#020_【ボトムライン・メンタリティ】制度でBLMを抑制することができる?(#7-16)
この論文の目的は?
ボトムライン・メンタリティ(以下、BLM)は非倫理的行動を引き起こしたり、やる気を失わせたり、足を引っ張りあったり、大体いいことがない、というのが先行研究の結果。
だからこそ、組織内でのBLMの発生をどのように緩和するかを理解することは非常に重要である。そのためには、BLMの先行要因についての理解を深めることが不可欠である。
先行研究が従業員の個人差に焦点を当てているのに対して(例えば、Eissa et al.)本論文は、上司のBLMの先行要因に光を当てることによってBLMの文献を拡張すること。
POINT1. モデル図
モデルはシンプル。組織的公正の認識が倫理の制度化に影響を与え、上司のボトムライン・メンタリティに影響を与える、というもの。
「不公正だと感じれば、他者に対して道徳的な扱いはしなくなる」⇔「公正だと感じると正しいことを行うことが組織により期待され、評価される」はずだ、という社会的情報処理理論が本論文のベースとなる考え方になっています。
POINT2.組織的公正・倫理の制度化の認識
組織的公正に対する認識は、組織の公正さに対する総合的な評価。個人的な経験と他者の経験に対する認識の両方がある。(Ambrose & Schminke, 2009; Holtz & Harold, 2009)
倫理の制度化は、組織と組織の代表者が意思決定プロセスに暗黙的・明示的に倫理を組み込む度合いとされる(Singhapakdi & Vitell, 2007; Vitell & Singhapakdi, 2008)
倫理を暗黙的に組み込むとは、倫理的期待が暗黙のうちに示され、重要であると理解されることを意味する
倫理を明示的に組み込むとは、倫理的期待が曖昧さなく正式に表明されることを意味する
(Singhapakdi & Vitell, 2007; Vitell & Singhapakdi, 2008)
倫理の制度化には、組織の管理職が倫理研修プログラムを定期的に評価し、組織の誠実さを確立することが必要である(Singhapakdi & Vitell, 2007; Vitell & Singhapakdi, 2008)
これらによって上司のBLMが抑制されるはず、というのが本論文の根拠です。
POINT3.組織でBLMを抑制するには・・・
先行研究がマキャベリズム(Eissa et al., 2019)や感情的疲労(Rice & Reed, 2021)のような個人差を先行要因として対象としているのに対して、本論文は組織的公正の認識と倫理の制度化をBLMの先行要因とする研究でした。
多くのビジネスリーダーは、自分自身と自社のために優れた結果を出すことを望み、精力的かつ一心不乱にボトムラインの成果を追求している。(Mesdaghinia et al.) このメンタリティが問題なのは、マネジャーと従業員が互いを同僚ではなく敵対者とみなすようになるからである(Greenbaum et al.) さらに、この勝者総取りのメンタリティは、パフォーマンスに悪影響を及ぼす(Quade et al.) そのため、利益追求のはずなのに逆効果となってしまう。したがって、組織がBLMに伴う欠点を回避したいのであれば、倫理を制度化することが重要である。
感想
これ、まさに私が研究したいことそのものでした。
この論文で指摘されているように個人の先行要因の研究は多いのですが、パーソナリティやスタイルに依存しており、仕組みで解決する、という視点が足りない。実務としては「誰をリーダーにアサインするか」は確かに重要ですが、性格で判断するのでは限界もある。
やはり「仕組み」で解決する、のが人事の役割の一つでもありますよね。
制度は「人そのものを変えるよりも汎用性も高く、人に依存しない」と私個人は考えています。
自分の研究にも実務にも役に立ちそう。