見出し画像

NPUとはなんなのか~AI時代における内助の功

生成AIが普及し、2024年になりAI搭載PCの販売が増えてきています。Microsoftの提唱する「Copilot+」に準拠したPCが、店頭を埋め尽くす場所もあります。iPhoneで有名なAppleも、自社AIである「Apple Intelligence」を利用できるデバイスを前面に押し出しています。

A18搭載のiPhone16、M4搭載のMacBook Proなど最新SoCは従前の処理能力向上だけでなく、AI処理にも対応していることを1つの特徴としています。iOS18.1で「クリーンアップツール」が使えるようになったのも「Apple Intelligence」の恩恵です。(同じ処理はAndroidではすでに可能ですが)通常のSoCにとって、AI処理は非常に重い処理になりますので、手軽に利用できるレベルではありませんでしたが、AI処理に特化したプロセッサを搭載することでスマホでも利用が可能になりました。それが「NPU」です。

NPU(Nural Network Processing Unit)とは、AIの演算処理に特化したプロセッサです。従来のCPUやGPUが汎用的な計算処理を行うのに対し、NPUは特にニューラルネットワークの演算に適した技術で、AIの処理を高速化する役割を担います。AI技術が進化する中で、ディープラーニングや機械学習といった複雑なアルゴリズムの処理が不可欠となっています。これに伴う計算負荷を効率的に処理できるのが、NPUです。並列処理に優れており、画像認識や自然言語処理などのAIタスクはもちろん、画像生成などの生成AIを高速に実行できます。高い効率性を実現した結果として、AIの処理時間を短縮し、より迅速なデータ処理を可能にしています。今後、スマホやタブレット、自動運転車など様々なデバイスにNPUが搭載されるでしょう。NPUを搭載したPCにAIが搭載されることで、AI PCがより身近で高性能なものになると期待されています。

NPUの特徴として、「AI推論のローカル処理」が可能になる点が挙げられます。生成AIで有名なChatGPTやStable Diffusionがオンラインサービスであることからもわかるように、AIの推論処理を行う際、クラウドサーバーに依存するケースが多く、ネットワークの遅延やセキュリティリスクが課題となっていました。NPUを利用することでパソコンやスマホといったデバイス内部でAIモデルを活用できるようになり、リアルタイムでAI処理や推論を行うことが可能になります。これにより、インターネット接続が不安定な環境でも高速で安定したAI処理を実現できます。また、プライバシー保護の観点からもNPUは有効です。AIが処理したデータが外部に漏れにくくなり、セキュリティ面においても従来より安全性が高まることが期待されます。これは、エッジAIと呼ばれる考え方です。

PCやスマホなどに搭載されるプロセッサには他にもCPU、GPUがありますが、NPUと何が異なるのでしょうか。CPU(Central Processing Unit)は、汎用的な計算処理を行うコンピュータの中心的ユニットを指します。全てのコンピュータの基盤となっているシステムで、複雑な計算処理が得意としており、幅広いタスクに対応可能です。GPU(Graphics Processing Unit)は並列処理に優れており、従来は画像データの処理に特化していましたが、CPUほど汎用性は高くないものの、グラフィックス処理、大規模な並列計算、ディープラーニングのトレーニングにおいて高速で処理することが可能です。CPUはシリアル処理が得意なため、並列処理を可能にするためにマルチコア化が進みました。GPUは描画処理を主にして作られていますから並列処理が得意で、動画編集などにも利用されています。これらに対して、NPUは学習ではなく推論に特化し、AIの演算処理、特にニューラルネットワークの処理を専門としたプロセッサとなっています。AIモデルの推論を効率的に実行するために設計されており、大量の行列計算や畳み込み操作を高速で行うことが可能です。これにより、AIの高度な演算処理を最小限の消費電力で実行できます。CPUやGPUは多用途に利用されるプロセッサですが、NPUはAI専用のプロセッサとして圧倒的な性能を発揮します。

AIの処理に特化したNPUをコンピュータに搭載することで、さまざまなメリットが得られます。

1. NPUでAI処理を行うことで、CPUへの負荷を大幅に軽減することが可能です。
これまでAIの推論処理はCPUやGPUで行われていましたが、これらの処理は計算負荷が高く、他のタスクの処理速度に影響を与えることがありました。NPUは、このような負荷の高いAI処理を専門で担当するため、CPUは他の画像処理などに対応できるようになり、効率性が向上します。マルチタスク環境でも安定したパフォーマンスが維持できるのが、NPUの特徴です。

2. CPUやGPUといったプロセッサは汎用的な設計であるため、AIの複雑な計算を行う際には多くの電力を消費します。しかし、NPUはAIの推論処理に特化しており、AIデータの処理において効率的に電力を使うことが可能です。このため、モバイルデバイスや組み込みシステムなど、バッテリー寿命が重要なコンピュータシステムでも省電力を実現しつつ、高性能なAI機能を維持できます。

3. NPUはデータ処理をデバイス内部で完結させる能力を持ち、AI推論をローカルで実行できるため、クラウドにデータを送信する必要がなくなります。これにより、外部からの攻撃やデータ漏洩のリスクが大幅に減少します。また、デバイス内での処理により機密性の高いデータや個人情報を外部に出さずに済むため、プライバシー保護の面でも安全を確保することが可能です。NPUはローカルな環境でのAI処理を実現させ、セキュリティの強化に貢献します。

4. NPUはニューラルネットワークの演算を高速かつ効率的に処理できるため、リアルタイムでのデータ解析や推論が求められるAIアプリケーションの性能向上に不可欠な技術です。NPUによって、画像・音声認識や自然言語処理が正確に動作するようになります。また、NPUの高い演算能力により、複雑なAIモデルの運用も可能です。これまで実現が難しかった高度な機能やサービスを、NPUが展開できると期待されています。

5. NPUを搭載することで、AI機能をオフラインでも利用可能なデバイスに組み込むことが可能です。従来、AIの高度な処理はクラウドに依存していましたが、NPUの導入によりローカルでのAI推論が可能となります。これにより、インターネット接続がなくてもスマートフォンやIoTデバイス、車載システムなど、さまざまなデバイスでAI機能を利用できます。例えば、オフライン環境での音声認識や画像解析が求められるシーンでも、NPUがあれば正確な処理が可能です。

このように、NPUはデバイスの利用シーンを広げ、AI技術をより使いやすくしてくれます。本格的なエッジAIの実現に、NPUは欠かせない技術です。特にPCでの活用事例が多く、今後NPUを搭載したAI PCが普及することが予想されます。

MicrosoftやIntel、マウスコンピューターなど、大手企業がNPU搭載のAI PCの開発に注力している事実は、この技術が今後のコンピューティングの中心になることを示唆しています。1995年に日本に入ってきたインターネット技術は当時特別な技術でしたが、今ではPCやスマホだけでなく、TVや冷蔵庫などの家電にIoTとして搭載され、スマート家電といった呼称が生まれるほど当たり前の存在になりました。今はまだ特別な存在のAIも、数年後にはIoTのようにAI搭載が当たり前の世界になることは間違いありません。AI普及の陰にはNPUの働きがあり、AIの高度化に伴い、NPUの性能向上も必要とされます。今後のNPUの発展により、どのようなAI時代がくるか楽しみでなりません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?