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ハロウィーン彗星に何があったのか~広角分光コロナグラフが見た事実

「ハロウィーン彗星」と呼ばれる彗星をご存じでしょうか。アトラス彗星(C/2024 S1)のことで、10月末にかけて夜空に現れる可能性があったことから「ハロウィーン彗星」と呼ばれるようになりました。

アトラス彗星(C/2024 S1)は2024年に発見された長周期彗星の一つで、2024年9月27日にアメリカ合衆国・ハワイ州のハレアカラ天文台で行われている小惑星地球衝突最終警報システム (ATLAS-HKO) によって発見されました。クロイツ群に属する彗星である可能性があり、太陽の至近距離にまで接近するサングレーザーに属するとみられています。発見当初の仮称は A11bP7I でしたが、同年10月1日に小惑星センター (MPC) により発行された小惑星電子回報 (MPEC, Minor Planet Electronic Circulars) にて正式に彗星であると認められ、現在の名称が付与されました。

彗星といえば、ハレー彗星を覚えている人も多くいると思います。ハレー彗星は1986年を最後に地球から見えることはなく、次回は2061年となります。公転周期が75.3年ですか、人生で2度見ることは少ないので、当時は世界中で観測ブームになりました。しし座流星群など天体ショーはいくつかあり、それほど珍しいものではありませんが、公転周期が長い彗星の観測は何度もできるものではありません。その分、彗星観測のチャンスがくると世界中で報道されます。

アトラス彗星は太陽に接近した数日後、肉眼でも見えるようになり、ハロウィーンの10月31日までには金星よりも明るくなる可能性があると期待されていました。しかし、それは実現しませんでした。

10月28日、太陽に最も近づく近日点に達したところで崩壊し、太陽の表面から約120万キロの地点で溶けてなくなってしまったらしいのです。それを示唆する画像が、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が共同運用する太陽観測衛星「SOHO(SOlar and Heliospheric Observatory)」から届き公開されました。彗星が崩壊したとみられる様子は、地球を周回するSOHOに搭載された広角分光コロナグラフ(LASCO/C2)という装置にとらえられました。

この装置は太陽の光球を遮蔽する円盤を備えており、太陽に接近する天体を撮影できます。アトラス彗星は28日、太陽から約120万kmの距離で近日点に到達しました。先月末~今月に壮大な天体ショーを見せてくれた「紫金山・アトラス彗星(C/2023 A3)」の太陽との最接近時の距離が約5800万kmだったことを考えれば、アトラス彗星は太陽に極めて接近したことがわかる。これは彗星にとって致命的ともいえる近さだといえます。

太陽に近づきすぎたアトラス彗星は分裂し、「コマ」と呼ばれる頭部を失いました。米アリゾナ州フラッグスタッフにあるローウェル天文台の天文学者チーチェン・チャン博士は「ここ数週間、C/2024 S1が分裂する様子を観測している」「分裂のプロセスはまだ続いているようだ。つまり、彗星はまだ完全に崩壊していない」と説明されました。分裂した彗星の核の残骸は、おそらく近日点を生き延びることはできないと思われています。「最良のシナリオとして、非常に細長い尾が11月初旬の朝空に見える可能性はある」とチャン博士は語りましたが、最も可能性が高いのは、彗星が砕け散り、11月には「ほとんど何も」見えなくなるという展開だともいわれています。

今回の観測で使用されたコロナグラフとは、日食時以外に太陽のコロナを観測するために考案された観測装置です。焦点面に明るい太陽を遮る円盤を置いてすぐ近くの暗いコロナの観測を可能にします。瞳位置には太陽の回折光や散乱光を遮る絞り(リオストップ)を設置して太陽光の減光率を高めることができます。SOHOの広角分光コロナグラフは、視野が入れ子になった3つの太陽コロナグラフ(C1、C2、C3)で構成されています。

C1 -ファブリ・ペロー干渉計コロナグラフ
太陽半径の1.1倍から3倍の範囲を撮影できます。

C2 - 太陽半径の1.5倍から6倍の範囲を撮影した白色光コロナグラフ(オレンジ色)

C3 - 太陽半径 3.7 から 30 までの白色光コロナグラフ画像 (青)

最初の主任研究者は、ギュンター・ブリュックナー博士でした。これらのコロナグラフは、光学システムを使用して事実上人工の日食を作り出し、太陽コロナを監視します。白色光コロナグラフ C2 と C3 は、可視スペクトルの大部分にわたってコロナの画像を生成しますが、C1 干渉計は、非常に狭い可視波長帯の数でコロナの画像を生成します。

この広角分光コロナグラフは太陽に関する研究に大きな成果をもらたしており、太陽表面をかすめるほどに接近する彗星を5,000個以上発見し、その様子を捉えた画像が公開されています。その優れた性能による今回の悲しい事実を見つけてしまったのです。

日本では衆議院議員総選挙、アメリカでは大統領選挙の間にあるハロウィーンを彩るはずの天体ショーは潰えました。特に知識がなくても、大きな天体ショーは見る人に高揚感を与えると思います。日本は政治に対して暗いイメージが残っている状況でしたので、ハロウィーン彗星で少しでも国民の気分が晴れやかになればいいなと期待していただけに非常に残念でなりません。国民を明るく照らす光が早く表れることを祈ります。

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