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【タンザニア珍道中 #3】 広大なタンガニイカ湖をボートで行く

マハレにたどり着くにはキゴマからの長い湖上の旅が待ち受けている

前回の記事では、タンガニイカ湖を走る世界最古の定期船「リエンバ号」について紹介しましたが、多いときでも週に1回しか運航していないので、毎回この「豪華客船」に乗って行き来するわけにもいきません。私たち研究者にとって、キゴマとマハレの間の湖上ルートは、船外機付きのボートを使うことがもっとも多いです。今回はこのボートの旅についてご紹介します。


世界最古の定期船・リエンバ号の記事はこちら。


現在は、2010年に購入したグラスファイバー製のボートと、1990年代から使っている40馬力の船外機があり、キゴマからマハレまでは、天候が良く波が穏やかなら5~6時間くらいで到着します。それでも、ボートが小さいため、ちょっとでも波があると速度を落として走ることになりますし、ボートの中まで波しぶきが入ってくることもあり、そうしたときにはずぶ濡れになりながら何時間も耐え忍ぶことになります。雨が降ったりすると、もはやある種の「修行」のような趣になり、かなり悲惨な旅になってしまいます。

ファイバーボートは小さいので多くの荷物は積めないがその分スピードが出るしガソリンの消費も少ない
ただしめっちゃ波をかぶってズブ濡れになることもしばしば

それでも現在のファイバーボートはまだ快適な方で、私が初めてマハレに行った2002年当時はまだ木製のボートを使用していました。湖岸に住んでいる人が多いこともあり、近くの村には船大工がいたので、購入した大量の木の板を使ってボートを建造してもらうのですが、木造船の建造は長いときには半年くらいかかる大仕事でした。まず竜骨部分を組み立て、木の板を隙間なく張り巡らしていき、最後に木の板の間に残ったわずかな隙間にヤシ油をしみこませた綿を詰めて水の浸入を防ぐ、という工程で、できあがったら村から大勢の人を呼んできて、人力で押して進水させていました。それでもやはりどうしても板の隙間から少しずつ水が浸み込んでくるので、しばしば水をバケツなどで掻い出しながら航行していました。

2002年当時の木造船(ワトト号)の外観
木の板の隙間から浸水するのと大雨とで、しばしばこうして木造船は水没してしまう
完全に底板が壊れて沈没したファナナ号
このあと浜に上げて船大工に修理をしてもらった
2004年に建造した新船・ワクシ号

キゴマで多くの物資を購入してマハレに持ち込むこともあり、木造船は大型のものを作ることが多かったのですが、船外機は高価なので大型のものを買うわけにもいかず、馬力の小さい船外機を使うしかありませんでした。そのため、当時のボートではキゴマを夜明け前の6時頃に出航しても、マハレに着くのは夜中の12時過ぎてから、ということもありました。大型のボートなので波しぶきを浴びる心配はほとんどないのですが、波に揺られて船の縁に寝転んだまま18時間というのはまた別種の修行の趣がありました。マハレに到着してからも、しばらく「陸が揺れている」ような感覚が続いたまま、疲れ果てて眠りについていました。

2002年当時の木造船の中の様子
大量の荷物と便乗してくるたくさんの人々を積んでマハレへの長旅に出航する
2004年10月、1年間滞在したマハレを去る
やはりボートはぎゅうぎゅう詰め

当地には日本のようなきめ細やかな天気予報はありませんし、出航してみないと波の状況や天候の移り変わりはわからないので、このボートの旅の快適さはかなり運に左右されます。私自身はこれまでは比較的運に恵まれていた方だと思いますが、人によっては荒天に遭ったり、途中で船外機が故障してしまって動けなくなったり、ひどい船酔いになったり、といったこともあるようです。2012年に松本卓也さん(京都大学大学院生/現・信州大学)と一緒にボートでマハレに行ったときは、ボートに乗っている間ずっと波しぶきを浴び続けてほとほと疲れ果ててマハレに到着し、私にとっては「自分史上最悪のボートサファリ」だったのですが、松本さんいわく「これまでで最高に近い」とのことでした。事ほど左様に、マハレへの道中では人によってさまざまな経験をするものなのですが、そうした各々の「珍道中」の詳細は、またいずれこのコーナーで披露してもらうことにしたいと思います。


初出:マハレ珍聞(マハレ野生動物保護協会ニューズレター)、第23号、「マハレ珍道中」 第3回、2014年


動物研究者の自伝シリーズ <新・動物記> を編集しています。 

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