マースカニンガム、シナリオへの考察、こぶドレスが魅せた新しい美のかたち
モダンダンスの巨匠マースカニンガムは、
多くのアーティストとのコラボレーションで数々の印象的な作品を残した。
その中でもわたしが大好きなのが、デザイナー川久保玲の衣装と、照明を含む空間デザインによる、scenario(シナリオ)という作品だ。
COMME des GARCONS 1997年春夏のコレクションで発表した作品〈Body Meets Dress, Dress Meets Body〉にインスピレーションを受け、97年にニューヨークで初演された。
この衣装になったドレスは、ちまたではこぶドレスと呼ばれている。
舞台はシンプルな白壁に白いフロアー。天井にはフロアーを機械的に照らす蛍光灯の照明。ダンスの照明で蛍光灯って、揺らぎがある上に細かい光の調整やスポットが出来ないから、相当斬新らしい。
無機質な空間に、異形な衣装をまとったダンサーたちが踊る。
空間とは対照的に、ダンサーたちの身体はある意味コミカルで、その白いキャンバスに異様に浮かび上がる。
https://youtu.be/MBlzeehZIeE
Merce Cunningham / Scenario
こぶドレスが当時、パリコレでファッションとして発表された時点で、業界は結構ざわついたんだけど、別にパリコレだからって、美しいものを発表しなきゃいけないって言うルールはなくて、ファッションを通じて問題提議の場所にする場合だってある。コムデギャルソンが発表したコレクションのコンセプトは、“身体と服の相互の束縛を解き放つ”だった。
ようは、洋服ってこうあるべきだって誰が決めたの?っていう根本のところへの問題定義。
物議を醸し出したけど、彫刻的なこのドレスは、とてもポエティックで、造形美と捉えることも出来る。
男性のダンサーが、胸やおしりのあたりに膨らみのあるドレスをまとっていたり、
肩や背中が非対称に膨らんだ奇妙なシェイプのドレスで踊るダンサーたちは、自分たちが普段踊る時には感じない、ある種のハンディキャップを抱えながら踊ることになる。
制限された中でうまれる動きは、動く側しかり、観る側にも新しい発見がある。
わたしたちの身体自体は、もともと完全なる左右対称な訳じゃないけど、ダンサーがこのドレスを着ることによって、360度、毎秒変わるそのシェイプは、その事実をさらに誇張する。
身体がどう動くかって、自分たちが意識しているよりずっと複雑で、思い描いているよりずっとおもしろい。
20年以上前に作られたこの作品を2021年に観ても、全く色褪せていない。単純にそこがすごいと思った。
前回の投稿でマースカニンガムは、
人の考えは変わるし、繰り返しのループの中で、出来るだけ色々なやり方を試みている。
と言っていることに触れたんだけど。
そんな彼の挑戦によって、価値観を変えられた人がこの世界にたくさんいることは、疑う余地はないだろう。