0と1  第四話 言葉と距離

二人は窓際の2名席に向かいあって座っていた。

外の銀杏並木が程よく色づき始めている。

モンブランケーキを君が目を細めて、しっかりと幸福の味を堪能している。

ストレートのダージリンをゆっくりとポットからしずかに注ぐ0。
細い指先が白い陶器に添えられるとぐっとその無機質さと対照さをます。それは一つの美しさだ。1はそっと視線を外しながら思った。

「で、彼女とは今後も付き合っていくわけ?」
「付き合わなきゃ行けない。だろうね。」
けらけらと半ばふざけ気味に答える1に、一つ深呼吸する。
0はつとめて、心臓側のほうから声をねじりだす調子でかえす。
「なら、覚悟して付き合うべきでは?」

「・・・。」
1はじっと0の瞳を覗き込むように前かがみに距離をつめた。
「・・・。」
0はそのまま言い放った調子のまま、まっすぐ1を見つめる。
瞳が瞳に重なる。

お互いのレンズが一つのポイントで重なる。

午後4時前の晩秋の弱々しい西日が0の方の瞳に差し込む。

そのまま無言の二人。
時々まっすぐ見返してくる1の瞳には何時も葛藤の色が燃えてゆらめいている。
「どうでもいいんだ」

1は言う。

決してそれが答えでも、求めているものは他にあるのだろう。すこし恨めしそうに暗く映しだす瞳の奥の影。
けれど、きっとそれは私がおもうよりずっと広大な範囲なのだろう。

そういうものに対して、あえて「どうでもいい」と言い放つ執着心さえ潔く放り投げすてよう・・・と言い聞かせている。

いいえ、そう願っているんだろ?

投げれらない、抱き続ける葛藤に、1の瞳は素直に揺れていた。

なぜ?

自由に好きにやりたいのに?投げられないなら私たちはこの関係を投げやっていただろうに。もっと前に。


「どうでもいい?」
なら、なんで呼んだんだ?私がいなくてもいいじゃないか?
それは声には出せなかった。

私が聞きたいのは、1のどうやって生きて生きたいか?こころから望む自身のあり方を聞きたいのだが。
言葉足らずの私にはうまく質問するセリフも引き出せない。


言葉なんて、こんな時になに一つ役に立たない。


1の本心は別だろ。


「別れろ。とでも私が言うとでも?」
「・・・。」
「あなたの人生でしょ。自分で決めればいいじゃない。」
「本当にどうでもいいんだ。けどあの子が大切じゃないわけじゃない。幸せにしたいとも思う。けど、考えれば考えるほど幸せを与えられる自信はない、気がしてくる。」

「だから、付き合い続けると?」
「言葉の契約みたに聞こえて、僕には考えるほど、考えることさえ無意味に思えて。」

「・・・。」
言ってる意味はなんとなく声の響きで意味をキャッチするものの、苦しさがどことなく匂ってくる。
瞳をまっすぐ1にあわせる。

真っ黒の瞳が揺れていた。

葛藤の色。

苦痛の香り、しずかな葛藤の色、あきらめの音。

言葉は何の為にあるの?


0と1は向き合ったまま。1は遠くを見やる。

紅茶はまだ暖かな湯気をゆらしていた。

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