見出し画像

ファラオの墓の呪縛から抜け出せない

 演劇女子部の視聴もこれで3作目。
 LILIUM、TRIANGLEと悲劇や悲恋を演じるモーニング娘。さんのお姿にもそろそろ耐性がついた頃とばかり思っていたのに。
 だというのに、見終わった後の私の様子はどこかおかしくうわごとのように1人の人物の名前を呼ぶばかり……。
 すっかりある人物に心を奪われてしまった恐ろしい作品『ファラオの墓』

 今回はその感想記録を残します。
 以降は劇と原作の両方のネタバレありで話を進めていくので、ご留意の上お読み進めください。



感想







 こちらが視聴直後の感想。
 メインキャストの3名は感想を後述することになるので一度置いておいて。

 どこまで原作設定が舞台上に引き継がれているかは明言されてない以上、定かではありませんがはじめに劇で受けた印象より各キャラクターの年齢はだいぶ若かったです。ユタなら17歳(すっかり成人した大人をイメージしてた)ですし、ナイルキアは12歳です。

 野中さんのナイルキアは好演だったのではないでしょうか。演技、歌唱、果てはハープの演奏まで。なんでもこなしてしまう野中さんすごいな。
 原作よりは大人にナイルキアを演じられてるように思えます。国のために身を賭す高潔さとそこに滲む諦めは、歳も重ねた観客である私の視点ではうんうん納得だねとなれても、12歳の恋をした少女の想いでは物分かりが良すぎる。それが王族なのか……。

 飯窪さんのネルラは、見て「なんでここまでできるのに今まで演劇女子部に本格参加してないんだ」とかえってこちらが動揺してしまったくらい笑
 現在の飯窪春菜さんは主に舞台俳優として芸能活動されているようですので、あれから本職になっていると思うと感慨深いですね。

 そしてアンケスエンを演じた譜久村さん。知識欲はあっても理性と立場で全ての行動が取られているバランス感覚がよかったです。興味関心のある対象以外には無機質で、王族の気まぐれとも取れる態度の出し方が自然でした。

 加賀さんが演じられたイザイは殺陣が綺麗でしたね。劇中アクションが多く絡んできたので、ここのクオリティの向上に多大な貢献をしていたように思います。やはり身のこなし方がいまひとつだと急にごっこ感が出てしまうので。

 佐藤さんは自分から遠いところにいるユタを演じるにあたって、たくさん考えられたのだろうなと感じました。おそらく佐藤は台詞を言葉でなくて音で覚えるタイプの方なのかな?と思っているのですが(憶測です)、ユタは状況説明も多いし、俯瞰した物言いが多いから役の理解を深めるためにどうされたのか、気になるなぁ。

 場を和ませてくれるシーンを多く作り出してくれたアリパビコンビの牧野さん横山さんも可愛かった。映像にも穴掘るシーンで客席からの笑いも入っていたし、シリアスが続く話の中での息継ぎを担ってくれてました。

 アクロバットもこなす敵方のマリタの生田さん。
 物語を大きく転換させる尾形さんのジク。
 そしてルーを演じた羽賀さん。そこを変わって欲しいぞ!(スネフェル様に仕えたい)


ファラオの因果


 主軸となるのはサリオキス、スネフェル2人の王を取り巻くあれこれ。
 祖国の復讐王家の血の継承であったり、腐敗した内部構造からの逃避、許されざる恋。
 端的にまとめれば王としての葛藤が物語の大事なファクターになっています。
 劇ではW主演の形をとっていますが、この構造上スポットライトがメインに当たるのはサリオキスになっているような気がします。
 サリオキスは故郷の壊滅から親も殺められ唯一の血統を守る使命。そして圧倒的に不利な状況からまた争いを自らの意志で始めるか。妹ナイルキアの命と復讐。敵国の王妃と自らの恋心どちらを取るか。
 常に選択に迫られ犠牲を生みながらも、最終的にはスネフェルを討ち本懐は果たされました。

 対するスネフェルはというと、人の命を軽視した無責任な暴力と子供の癇癪のような思慮の至らなさで、善悪の判断もせずに行動に移します。
 先代のファラオと比較されては愚王だと言われ、国の政には興味を示さなかったために空っぽの内部で甘い蜜を吸いたい権力者の操り人形と化しました。が、憖っか武力という膨大な力がある以上人々は逆らえず、スネフェルは攻撃によって人の関心を引きたがり、ただの力関係が残されて支配だけが広がってしまいます。
 そしてそんな自分にコンプレックスを抱いているからこそ、純粋な出会いを果たしてこんな醜い自分を知られていないナイルキアと深い恋に落ちてしまうのです。
 愛に飢えていたスネフェルは不器用すぎる好意を示したところ、王としては軽率すぎる判断を重ね、結果があれ。

 ほんっと……ばか。

 ルー何やってるんだ。主人が愚策を弄する前に上手いよう事を運ぶんだ。
 ――とまあ、心の声が漏れてしまいましたが。結局スネフェルが求めたものは王家の権力の誇示でもなければ、民の繁栄でもなく、ただただ己の愛のみ。そりゃサリオキスとの差も出ますよというところで全てだったナイルキアを失った時点で自暴自棄になりバットエンド。王としては点すらつけられないお粗末さ。

 妥当な結末です。

太陽の神殿編・砂漠の月編

 2パターン公演でキャストの変化があります。
 太陽の神殿編ではサリオキスを工藤遥さん、スネフェルを石田亜佑美さん、サライを小田さくらさん
 砂漠の月編ではサリオキスを小田さくらさん、スネフェルを工藤遥さん、サライを石田亜佑美さんが演じます。
 工藤さんはこの演劇女子部の公演を最後に俳優としての道を進んでいくためご卒業が発表されていたので、堂々のメインキャスト二役に抜擢されていますね。残すところを分け合うように石田さん、小田さんの配役となりました。

 ストーリーで言うと大筋……というより人以外の変化はないのかな?
 セリフもじっくり精査したわけではないので確証はありませんが、おそらく同一のはず(違ったら申し訳ない)。
 今回はモーニング娘。のメンバーさん全員がご出演の舞台になっていて、お三方以外は皆さんどちらも同じ人物を演じられています。

 演劇女子部にて配役が変わるというのはファラオの墓の1つ前『続・11人いる!』でも行われていたようなのですが、不覚にも視聴していないので(飛ばしてしまったため)今回が初めての経験。優劣はつけられないのですが、せっかくなので比較はしていきたい。

 小田サライは粗暴な感じを表現しようとしていましたね。これも濁声で演技プランはここからだったりするのかな?なんて考えてました。普段の物腰柔らかい小田さんの雰囲気とは離れた役柄だったので、歩き方や姿勢への意識が向いているのも伝わります。

 石田サライは調子のいい性格とコミカルな動き、そして小田さん演じるサリオキスへのつっかかり方などうまい具合にはまってましたね。

 工藤スネフェルはナイルと出会う前の冷酷さ際立つ人物像と取り方だったように思えます。感情を失ってる故の自己中心的な行動がよく現れていました。リリウムでのファルスでも感じましたが破滅的な役柄を演じる時の思い切りの良さがありますよね。高笑いに慣れている。

 石田スネフェルはそれより人間味のある人物に見えました。根底に愛されなかった劣等感があるんです、石田スネフェルには。それゆえに、その弱さを隠すために力を誇示して虚勢を張ります。だからこそ、そこから生まれる寂しさや孤独感が際立っていました。好き。

 小田サリオキスはなんと言っても声がいい笑
 これは私が小田さんのお声が好きなことが多分に含まれてるとは思うのですが、少年声を演じる女性声優さんとか元々好きだったので(聲の形やキノの旅の悠木さんとかね)、「うれしい……ありがとう」になってました。
 小田さんご自身もこの声色の作り方はこだわってそうだな〜とも思いましたし、ときには演技に乗る感情すらも声の使われ方を優先されてコントロールしているのかな?とも感じ取れました。
 そしてなんといっても歌唱シーンの安定感はさすがですよね。ノイズなしに世界観をお見せいただける贅沢さ。伸びがあってまっすぐな音はサリオキス自身の性格を表現されているようでした。

 工藤サリオキス。工藤さんは無鉄砲な青年役に縁がありますね〜(トライアングルでもアサダがそうだった)。得意なタイプの役柄なのかな?
 敵役演じる石田さんとは同期ですし、遠慮ない攻防も白熱していましたね。元々が低めのハスキーボイスで、そこでも無理なく男役を表現されていました。原作を読んでいると、舞台上での行動よりも序盤のサリオキスは弱気で悲観的なモノローグが多かったりします。このあたりの苦悶の表現が工藤さんはお上手だなと思って見ておりました。


スネフェル

 そうです。私は石田さん演じるスネフェルにすっかり魅了されてしまいました。
 推しの小田さくらさんというものがありながら、太陽の神殿編ばかりに手が伸びる不届き者です。
 もうスネフェル様が幸せになるために、なんで私はあの場にいれなかったのかと悔やみます(ルーそこを変われ)。漫画やアニメ作品読んでると、オタクなので「壁になりたい」とは思うことしばしばだったのですが、今回まさかの「モブになりたい」欲に出会いました。ここにきてまさかの夢小説への理解を深めることになるとは……。人生何があるのかわかりませんね。

 どうにかしてあのアルコールに逃げる癖をやめてもらって、健康的な生活を送っていただきたい。
 サリオキスが砂漠の鷹として同胞たちと楽しい盃を交わしている頃、スネフェルは1人で飲んだくれている。
 例えるなら「今月ちょっと厳しいんで」と言っても「いいよ俺が飲みに行きたいだけだから」とご飯に連れてってくれる気前のいい先輩に恵まれたサリオキスくんと、初めて大学でできた彼女とのなかなか返ってこないLINEのトークルームを遡りながら自宅で1人チューハイを煽るスネフェルくんくらいの差がある。
 孤独に慣れないで、量ではなく美味しく嗜める空間を大事にしてお酒は楽しまれてください。
 スネフェル様、人間ドックも受けて。

 愛されてこなかったスネフェルは、いざその愛を手に入れかけると一直線。
 暴君と呼ばれているのに狡猾さはないの……ピュアかよ。守ってあげたかった。命も、お心も……。愛するナイルキアとの婚姻を草葉の陰からでもいいから見届けたかった。

 だめです、限界です、助けてください……。
 これ以上書いてもスネフェル様への気持ちが溢れるばかりなので自粛します。

まとめ

 このあと視聴予定の続編は石田さん演じるスネフェル様が主役らしいのですが、果たして私は無事で済むのでしょうか。
 スネフェルが罪な男なのか、石田亜佑美が罪な女なのか、もうわかりません。
 かろうじて意識が残っていればまた感想を残せればと思います。

 現場からは以上です。

いいなと思ったら応援しよう!