タイムカプセルへの考察、15年後の自分への手紙
本棚から出てきたスクラップブック。
長い間見返すことなく忘れていたけど、13年前に日本を出たとき、一番大切なものとしてスーツケースに入れてきた。約15年以上前の自分が、当時読んでいた本の中から、その時漠然とこころに残った言葉たちを切り貼りして集めたものだ。本のページをコンビニでコピーしてきたものをコラージュしていて、糊が劣化してところどころが剥がれてきてた。
知らない間に年季が入ってた。15年前の自分は、その多くの言葉の意味を今よりも理解していなかったと思う。
ただ、選んでいた全部の言葉が、いま自分が必要としている言葉たちだった。
過去の自分は、今のわたしに向けて、慎重に言葉を選んでいた。まるでわたしが何を想っているのか全て知っているかのように。
わたしが一番好きだった言葉は、今も一番好きな言葉だった。
15年間大事にあたためて、届けに来てくれた昔のわたしへ、ありがとう。
「いつもいつも次に来る季節が好きだ」
好きな色は何、と聞かれて返事に困った。
行きたい場所はどこ、と聞かれて、わからなかった。
すぐに返事ができないことが多くて、優柔不断だと落ち込んだ。
でも、好きな色がないのではなくて、好きな色という質問が、うまく理解できなかったのだ。
好きな空の色ならうすい青だし、好きな服の色なら白。好きな地面の色は草原の緑。
好きな水の色は透明。嫌いな色があるのではなく、嫌いな組み合わせがあるだけ。
行きたいのは、国ならアイルランド。夕方なら海。星ならオリオン星。夢なら恋人。
なりたいのは、考古学者。なりたいのは、やさしい人。なりたいのは、テニスの試合でアドバンテージをとれる人。なりたいのは、海の近くに住む人。なりたいのは......。
いつも、次の角を曲がったところで、もっと素晴らしい出来事に会えるような気がしてる。
明日になれば。次の休みは。これから出会う友だちは。来週は。こんど買う服は。この次の試験は。次の恋は。
だから、
季節といえばいつでも、次に来る季節がいちばん好きだ。
銀色夏生
Balance