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おーん。
2022年1月20日 22:55
0は後ろから肩を叩かれた。振りかえると、小柄で、人の良さそうな顔つきの女性が立って居た。淡いグリーンのワンピースにネイビーのジャケットを羽織り、にこやかに微笑んでその人はいた。「0さんですよね、穂村かぞえさんご存知ですよね。」0は何か嫌な予感を感じた。「はい、母ですけど。」疑うような眼差しで、その女性を見つめる。細い目の隙間から黒いレンズが0を捉えて佇んでいた。「娘さんの
2022年1月10日 20:45
私は4時半にいつも起きて、ハタキかけし、床を乾拭きする。薬缶にたっぷり水をはり、蓋をはずして8分以上火にかける。白湯を作る。子供のときからの習慣だ。といっても、祖父母と生活していた間の習慣だ。あの頃に、あの場所に戻りたい。祖父母がいて、山に広い空に、身近に感じた生き物の気配のする世界に。風が力強く吹き抜け、太陽を落ちていくのを見ていた。なんの邪魔もなく見渡せる高原の空と山の境
2021年12月28日 22:36
「ねえ、新しいワンピースこのオフホワイトのかボルドーどっちか、迷ってるんだよね。1はどっちのが好き?あたし、1の好みに全然あわせるよ。」1はスカーレットの色についてぼんやりと考えて居た。暖かく、鮮やかさより深みと融合を感じる赤。それについて考えていた。マリの声に遮られても、考えは中断しなかった。俺は、あまり赤って好きじゃないんだけど。なんでこんな事を考えて居たのか?「ちょっと、
2021年12月24日 21:32
訪問者は日常の外側にいる。けれど何時もそこに居る。片方の手のひらを差し出し、虚空のなか打ち合う音を聞く時、我々は同じ空間にいる。隻手。その境地にいる者なのかもしれない。僕らは、見ようとする。何時も絶え間なくある音を聴くのも忘れて。音は純粋な情報だ。見る事よりも先だ。音は形をつくる。作られたモノを僕らは見つける。そして心が動くように思う。心は、音を聞いた瞬間に分かっていた