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#018_【ボトムライン・メンタリティ】財務指標だけじゃない?!トップだけじゃない?!とってもこわーいBLMのお話。(#7-7)
Greenbaum, R. L., Mawritz, M. B., & Zaman, N. N. (2023). The construct of bottom-line mentality: Where we’ve been and where we’re going. Journal of Management, 49(6), 2109-2147.
この論文の目的は?
ボトムライン・メンタリティのレビュー論文です。
ボトムライン・メンタリティ(以下、BLM)とは、「競合する優先事項をないがしろにし、最終的な成果を確保することを中心に展開する1次元的思考」(Greenbaum, Mawritz, & Eissa, 2012: 343)好ましい結果だけでなく、好ましくない結果とも関連しています。
BLMをリーダー、従業員、チームのカットからそれぞれレビューしています。
まだまだ研究が深くなされていないと言われているものの一つで、非常に参考になります。
POINT1. リーダーのBLM
トップマネジメントやリーダーのBLMは最も研究されている属性です。
リーダーのBLMは、フォロワーに明らかな組織目標達成のためのリーダーの選択した戦略を表していると考えられます。また、リーダーのBLMが最も研究されている背景として、従業員、ひいては組織全体に対してより広範な影響を与える可能性があるためだと考えられます。
社会的認知理論:従業員の認知状態や行動(社会的学習、道徳的離脱など)に影響を及ぼす可能性のある潜在的なプロセスを幅広くカバーする理論。つまり・・・リーダーのBLMが従業員のBLMに影響を与え、従業員が条件付きで良い行動と悪い行動の両方に関与するという学習効果を支持している。
社会的情報処理理論:人は社会的文脈に適合するために自分がどのように振る舞うべきかの指針を環境(リーダーを含む)に求め、社会的文脈に適合する態度や認知を採用する、という理論。つまり・・・リーダーのBLMが従業員の仕事上の文脈に対する認識を形成し、その認識が条件付きで組織の良い行動と悪い行動の両方に影響を与えることが示唆される。
社会的交換理論:互恵性の規範に依拠しており、社会的交換において、ある人が他の人に社会的資源(例えば、支援、情報、公正な扱い)を提供すると、他の人も同様の肯定的な社会的資源でそれに応えると主張する(Cropanzano &Mitchell, 2005)。つまり・・・従業員の行動に好ましい影響も好ましくない影響も与えうることを示唆している。
資源保存理論とストレス理論:資源保全理論(COR; Hobfoll, 1989)は、個人には仕事上の要求に対処するための感情的、心理的、身体的資源が一定数あり、仕事上の要求が強すぎると、これらの資源が減少する。
ストレス理論:従業員が心理的に仕事から切り離すことが難しいために、リーダーのBLMがWFC(Work-Family -conflict)をもたらすことを実証している。
これら二つの理論から、利益を優先するリーダーと仕事をすることの難しさを指摘しており、それがストレスの心理的指標とそれに対応する結果を助長している。
※BLMは悪いことばかりではない?!
上司のBLMが低レベルから中レベルになるにつれて、従業員の業績は向上するが、上司のBLMが中レベルから高レベルになるにつれて、この効果は逆転し、業績が低下することを発見した。(Zhang, Zhao, and Chen (2022))
その他
リーダーの目標重視型リーダーシップ行動と負の関係にある(Rice and Reed (2021))
従業員の非人間化(人間としての資質を剥奪されたと感じること;Haslam, 2006)を促進し、組織が従業員中心の人事慣行ではなく組織中心の人事慣行を支持していると認識させることを発見した(Tseng(2020))
従業員が最終的な目標に強くコミットするように促し、その結果、従業員の労働努力と援助行動が強化されること、そして、このような間接的効果は、集団主義志向の高い従業員ほど、より高い可能性がある(Chen, Zhu, Liu, Mao, and Gao (2022))
ここまで見ていくと、「いいこと」と「悪いこと」があるよ、と言われています。が、概ね悪い影響の方が大きそうです。
ではどうしたら??前回のレビューで公正性による防止について触れていますのでご参考までに!
POINT2.従業員のBLM
従業員のBLM研究はリーダー層のものと比べると限定的とのこと。
Negativeな面
好ましくない結果とも好ましい結果とも関連している。
同僚を社会的に貶めることと正の関係があり、この関係は良心性と中核的自己評価の高い従業員ほど弱い(Greenbaum et al.)
シチズンシップ行動の減少(Eissa, Wyland, & Gupta, 2020)
同僚からの知識の隠匿の増加(Zhang, Huang, Chen, & Xie, 2021)
Positiveな面
組織の心理的安全性が高ければ、従業員の安全行動を高めることができ(Sun & Ren, 2021)、従業員のBLMは従業員の仕事のパフォーマンスにプラスの影響を与えることができる(Zhang et al.)
先行要因
パーソナリティ:マキャベリズムや良心性の低さはBLMを促進する
資源保存理論:仕事の役割ストレス要因が、従業員に仕事の努力を集中させ、資源を保存するためにBLMを採用させることを示唆
役割:役割葛藤と役割過負荷はBLMに関係し、役割曖昧性はBLMと関係がない
まとめると、やっぱりこちらも「いいこと」と「悪いこと」があるよ、と言われています。が、概ね悪い影響の方が大きそうです。
POINT3.グループのBLM
グループBLMは「グループのメンバーが、競合する優先事項を排除して、最終的な成果を達成するという唯一の焦点を共有している」ときに発生するものと定義されています。
グループを対象として検討されている研究はありますが、そのほとんどが従業員の心理的評価という観点から検討されています。つまり個人レベルで測定されている、ということです。
ここはまだまだ研究としてはホワイトスペースですね。
BLMの源泉(すなわち、リーダー、従業員、グループ)に関して重要な点は、各源泉がBLMのトリクルダウン効果を介して互いに関連している可能性があるということ。そして、BLMがトップから始まり、組織階層を下っていき、複数の階層にいる人々の心に浸透していく可能性が大いにあることを認識することは、アカデミックの世界でも実務家にも非常に有益な視点だと言えます。
感想
なかなかリッチなレビュー論文でした。
個人的には将来の研究への示唆という点で、ボトムライン・メンタリティは財務指標や経済的豊かさ、ということだけではなく、「特定の目的のために近視眼的・狭小的になってしまうこと」とされている点が興味深かった。
例えば、COVID-19の経済や教育よりも生命を優先させる、というのもそうでしょうし、STAP細胞の件とかも、社会的名声なのか学術的地位なのか、そういうものもボトムライン・メンタリティの概念の中には含まれる、ということ。
そして、世界はとても複雑だということ。
一つの結果に焦点を絞るという単純な行為が、成功の定義を狭めてしまい、より複雑で多義的な世界の現実と一致しない、過度に単純化された思考や意思決定を体現しているということかもしれない。
人はエゴを捨てられない。
だからこそ、BLMを知ることは非常に重要だな、と改めて感じました。
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