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多様な時代の学生のメンタルのケア

今日は、非常に辛い話題ですが、「学生のメンタルヘルス及び自殺」について取り上げます。大学の教員をしていて、指導していた、あるいは一緒に活動していた学生の自殺ほど辛いことはありません。近年、特にコロナ禍でまた深刻さを増している問題です。

私自身の経験では、日本の大学で勤務していた時に、部活動を通じてよく一緒に活動していた学生が、自らの命を断ちました。その時は、私は既にオーストラリアにいたのですが、自殺の1ヶ月前にもメールでやりとりをしていました。知らせを聞いて、「あの時のあのメッセージは本当は何か救いを求めていたのではないか。何かしてあげられることはなかったのか。」と何回も考えました。もちろん答えてくれる相手はいないのですが、今でもその学生の事をよく考えますし、救えなかったことを悔しく思います。「自殺」というと、引きこもりがちな学生と結びつけて考えられる事がありますが、その学生は大学の成績も良く、部活動でもリーダー的な存在で、先輩、同級生、後輩からとても慕われていました。今では「メンタルヘルス」という言葉が一般的に使われるようになりましたが、「メンタルヘルス」は本当に人の心だけでなく体をも蝕む要因であり、重く受け止めなくてはなりません。

まず、「学生の自殺」についての、現在の状況を理解したいと思います。


(厚生労働省、自殺対策の基本的な枠組みと新型コロナウイルス感染症の感染拡大下の自殺の動向等の分析より)/https://www.mhlw.go.jp/content/r4h-2-3.pdf

世界的に見ると、自殺死亡率は横ばいあるいはいくつかの国では上昇している(アメリカ、カナダ、最近ではイタリアなど)事が分かります。日本は平成を通して特に20−24歳のグループで平成23年まで上昇し、その後減少したものの、また令和に入って上昇しています。

令和3年のデータを見ると、死亡学生数の半数以上が自殺であることがわかります。

(文部科学省「令和2年度大学における死亡学生実態調査及び自殺対策実施状況調査の結果について」)(令和4年2月24日公表)https://www.mext.go.jp/content/20221223-mxt_gakushi01-000020503_3.pdf

そして、自殺者の中では、男性で学部生が圧倒的に多いことが分かります。さらに、この調査では、自殺と新型コロナウィルスとの関連を調べていますが、「不詳・未確認」が約95%となっています。また、保健管理施設の関与(すなわち、大学の保健関連のサポートや同等のサポートサービスが利用されたか)については、「関与なし」が83.1%となっています。


(文部科学省「令和2年度大学における死亡学生実態調査及び自殺対策実施状況調査の結果について」)(令和4年2月24日公表)

そして、「推定される自殺の背景」は、76.1%が「不明」となっています。普段学生の悩みを聞いている立場から私が思うことは、そもそも、社会の多様性がどんどん拡大している今、学生の悩みも多岐に渡ります。背景は1つではなく、色々な要因が絡みあって悩みが雪だるま式に大きくなっていくのではないかと考える方が妥当だと思います。「学業不振」や「進路に対する悩み」は、ずいぶん前から、学生の悩みのトップ2と言えるものですが、自殺を実行するに至るまでには、そこから色々な悩みが派生して、学生のメンタルヘルスを冒していくのです。

例えば、「学業不振」は、奨学金をもらっている学生にとっては、「今の成績では、来年は奨学金をもらえないかもしれず、生活が苦しくなるかもしれない」という「生活苦」に繋がっていきますし、「進路に関する悩み」は、「親子関係の悩み」とも繋がっていたりします。例えば保護者が望んでいる職種は自分は興味がないのだけれども、それを選ばないと、保護者に申し訳ないから、本当は他の仕事に興味があるのに保護者の意志を尊重するとか、本人は望んでいないけれども、地元に戻ってきてほしいという保護者の希望を聞かざるをえない、などです。こういったことが「学業不振」や「人間関係が上手くいかない」などに繋がってしまうと、負のスパイラルに陥ります。

そして、こうした悩みを気軽に相談できる相手がいなければ、どんどん自分で悪い方に悪い方にと考えてしまうのも、まだ経験が少ない学生の特徴です。今は学生間のコミュニケーションはSNSが主流です。表情が見えない文字のやりとりは、相手の気持ちを理解するのには限界があります。仲の良い友人だと「会って話そう」と言ってくれるでしょうけれど、今は皆アルバイトなどで忙しいですので、最初のやりとりはLINEということになると思います。悩みが重くなっているような時に限られた文字だけで相手に状況をうまく伝えるのはそう簡単ではないでしょう。

SNSの弊害も、メンタルヘルスには関係すると思います。例えば、自分が落ち込んでいるときに、SNSで友人のキラキラした様子を見て余計に落ち込むとか、SNSによる意見交換で勘違いがある、何気ない一言が中傷と受け止められてしまう、などの可能性は否定できません。(ただ、この件に関しては、大学生に関する確かなデータが見当たりませんでしたので、これ以上言及することは控えます。)

私が1月5日に投稿した「​​​​なぜ研究者は海外(日本国外)に行くのか?」で、大学教員の業務は多岐に渡る、と書きました。そしてそれが研究時間が確保しにくい要因になっているとも書きましたが、こういったメンタルヘルスの問題を抱える学生のケアも業務には含まれます。しかし、これはやはり優先度の高い業務と私は考えます。なぜなら、命に関わるからです。メンタルヘルスに関しては、教員による理解が統一されていないという問題がありますが、決して甘くみてはいけない問題です(例えば、当大学では教職員の研修があり、私も大学を通してMental Health First Aiderの資格を持っています。)


(Mental Health First Aider証です)

メンタルヘルスの問題を抱えている学生からは、何かしらのサインが発せられていて、気をつけていると分かる場合がほとんどです。
ではそういった「サイン」はどんなものか?

1.講義中、俯いて聞いているような感じがしない。他の学生と交流しない。表情が暗い。
2.講義に出てこない。
3.課題の提出が遅れる(そしてこの件に関する連絡もない)。
4.全く連絡が取れなくなる(周囲とのコンタクトを絶っている可能性がある。ここまで来るとかなり深刻な状況である可能性があります)。

ここまで読んで下さってありがとうございます。この先の有料部分ではこの課題に対する私なりの答え・考え、そして最近読んで面白かった本をご紹介します。

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