スネフェルの成長と決別をここに記す
とうとう見てしまった「ファラオの墓〜蛇王スネフェル〜」
前作からスネフェルに傾倒していた私がどうなったのか……想像に難くありませんが、それはもう大変なことに。
自分でも戸惑ってしまうほどに魅力的なスネフェルという人物のドラマが見られる今回の舞台。
感想と、このやり場のない感情を書き記すことで成仏させていこうという文章になります。
以降はネタバレありで話をしていきますのでご留意の上お読み進めください。
スネフェルという人間
孤独と愛に飢えた心
本作はスネフェルにフィーチャーしているのもあって、前作から演出も大きく異なっています。トキの語りから始まって、最初に印象づけられたのはウルジナの王スネフェルの残虐性です。サリオキスの行方がわからないという報告だけで自らの臣下を切り捨てます。むごい。これは‘17年のファラオの墓ではなかったもの。短気ですぐに力に訴える像を強めたのは、そこに相反する孤独さを際立たせたいからなのではないかと考えます。
暴君で自分を顧みない、すでに死した父。そんな父を憎み、子である自分にも愛を向けることない母。
幼いスネフェルの心はさぞ痛み、いろいろなことを諦めたのだと思います。そして、子供にとって自分だけを見て時間を使ってくれる「会話」を最も多くするであろう両親は、スネフェルにその機会を与えなかった。自分は愛された人間なんだと感じて生きることはできなかったでしょう。対話を通して感情をすり合わせる、かよわせる経験が極端に失われたスネフェルがどうしたかというと、力を行使するのですね。
愛されなかったというコンプレックスは、その心の空白を両親を真似ることで自分に投影させます。
好戦的で人を屈服させ、結果にこだわるのは父に。愛を諦めて心を閉ざし、自分だけの世界で生きようとするのはメリエトの影響を受けているように思えます。
ただやはり。スネフェルは愛に飢えていた。
なのでアンケスエンに無理に迫ったりもしました。相手の気持ちを慮ることをせずの行動になるのでバッドコミュニケーションですが、スネフェルなりの婚約者への歩み寄りですね(スネパパも無理やりメリエトを妃にウルジナへ連行してきましたが、そんなとこまで似なくていいのに)。
アンケスエンもまた悲しい過去を持っていて「およそ生きたる人はだれも愛したことなどありませんわ」とか言ってのけます。愛に懐疑的で、ケス大臣という自分の利だけしか頭になく国政を食い荒らす親の姿に、未来のウルジナを憂いています。だからこそスネフェルも自国の王としてしか見なかった。
親が仕組んだ策略に反抗したいという点で2人の気持ちは一致していましたが、パートナーとしての相性は終着点が違いすぎていまひとつですよね。
そんな寂しさを掬い上げてスネフェルが初めて愛した人物がナイルキアになります。
ナイルはただのスネフェルを好きになりました。そこに打算も怯えもなく、命を助けられた恩と孤独を救ってくれた優しさを感じています。そりゃ好きになるよな。
どれも今までスネフェルが得られなかった人からの真心に、深く深く恋に落ちていくのは自然なことです。
言葉・感情・行動の変化
スネフェルの言葉の遣い方は断定が多いですよね。相手のことを決めつけて話します。
「母上は俺のことを愛するはずがない」「〜しかない」「〜に違いない」「〜だろ」のような言葉の端が多いように感じました。それも前述したように周囲の人間がスネフェルとのコミュニケーションを避けたため、察することしか許されなかった状態がそうさせた。スネフェルの発言を文字に落とし込んだ時に「なんて傲慢なやつなんだ!」と思うかもしれませんが、私は不安な気持ちを払拭するための言動に思えてなりません。
スネフェルは誕生からナイルとの出会いまで味方がいませんでした。
これまでスネフェルを守ってくれていたものは、親などの身近な大人でも、民からの信(前王もめちゃくちゃやっているので国政に対する不信感は多いと推察します。反抗したら処刑されるので表面化していないだけで)でもなく、王という立場だけでした。だからアンケスエンに口付けしようとして拒否された時に「なぜだ、婚約者ではなかったのか」とここでも立場を出してくるんですよね。スネフェルにとっての正解がそれにしかないのが悲しい。
舞台でも重要なシーンで、そのスネフェルの性格を色濃く映したのが「幸せ」についてだと思います。
初め、スネフェルは幸せを「勝つこと」だと言いました。敵に勝って強くなること、それが幸せなのだと。それも父親に教わった通りに現在の戦を続けるスネフェルの行動になっているとすれば、健気ですよね……。
ですがナイルキアは、幸せとはたわいもないものだとスネフェルに言います。そしてそれが美しい花を見たり、音楽を聴いたり、笑って誰かと楽しいおはなしをしたり、美味しいものを食べることであること。愛する人と一緒にいることだったり。今までにスネフェルが知り得なかった世界を広げてくれたのです。これこそがスネフェルを成長させる大きな要因となりました。
メリエトの腕に抱かれているスネフェルが「子供のように」と自らのことを歌いますが、これまでの気に入らないものは全部やってやるバイオレンスイヤイヤ期から、対話というものを覚えました。
ナイルを自らの手で儚くし「幸せ」を確かめるように繰り返して、言葉にしてメリエトに愛を伝えるこの一連のスネフェルの動きによって、言葉と感情と行動が結びついたのが象徴的です。ここの人間としての成長が綺麗に描かれていて……特に心に深く刺さるシーンですよね。
メリエトが息子が愛する者が出来たという祝いに花を持ち、スネフェルが自分が殺したと告白することで地面に落ちたというのも「たわいもない幸せ」が失われたことをよく表現した演出だったように感じます。
満ち足りた「幸せ」と愛
両親に愛されず、臣下には裏切られ、愛するものを自ら手にかけ、最も自分が誇る武で敗北。
彼はその一生に「幸せ」を感じられたのでしょうか。
サリオキスと剣を交えるそのとき、スネフェルは現れた幻覚に縋るように、自分を斬って刺さった剣をも厭わずその元へ手を伸ばします。その最期は王としてではなく、ナイルが愛したスネフェルとして息絶えました。それはスネフェルにとっての幸せはもう勝つことではなく、愛する人と一緒にいることであるのを教えてくれます。この成長スペクタルを見届けられたところで物語は幕を下ろしました。
ナイルキアとの出会いはたしかにスネフェルの孤独な渇きを湧き出す泉のような幸せで満たし、最期まで守り通しました。そこに愛し愛される「幸せ」を得たのではないでしょうか。
石田亜佑美さんとスネフェル
これまでは「スネフェル」という人物について語ってきましたが、ここからはそれを演じた方のことをお話しするターンです。
まあなんといっても……
顔がいい(直球すぎる)
いや、ねっ、アイドルですからそういうものだとはわかって今までも見ていましたよ?しかしやっぱりかっこいい。
石田さんってとても綺麗な瞳をなさっているじゃないですか。それにスネフェルの眼光の鋭さが足されてもう美。
正直ファラオの墓を通して私はスネフェル様が好きなのか、石田亜佑美さんが好きなのかわからなくなっていました(これがはつこいーのしょうじょう)。いやいや私の推しは小田さくらさんただひとり!だけど来る日も石田スネフェルが頭から離れない日々を過ごします。
狂気の中に怯えが隠れていたり、諦めの中に愛を求める期待が入り混じる視線の作り方が本当にすごくて……ちょっと生々しかったくらい。おめめがゆらゆらきらきら動くたびに「ああ、きれいだな」と涙していました。
最終的にこの気持ちは、とても共感しやすいキャラクターだったもので影響を受け過ぎてしまったのだと自分の中で結論づけました。
うわ〜〜生でスネフェルに会いたかったなぁぁぁぁ!!!!当時観劇された方が羨ましいや。
やっぱり私は石田さんのお芝居が好きだな〜〜と改めて感じさせられましたね。
小田さくらさんとナイルキア
ここにきてようやく推しの話。笑
まずはやっぱり、かわいいですよね(ド直球)
小田さんって普段120%かわいい!を自分から意図してされない……してくださらないイメージでしたので、役としてかわいいを全面に押し出した子を演じてくださって、間接的に不足していた栄養を補給できました。
前作のサリオキスから、ナイルキアと振り幅がすごいです。
小田さんを推している身としましては男性役は普段とは遠い役柄を演じられるので、その表現やお姿を見ることができて大変嬉しいのですが、声の調子やより小田さんの良さが生きるのは本作のような役なのかなぁと感じました。
愛のために身を賭す女性を演じるのうますぎる問題。
もしやそのような経験おありで?と聞きたくなってしまうような「らしさ」を醸し出せるのなんでなのでしょうね。シルベチカ然り、ローズウッド然り。ここの役作りはどうされているんだろうな〜知りたいな〜の気持ちでいっぱいでした。
と、同時に。自分にも警鐘を鳴らしておかねばなの気持ちにもなりまして。お芝居もそうですが歌唱の時にもこの表情、この感情は何を意識してどこから得たのだろう?となんでも疑問に思って理解したいと思ってしまう質なのですが、それがかつての先輩方の姿とか演出家さんのアドバイス、アニメや漫画の創作物から来ているうちはまだセーフとして。これが実体験。主にプライベートに関わることでの経験であった場合、そこは私にとって不可侵領域でありたいので、なかなか見極めが難しいぞ〜となっていました。共感やのめりこみがすぎると、どんどん視野が狭窄していくので、アイドルとしてお見せいただいている以上に分かりたいとなる知識欲を満たさないよう気をつけます(自戒の念を込めて書きました)。
加賀サリオキスにノリノリで「お兄さま」をして。
再会したスネフェルに照れながら「会いたかった」と身を寄せ。
光のない目で裁判の沙汰を見守り涙する。
大いに感情を揺さぶられながも、見ていてとても楽しかったですし。幸せを感じました。
あとは前作に比べて語るような舞台歌唱の進化をとても感じました!
どうしても歌のメロディーに寄ってしまいがちに聞こえたのが、この一年の間にさらに良いものを届けようとする心意気……さすがです。
まとめ
登場人物全員を語り尽くしたい気持ちは山々ですが、今回はこれで終わりにしておきましょう。
スネフェル様への想いは無事に供養できたのではないかと思います。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
また演劇女子部やってくれ!!!!!!