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水素化マグネシウムとは?~持ち運べる水素の未来

「水素化マグネシウム」というものをご存じだろうか。あまり聞きなれない単語だが、今かなりの関心を集めている。

2025年1月28日&29日の2日間にわたり「カーボンニュートラルテック・フェア」および「名古屋水素技術フェア2025」と銘打って、名古屋商工会議所で展示会とセミナーが開催された。「名古屋から未来へ!水素エネルギーで新産業の扉を開こう」というキャッチコピーで開催された「「名古屋水素技術フェア2025」には最先端の水素技術を開発する8社の企業が出展。その会場で、水素を安全にかつ大量に貯蔵、運搬が可能な素材として、新マテリアル「水素化マグネシウム(MgH2)」が出品されていた。

実は、2022年の「第18回FC EXPO 水素・燃料電池展」で、簡単・手軽・安全に水素を取り出せるコンパクトな水素キャリアとして今後の活用が期待されるのではないかということで「水素化マグネシウム」がすでに出展されていた。あれから2年あまり。「水素化マグネシウム」を開発した「バイオコーク技研」と、化成品・セメント・電子材料などを製造販売担当する山口県にある「トクヤマ」の合同ブースとして今回のこの名古屋での展示会での出展となった。

「水素化マグネシウム(MgH2)」とは、分子量26.32、CAS番号7693-27-8で表される物質で、密度は1.45g/cm3、融点/凝固点は100℃となる。水素吸蔵合金の一種で、水と反応させることで簡単に水素を取り出すことができる。軽量かつ安全性も高いため、手軽にコンパクトに水素を貯蔵・輸送することのできる次世代の水素キャリアというわけだ。水素化マグネシウムには次のような特徴がある。

・水と反応させることで簡単に水素を取り出すことができる。
・加水分解することにより、貯蔵している水素の2倍の水素を生成することが可能。
MgH2 + 2H2O ⇒ 2H2 + Mg(OH)2
・常温・常圧で安定しており、高い安全性。 ※消防法に非該当(15μm~)
・水素吸蔵合金の中では非常に軽量で、安全な貯蔵と安価な輸送が可能。
・アンモニア(NH3)を超える高密度(単位体積当たり)の水素貯蔵が可能。

「水素化マグネシウム」は「水」を加えることで化学反応が起き、「水素」と「水酸化マグネシウム」が生成される。前回の「FC EXPO」では、この発生した「水素」を燃料電池ユニットへ送り込むことで発電し燃料電池車を走らせることができるというものだった。水素の発生と同時に生成される「水酸化マグネシウム」は回収後に加工して再び「水素化マグネシウム」に戻すことができるのでリサイクルが可能だ。

「FC EXPO」のときには、「FCEVを製造する気はない」と話されていたので、この技術の展開がどうなるのか期待をしていた。現在もさまざまなプロジェクトが水面下で進行しているようで、FCEV関連についてはまだ発表できるものではない、という状況のようだ。

今回の出展では、FCEVよりももっとシンプルな、気球などへの活用例が展示されていた。気球は気温の降下とともに浮力が低下していくのだが、そこで水素を供給することで再浮上させることができるというものになる。実際にこのプロジェクトを進めているのは「GOCCO.」というベンチャー企業で、こちらでは成層圏で実験などを行う活動や、災害時の上空からの調査などにバルーンを使用するプロジェクトを進めている。そして、現在進められているプロジェクトに使用するリアクターも展示された。そのリアクター部分はペットボトルを加工したもので、これを回転させることで「水素化マグネシウム」に水がかかる極めて簡単な仕組みだった。もう1度ひっくり返して水を分離させれば反応はすぐに収まるため、この回転操作で水素の発生を細かく調整することができるというものになる。圧力管理はほぼ不要で温度管理のみを行うシンプルな構造とすることができるため重量増も抑えられ、長期のフライトを実現させるそうだ。

また、自動車関連では、「水素化マグネシウム」を使用する新たな展開の紹介もあった。それが「内燃機関への添加剤」というものでした。MgもH2も燃焼効率を上げることによって水素混焼でも燃費削減(10%前後)や排ガス削減(10〜20%)に寄与できるという提案だ。すでに各所でのボイラーでの実証データや、ディーゼルエンジン車両での燃費向上やDPF(排ガス浄化装置)のつまりが減少するなどの効果が得られたとしており、さらにガソリン車でのデータでも燃費の向上と排ガス検査での排ガスの削減(燃焼室内のクリーニング効果)が得られたとしている。

安全に水素を持ち運べる「水素化マグネシウム」だが、決してニッチなものではない。今回の「バイオコーク技研」だけでなく、「富士フィルム和光純薬」「新第一塩ビ」「ナイカイ塩業」「エネショウ」など日本国内だけでも多くの企業が研究・開発している今注目の物質なのだ。実際にクルマに載せて走るFCEVに乗れる日はまだ先になりそうだが、「水素化マグネシウム」の使用用途としては、水素貯蔵材料だけでなく、民生用用途として、水素水、水素風呂、入浴剤、美容・理容用途などへの適用も進められている。近いうちに身近な商品として手に取る日がくることは間違いない。今回の出展でもバイオコーク技研から「近いうちにまた何かしらの発表ができる」ということでしたので、これからの発表にも期待したい。

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