うえとした

とにかく必死な日々。何も自分にはないという思いが増していく日々。

毎日習い事をたくさんしていた。

バレエ、ストリートダンス、習字、ヨガ、ピラティス、絵、

睡眠なんてあんまりとっていなかったと思う。

習い事にいけなくなるような用事ができると

不満だったし不安になった。友達ともそんなに遊んでいなかった

遊び方もわからなかった。家族ともほとんど話さなくなってた。

そして父親が病気になっていて、本当に悪くなっていることも

何も気づけなかった。

東京でたいしたこともしていないのに、何かをやっているつもりになって

自分の思い通りにならないと不機嫌で不安定な小さな人間だった。

その生活では3か月に一度事務所の中で芝居の試験があった。

いつも試験に落ちていたから今度は本当に合格すると決めて、

人生で初めてっていうくらい力んだ時があった。

そして試験に合格した。

その試験の時は芝居をしていて全てがクリアだった。

演技してるというより勝手に体がその役をやっていたし、

勝手に悲しくなって涙が出ていたし

勝手に言葉を発していたし、自分の姿も見えていたし、

すべてが勝手に起きているのに全部をコントロールもできる

そんな感覚で芝居をしていた。

そこにいる審査員の先生、見ている人全ての視線が居場所が

クリアに感じた。不思議な感覚だった。とにかく全部が見えていた。

その試験のあと、たくさんの人に今日の芝居が良かったと言ってもらえた。

一番尊敬する先生からは「お前、芝居の意味わかっただろ」と言われた。

なんだか自分が嬉しかった。そしてこれからもっと頑張ろうと決めた。

そして頑張っていた。

そんな生活の中で、突然母親が父親のことを

もう1ヶ月くらいしか命がもたないって言った。

大きな手術をして良くなっていると聞いていたのに

なんでそんなことになるのか意味がわからなかった。

その時のことはあまり覚えていないけど、

その瞬間、今まで自分が何年もやってきたことの全てが

無意味なことだったって感じたのは覚えてる。

テレビから聞こえる言葉や周りにあるもの全てが無意味で

色がなくて虚しくて哀しくて全てが要らなくなった。

どんなものも、言葉も、好きなものも、何も要らなくなった。