
海外で働く日本人パタンナーの経験値への考察
パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨーク。ファッションの街には必ず日本人パタンナーがいる。ここアントワープも然り。
日本人は真面目で働き者だから。。。
でもたぶんほんとはそんなシンプルな理由だけじゃない。
たしかに日本人は黙々と言われた事をこなすし、世界が認める独特な美的感覚を持っている。
もし言語がそれほど得意じゃなくても、創るという過程を通してコミュニケーションが取れる。洋服が、言葉を代弁してくれる。
でも、一番の理由はきっとこれなんじゃないかなぁと思う事がある。
海外で働いているパタンナーの多くはこちらに渡る前に、ただただひたすらに日本で働いてきた経験がある。24時間営業のコンビニ並みに、何時でも、何曜日でも。
22歳だったわたしは、服飾の専門学校を卒業して、目標にしていた企業に入社出来た。そこから四年間、脇目も振らず、寝る間も惜しんで、毎日が勉強で、毎日が刺激的で、時には泣いて。
この期間で、自分のベースとなるパタンナーとしての哲学を学んだ。
たまにボスからテキーラのショットがブーストされたり(愛情)、同僚たちと、もはや週8くらいの勢いで夕食を食べに通った小料理屋では、みかねた女将さんが毎回デザートをサービスしてくれた(愛情)。
凝縮された100パーセントコンセントレートのオレンジジュースより濃厚で甘酸っぱかったこの四年間、“勉強“した実際の実務時間を換算すると、計算上約二倍になる。つまりわたしは、四年間で八年分の経験値を稼いだのだ。
当時、25歳で退社しベルギーに渡ったわたしの実務経験値は、単純計算すると、29歳相当の欧米人の経験値にあたる。そしてまだまだ若く、やる気に満ち溢れている。
この計算方式でいくと、日本で10年の経験がある人は、海外では20年相当の経験値になる。
日本人パタンナーの技術が平均してとても高いのは、経験値が実年齢に対して飛び抜けているから。言語習得もそうだけれど、若いうち(キュリオシティが高い時)に勢いよく学んだことは、自分の土壌で力強い根を張る。条件の良い悪いは抜きにして、日本はやる気のある若い技術者を育む環境は抜群である。
“真面目”の奥底にある、服作りに対する負けず嫌いや頑固な性格。経験値があるから適応力も高い。
そんな魅力のある大勢の日本人パタンナーが、世界各国で、今日もせっせと服を作っている。