りこみ、恍惚の表情で缶ビールを飲んでるとか結構ヤバいかな?

いや、きっと大丈夫だろう。

この街ではみんな他人のことなんてまったく気にもとめていない。

なんとなく辺りをみまわしながぼーっとしていると、同じようにこの街に馴染めずに、手持ち無沙汰な感じでお酒片手にコンビニ周辺にたむろしている人たちが結構いるからから面白い。

同志たちよ。謎の仲間意識。

「とりあえずなんか腹に入れない!?」

「なんかって…カレーとかっすか!?」

「カ、カレー!?今カレー食べたいの!?」

流石に飲む前にカレーはなくない?と俺も思う。

数ラリーの会話を交わし、夜の街に消えていく派遣と思われる労働者の2人組み。

「火消しは忘れるな!怠慢するな!だって、何コレ、ちょーウケる!!」

「こういう看板ってまじ訳わかんないよねぇ。でか私今日せっかくアイロンしたのにこの暑さでうねうねだよー」

「てかあいつ見て!気持ち悪くない?」

中学生か、高校生くらいの女の子2人でそんな話しをしている。

彼女らもまた、この街に馴染めなくて背伸びしてやってきたんだなぁと思う。

2人はほんとはぜんぜん仲良くないんだろうなっていうのが伝わってくる。まるでお互いが「自分の方がお前より上だ!」と主張しているよう。

そんな会話を聞きながら俺は思う。

「彼女たちこそ、なにも見えていないエリートぶったサラリーマンたちよりも、よっぽどこの世界の本質を理解してるのかもな」


「これからどうします?とりあえずどっか入ろうか?」

「どこでもいいですよ。お任せします」

そんな会話をしているおそらかく雇いバイトとかの2人組み。

中々行く場所が決まらないのか、結局2本目のお酒を買ってきてまだコンビニの前で話している2人をみて俺は思う。

「わかるよ、結局ここが1番居心地いいよな。認めちゃえよ。その方が楽になるぞ」


色んな人間がいるな。

東京、トウキョウ、TOKYO。

大きな荷物を持ったまま街をさまよい歩く人
キョロキョロと辺りを見回しながら歩いている人
久しぶりの友だちと再開に変なテンションになっている人

色んな会話が聞こえてくる。

多分俺は、この世界の人たちを全員知っている。

なぜそう思うのかはわからない。でも、この世界に存在している人たちの気持ちがぜんぶわかる。

過去世の記憶なのか、未来の記憶なのか、それはわからない。けど、俺は今この東京にいる人たちを全員知っているような気分になる。

すれ違う人をみて、昔の自分を思う。

すれ違う人とチラッと目が合って、その人の人生を思う。

「この人ヤバいよー、絶対ヤバい人だって!!」

「あぁ、こいつ陰キャだよ、陰キャ!こいつマジでダサかったから」

「だよねー!絶対そんな感じした!」

そんな会話が聞こえてきて俺は思う。

「世の中にはこんな陰キャもいるんだなぁ」

でも、彼らも俺になにかを気づかせようとして今ここに存在している。

彼らこそ、俺の過去であり未来なんだ。

この世界には自分しか存在していない。


人は自分よりも劣っている人をみて
「自分はこいつよりは上だ!」と安心する。

そして自分より優れている人をみて勝手に落ちこんだりする。

自分で勝手に定義ずけしているだけなのに。その輪廻から抜け出せずにいつまでも同じことを繰り返しては、苦しんでいる。


「お待たせしましたー!ハイボールでーす!」

「ハイボール?頼んでないですよ?」

チッ!

舌打ちしてどこかに行く若い店員さん。

「あのー、頼んでないと思いますけど、でもどうせもうそろそろ頼もうと思っていたのでそれやっぱりもらっていいですか?」

「はーい、〇〇テーブルさん、ハイボールでーす!!」

チッ!

いや、だから聞こえてるよ?君のために注文していないお酒をもらってあげるっていう俺の優しさだよ?

いや、それも俺の傲慢なんだろう。

彼にも彼の思いがある。


ほろよいで夜の街を歩く。

誰も他人になんか興味ない。それでいて、みんなが他人を意識している。

そして俺は思う。

この世界って変なの。この世界は全部幻なんだと。


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