寓話 (0と1.1)
ある山奥に熊の親子の住むお家がありました。
お家には立派な大きなキッチンと、お父さんぐまの作った広々としたテーブルと椅子がありました。
子グマがお家へ帰ってきました。
テーブルには、ご飯の支度がされていました。
テーブルクロスの上に、箸置きと箸。下向きに並べられた椀やグラス、お水の入ったピッチャーグラスもありました。
キッチンでは、大きなお鍋がグツグツと美味しそうな湯気を踊らせ皆のかえりを待っていました。
炊きたてのご飯の匂いもします。
あたたかな湯気は幸せそうに踊っています。
けれど、誰も帰っては来ません。
子グマは、お父さんぐまと兄弟くまを待ちました。
帰ってきません。
待ち疲れた子グマはテーブルでうたた寝をしてしまいました。
夢の中でしょうか
お父さんぐまの声がします。
「きっと帰ってくるから。ごめんよ。」
子グマはかえしました
「ずっとまっているからね」
父さんぐまは
「ずっと待たせてごめんよ。お前のために箸をつくった。弟のぶんもそうだ。お詫びの贈り物だ。使っておくれ。」
「お父さん、お父さん、ありがとう。だけど、みんなでごはんを食べようよ。僕ちゃんと待てるよ。」
「いいんだ。もう、待たなくて。今度は父さんが待つよ。お前のすきな料理を作り、お前のために用意した箸を並べて待つ。けれど、姿は見ることはないだろう。ごめんよ。」
子グマは意味がよくわからなかった。でも、悲しくはなかった。待っていてくれる、それはなんだか嬉しいことかもしれない。そう思ったからだ。
「さぁ、さあ、料理が冷めてしまうよ。お前のすきなロールキャベツだ。食べたらまた行きなさい。」
「お父さんは?」
「ここは、お前の待つ場所じゃないんだ。ここは、お前を待つ場所なのだ。
お前は、いつでも来れる。そして、いつでもお前のために作ったご飯を用意して待つからね。」
目が覚めると、向かいに弟のクマがいました。
「早く食べようよ。冷めちゃうよ。食べたら僕はまた出かけるよ。」
「うん。食べよう。僕もそうしたら、ここを出るよ。」
お父さんの作ってくれたどんぐりの木のお箸。
ローリエの葉っぱの乗ったロールキャベツ。
ここは、ぼくの家。
僕を、私を、あなただけをお父さんが待つ場所。